第90話 帰宅
「ダイク兄、見て!もう採っちゃってもいいんじゃないかな?」
ロゼは畑でさつまいもを掘り返していた。
「本当だ。すっかり忘れてたけど、さつまいもをまだ収穫してなかったね。」
家に帰ってくるなり、ロゼは俺の手を引いて畑まで連れてきた。
結局、ヴィドたちの村は朝早くに出発してきた。
干物づくりは村に丸投げとなってしまったが、村の人たちはやる気満々であった。
ある程度の魚を置いてきたが、あの様子ではすぐに無くなってしまうだろう。
滝の裏の洞窟に入れるのは当面、ビクターのみとした。
村人はビクターのことを色眼鏡では見ておらず、働きに期待しているようだった。
何かあれば、ヴィドとアルが鬼蜘蛛の森を訪ねてくることになっている。
もちろん俺自身も、森で干物づくりを試してみるつもりだった。
「あら、帰って来たばかりなのに収穫作業をしているの?」
家の扉が開き、ルバークが出てきた。
「ルバークさん、見て!こんなに大きくなったから収穫するんだよ!」
ロゼが蔓を引っ張ると、ごろごろと大きなさつまいもが姿を現した。
「すごいわね、ロゼ君。ちゃんと大きく育ってるわ!わたしも手伝っていいかしら?」
「いいよ、ルバークさん!ダイク兄もちゃんと手伝ってよ!」
「わかってるよ。シラクモもお願いな。」
すでに手伝いを始めていたシラクモにも声をかける。
シラクモは前足をあげると、勢いよく後退しながら蔓を引っ張った。
クガネも作業を手伝おうとしてくれたが、体が小さく作物を引っ張ることができなかった。
早々に諦め、ロゼの頭の上で作業を見守っている。
三人と一匹で作業を進めると、小さな畑の収穫物はあっという間に土から掘り起こされた。
「ん~、疲れたわね!いったん休憩にして、中で休みましょう。」
そう言って、ルバークは家へと帰っていった。
「行こうか、ロゼ。」
ロゼに手を差し出すと、俺の手をギュッと握ってくる。
「うん!行こう、ダイク兄!」
魔法をかけて全身をきれいにしてから家へと戻った。
ルバークの淹れてくれるお茶を飲みながら一息つく。
「ルバークさん、頭痛の具合はどうですか?」
ここ数日、ルバークが薬を服用しているところを見ていなかった。
「もう大丈夫よ。ヴィド君の村に着いた頃からあまり痛みが出なくなったの。もう薬は飲まなくていいわ。」
「そうなんだ!ルバークさん、良かったね!」
ロゼが満面の笑みを見せると、ルバークも自然と笑顔になる。
「ダイク君はどうなの?あれから味とか臭いは?表情は少しずつ良くなってるみたいだけど。」
「味と臭いは変わりませんね。」
「そうなのね。少しゆっくりするといいわ。ここ最近、いろいろと忙しかったし、しっかりと体を休めなさいね。」
「はい。そうします。」
お茶を飲んだらマザーに帰ってきた報告に行こうかと思っていたが、俺は留守番となった。
しばらく座ってボーっとしてみるが、退屈で時間が過ぎるのが遅い。
干物でも作ってみるかと思い立ち上がると、窓をノームが叩いた。
「どこに行ってたんだ?」
扉を開けて、ノームを家の中へと招き入れる。
「鬼蜘蛛の親玉に挨拶してきたのよ!」
いつの間にか、そんなことをしていたみたいだ。
正直、いなくなったことにすら気がつかなかった。
「そうなんだ。マザーと何の話をしてきたんだ?さすがに挨拶だけじゃないだろ?」
調理場で魚を捌く用意をしながら聞いてみる。
「ん~、内緒よ!なんでも話すと思ったら大間違いよ!」
「ああ、そう。」
聞いた俺が馬鹿だったみたいだ。
ノームは一人で騒いでいるが、聞こえないふりをして魚を捌き始める。
「ねぇ、ダイク!いつになったら他の魔獣木を回収してくれるのよ!」
静かになったと思えば、ノームが耳元で叫んだ。
「そんなに声を出さなくても、聞こえてるよ。耳元で叫ぶのは止めてくれ。他の魔獣木っていったって、どこにあるんだよ。この近くじゃないんだろ?」
