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転生したら森の中でした。  作者: コウ
第三章 ダイク 七歳
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第89話 干物づくり

村へと戻ると、ルーナの家の前に見覚えのある男が立っていた。

「おーい、早く帰ってこーい!」

俺たちに手を振って、大声をあげている。

急いで向かうと、そこにはビクターが立っていた。

「ビクター君、どうしたの?」

ビクターの生え際からは小さな角が覗いている。

「ルバーク、頼みがあるんだ。まぁ、ここでは何だし、とりあえずルバークたちが借りている家に行こうぜ!」

そう言って、ルーナの家の扉を勝手に開けた。

「ルーナ、ルバークたちが戻ってきたぞ!ありがとうな、俺は行くぜ!」

何事かと戸惑っていると、中からルーナが顔を出した。

「ルバークさんたちと入れ違いで村にビクターさんが来たんです。何だか話があるみたいで、家の前でずっと待ってましたよ。」

ビクターは笑って聞いているが、迷惑だったんじゃないだろうか。

「ごめんなさいね、ルーナちゃん。迷惑だったでしょ。」

「いえ、ヴィドがお世話になったみたいで。家の中で待ってもらおうかとも思ったんですが・・・。」

「俺が断ったんだ。」

なぜか、堂々とそう言い切った。

「そ、そうなのね。ルーナちゃん、またね。わたしたちは借り家にいるわね!」

ルーナは手を振って、俺たちを見送った。


「ほら、突っ立ってないで座ってくれ!」

ビクターは家に入ると、我が物顔で席を勧めてくる。

俺たちは困惑しながらも席に着く。

「お茶を淹れるわね。」

ルバークがお茶を淹れだすので、俺はアイテムボックスからロゼのお手製クッキーを皿に並べた。

「へぇ~、美味そうだな!」

ビクターは一つ手に取り、口へと放り込んだ。

「それ、ボクが作ったんだよ!」

「そうなのか!ロゼは料理までできるのか!お前は凄いな!」

ロゼの頭をくちゃくちゃに撫でながら、ビクターの食べる手は止まらない。

「お腹空いてるんですか?それなら・・・。」

唐揚げパンをビクターに差し出す。

「おぉ、これか!もう一度食べたいと思ってたんだ!ありがとうよ!」

そう言って、美味しそうな顔を見せて食べてくれた。


「で、ビクター君。話って何なのかしら?」

ビクターの食事も終わり、お茶を飲み干したタイミングでルバークが問いかける。

「話すと長くなるんだが・・・。簡単に言えば、俺にもこの村で始めようとしてる魚の魔獣の話を手伝わせてくれないか?」

「ビクターさん、冒険者はどうするの?」

「もちろん続けるぜ。だがな、街に居られなくなっちまったんだ。」

妙に明るかったビクターの顔に影が落ちる。

「もしかして、その角のせいかしら・・・。」

ルバークが聞くと、ビクターは頷いて答える。

「昔ならまだしも、今でもそんなことが起こるのね・・・。」

身に覚えのあるルバークの顔も暗くなった。

「居られなくなったって言っても、宿を追い出されただけなんだ。冒険者っていう仕事に胡坐をかいて、根なしの生活をしていた罰が当たったんだろうよ。」

どこか諦めにも似た表情でビクターは語る。

「ギルドに相談に行ったらな、サンテネラ周辺の村で生活はどうだって勧められたんだ。魔獣木騒動でどこも人手が足りてないだろ?角なんか気にしてる場合じゃないからな。それで、俺はヴィドたちを訪ねてこの村に来たんだ。」