「そ、それはそうだけど・・・。」
珍しく妖精がたじろいでいる。
「しばらくは出掛けないぞ。ヴィドさんたちが訪ねてくるかもしれないんだ。ノームだって聞いてたんだから、わかってるだろ?」
「聞いてたけど・・・。」
「俺だって協力したくない訳じゃないんだ。遠くに行くには準備もいるし、もう少ししたら冬が来るんだぞ。知らない土地で冬を越すのは嫌なんだ。分かってくれ。」
「ふ~ん、そうなのね!じゃあ、パッと行って帰ってこられればいいのね!そんなことならノーム様にお任せなさい!ダイク、扉を開けてちょうだい!」
ノームが扉まで飛んでいくので、開けてやる。
「しばらく出掛けるわ!帰ってきたら出発よ!準備して待ってなさい!」
ノームはそう言って、勢いよく飛んで行ってしまった。
話を聞いていなかったのだろうか・・・。
まさか、移動する術をノームは持っているのだろうか。
まぁ、考えても仕方がないので作業に戻って干物づくりに精をだした。
塩水に漬けている時間を使って、干物台を作っているとルバークたちが帰ってきた。
「ただいま、ダイク君。やっぱり、ゆっくりしていられなかったのね。」
少し呆れた目でルバークは俺のことを見てくる。
「少しは座って休んでたんですよ。でも、やっぱり座ってるだけは耐えられませんでした。」
「それで、ダイク兄は何を作っているの?」
ロゼは作業を覗きながら言う。
「魚を干すための台だよ。ヴィドさんの家の前にもあっただろ。あれだよ。」
「そうなのね。なら、わたしも手伝うわ。早く終わらせちゃいましょう。」
「ボクも手伝うよ!」
二人が手伝ってくれたお陰で、あっという間に完成してしまった。
「ありがとうございます。あとは魚を干すだけです。早ければ明日にでも食べられるようになるはずです。」
家に戻って、塩水に浸かっている魚を持ってくる。
魔法で水の玉を浮かべて、表面の塩気を洗い落として干していく。
「そういえば、マザーのところにノームちゃんが来てたらしいわよ。いつの間に出掛けたのかしら?全然、気がつかなかったわ。」
誰にも気づかれない妖精が少し可哀そうになってくる。
「挨拶に行ったって言ってましたよ。ちなみに、今も出掛けてます。」
「あら、そう言えばそうね!どこに行ったの?森のお散歩かしら?」
「他の魔獣木にパッと行って帰ってこれるようにしてくれるみたいです。どこまで本気なのかはわかりませんが。」
「・・・そうなのね。よく分からないけど、いないのね。」
ルバークはそう言って、家へと入っていった。
「ダイク兄、もうそろそろいいんじゃない?」
ロゼがさつまいもを指差して言う。
「そうだね。回収して、家に入ろうか。」
土の上に寝かせておいたさつまいもを回収していく。
家に入ると、ルバークの姿はすでに無かった。
きっと自室で魔道具の研究でもしているんだろう。
「ダイク兄、これは捨てちゃっていいの?」
調理場に放置していた魚のあらを俺に見せながらロゼが言う。
「それは捨てなくていいよ。これから使うからね。」
鍋に水を張って魚のあらを入れ、煮込んでいく。
「・・・それ、食べられるの?」
ロゼが不安そうな顔を見せた。
「骨は食べられないけど、これからいい出汁が取れるんだ。今日の晩御飯は今までで一番美味しいかもよ。」
「そうなの?じゃあ、ボクも何か手伝うよ!」
魚のあらで出汁をとって、みそ汁を作った。
もちろん具材は、先日採れたばかりのじゃが芋を入れた。
魚も焼いて、あとはご飯・・・は無いのでパンを食べた。
この世界のどこかに米はあるんだろうか。
みそ汁を見ると、無性に米が欲しくなってしまった。
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