「そうだったんですね・・・。ビクターさん以外の魔熱病に罹った冒険者の人もここに来てるんですか?」

「いや、この村に来たのは俺だけだな。もしかしたら、これから増えるかもしれないがな。」

ロゼはビクターの頭を撫でていた。

言葉にできない、やりきれない感情が部屋に充満する。

「ビクターさん、是非お願いします。一緒にやりましょう。」

俺は立ち上がって、ビクターに手を伸ばした。

ビクターも俺の手を握り、話は纏まった。


「なんだか、やりきれないわね。」

俺と二人きりになったルバークがボソッと呟いた。

厳密にいえばシラクモもノームもいるが、フードの中で眠っていた。

ビクターはロゼを連れて、早速滝を見に行ってしまった。

「そうですね・・・。」

角で苦しんできたルバークのことを思うと、言葉にならない。

「そんなに暗い顔をしても、何も変わらないわよ!人間は愚かな生き物なのよ!」

寝ていたノームがルバークの前に降り立った。

「そうね・・・。本当に愚かだわ!あ~、馬鹿馬鹿しい。そんな人間はこっちから無視よ!ダイク君、やることはまだあるんでしょ?早くやっちゃいましょう!」

ノームの言葉でルバークに火がついた。

「そうですね。考えるだけ無駄ですね。俺たちは俺たちのやるべきことをしましょう。」

勢いよく立ち上がり、作業に没頭することにする。


調理場で魚を捌いていると、扉がノックされた。

「ダイク君は続けてて。わたしが出るわ。」

俺の作業を見守っていたルバークが扉を開ける。

「よう!ビクターが来てだろ?」

アルとヴィドがそこには立っていた。

「良かったら入って。ビクター君ならロゼ君を連れて、滝に行っちゃったわよ。」

「そうか。おっ、今日は何をしてるんだ?」

アルとヴィドが俺の作業を覗いてくる。

「干物・・・魚を干して保存がきくようにするんです。実際にできるかはわかりませんが、試してみてるところです。」

「よくわからんが、おいらたちも手伝うぞ!何をすればいい?」

「ヴィドさんは魚を捌くのを手伝ってください。アルさんは魚を干すところを作ってもらっていいですか?外に干すことになるので、魚を並べられる台があると助かります。」

「おう、わかったぜ!じゃ、おいらは外で作業してるからよ。ここはヴィドに任せるぜ!」

ヴィドの背中をパンと叩いて、アルは外へと出て行った。

「わたしもアル君の方を手伝ってくるわ!ヴィド君、ダイク君をお願いね!」

ルバークも家を出て行った。

「昨日と同じでいいか?」

ヴィドが隣に並んで聞いてくる。

「そうですね。いろいろやり方はあるんですが、とりあえずは三枚おろしで作ってみましょうか。」

鯖を二匹置くと、ヴィドは手慣れた様子で捌き始める。

俺も負けじと魚を捌いていく。


「こんな感じでいいか?」

魚を捌き終わると、早速アルが外から声をかけてきた。

外へと出ると、小さなテーブルが作られており、天板は網目状に糸が結ばれていた。

「こんな短時間で良く作れましたね!」

あまりの出来の良さに驚かされた。

「いや、元々は作物を干したりして使ってたのを、糸だけルバークが新しく変えてくれたんだ。これでできそうか?」

「はい、とりあえずやってみましょうか。もう少し時間かかるので、家でお待ちください。」

四人で家に戻って、塩水に漬けている魚を見せた。

「これは何をしているんだ?」

「塩水に漬けているんです。しばらく漬けて、干してみようと思います。」

アルはなんでそんなこと知っているんだという顔をしているが、見なかったことにする。

そんなことを気にしていたら、先に進むことができない。

「塩水はこのコップで水を十杯に対して塩を一杯入れてみました。色々と試す必要はありますね。塩水にしても、漬ける時間にしても。作ってみないことには始まりません。」

「そ、そうか。色々と考えてくれているんだな。ありがとう、ダイク。だが、それさえ聞いてしまえば、俺たちだけでも出来そうだな。なぁ、ヴィド。」

「そうだな。」

「ビクターも来てくれたし、今年の農作業の残りは収穫をするだけなんだ。村の人たちも暇を持て余してるからな。色々とやってみるよ。」

村人総出で色々と試せば、商品化もすぐにできるかもしれない。


あれ?もしかして、俺のやることは終わったのか?

魔獣木はビクターに任せて、干物づくりは村の人たちに任せればいい。

何日もかかると思われた滞在は、あっという間に終わりを告げる。

何かあれば、ヴィドとアルに森を訪ねてもらえばいいし、俺たちもいつでも来ることができる。

ルバークやヴィドたちと相談すると、翌日に村を出ることとなった。


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