第88話 滝の裏の洞窟
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「ダイク兄、また剣が壊れちゃったよ!代わりの剣はある~?」
翌日、朝食を済ませるとロゼ、ルバークの三人で滝までやってきた。
アルとヴィドも来たいと言っていたが、今日は村に残ってもらうことになった。
今日の作業は魔獣木を減らすことがメインだ。
まだ、魔熱病に罹ったことがない二人にとっては危険なことに変わりはない。
俺たち三人も一応、鼻と口を鬼蜘蛛たちが織った布を当てている。
アイテムボックスから剣を取り出してロゼに渡すが、一振りするだけで剣が折れていく。
「ルバークさん、前に魔獣木を砕いた時はどのくらい剣をダメにしたんですか?」
在庫にあまり余裕がないため、ルバークに確認する。
「五十本くらいかしら?」
軽い感じで回答が返ってきた。
魔獣木一本に対して、剣を五十本もかける余裕はない。
サクラの遺産からできるだけ頑丈な剣を探していると、一本の名前が目についた。
「はじまりの剣・・・。」
取り出してみると、見た目はただの木刀だった。
「珍しいもの持ってるわね!」
頭の上から妖精の声が聞こえてくる。
「知ってるのか?この剣。」
ノームは飛んで木刀に近づいて話し始める。
「もちろんよ!これは魔獣木から作られた剣よ!魔獣木って言っても、あの木じゃないわよ!」
ノームが言っているのは魔石が取れる方の魔獣木のことだろう。
「この剣であの魔獣木を砕けると思うか?」
「さぁ?わたしには分かる訳ないじゃない!でも、魔獣木って頑丈だから、もしかしたらいけるかもね!」
そう言って、俺の頭の上に戻った。
「ロゼ、今度はこの剣を使ってみてくれないか?」
一本目の魔獣木は半分ほどの枝が砕かれていた。
「うん、いいよ!」
ロゼがはじまりの剣を振るうと、残っていた枝が剣筋に沿って綺麗に落ちた。
「わぁ~、すごいね、この剣!!」
ロゼは感動しながらも剣を振るい、魔獣木は粉々になっていく。
ルバークと協力して、粉々になった魔獣木を回収していく。
枝や木そのものはルバークのマジックバックに。
魔獣の実は俺のアイテムボックスに入れることになった。
ここに放置して魚の魔獣にしてしまってもよかったが、これから先に何かに使えるかもしれない。
一応、保存用として持っておくことにした。
魔獣木は一本を残して、ロゼの手で砕かれた。
「で、ダイク君。その魔獣木はどうしましょうか?」
回収を終えたルバークが腰を擦りながら聞いてくる。
「俺の考えでは、魔熱病って魔獣木によって汚染された土を吸い込んで発症しているんだと思うんです。なので、土から離して様子を見てみようと思います。」
アイテムボックスからロープを取り出して、魔獣木に括り付けていく。
魔獣木を浮かせた状態でロープの端を壁に固定する。
下から見る魔獣木は光を反射させ、余計に綺麗に見える。
「ノーム、埋まっていた土は放っておけば、問題のない土に戻るのか?」
頭の上で眠っている妖精を起こして聞いてみる。
「ん~、眠たいのに・・・時間はかかるけど、いずれは元に戻るわ!そこの鬼蜘蛛の魔法を掛けてやればすぐに綺麗になるわよ!」
ノームは目を擦りながら俺の足元にいたシラクモの上に飛んでいく。
「シラクモの魔法・・・、回復魔法か?」
「そうよ!ほら、鬼蜘蛛、やってごらんなさい!」
ノームはシラクモの背中を叩くが、シラクモは魔法を使わない。
「シラクモ、お願いできるか?」
俺が言うと、前足をあげて魔法を使いだす。
妖精はシラクモの背中で文句を言っているが、誰も気にしなかった。
「ありがとう、シラクモ。」
褒めてやると、空いた俺の頭の上に跳び乗った。
魔法をかけた土を鑑定してみるが、土は土のまま変わることは無かった。
「ノーム、良くなったか見てくれないか?」
シラクモの上で拗ねている妖精に声をかける。
「ダイク、あんたわたしをいい様に使うわね!まぁ、いいわ!しょうがないから、見てあげる!」
一言も二言も余計だが、役に立つことに変わりはない。
「ノームちゃん、どうなの?」
じっくりと土を観察しているノームにルバークが声をかける。
「問題は無さそうね!しばらくは植物は生えないかもしれないけど、嫌な感じはしないわ!」
その言葉を聞いて、俺たちは一息つくことにした。
「疲れたわね。お茶でも飲んで、一息入れましょう。」
滝を出て、橋を渡るとルバークがお茶の準備を始めた。
俺は三人分の口に当てていた布を回収して、魔法できれいにする。
「ダイク兄、ボクお腹が空いてきたよ!何かある~?」
ロゼは座るなり、お腹を擦りながらそう言った。
「何かって、唐揚げパンかラップサンドくらいしか無いよ。それでいい?」
「うん!ルバークさんも食べるでしょ?」
「そうね。わたしもいただこうかしら。」
アイテムボックスから皿を取り出し、その上に唐揚げパンとラップサンドを並べる。
「わたしも食べるわよ!もう、ダイクが働かせるからお腹が空いてたのよ~!」
シラクモの上から飛び立ち、皿のすぐそばに降り立った。
「これはシラクモとクガネの分な。」
鬼蜘蛛たちにもパンとサンドを一つずつ取り分けて渡す。
シラクモが唐揚げパンを、クガネがラップサンドを食べ始めた。
「天気が良くて自然の側で、美味しいものを食べられるなんて幸せね。これはダイク君の分よ。今日はしっかりと食べてもらうわよ!」
ロゼの方をチラッと見るが、首を振っている。
ロゼからルバークに伝えた訳じゃなさそうだ。
「そんな反応になるってことは、やっぱり昨日ちゃんと食べなかったのね!」
ルバークが冷たい目でこちらを見ている。
「だ、ダイク兄は食べてたよ、ルバークさん!」
「ロゼ君・・・・・・。」
ルバークは鬼のような顔でロゼを見つめる。
「ごめんなさい・・・。ダイク兄は少し食べてノームがあとは食べました・・・。」
「ほらね。今日は食べきるまでしっかりと見てるからね!」
皿からラップサンドを取り、俺の手の上に置かれた。
「まずはそれを食べてね。唐揚げパンも食べてもらうからね。」
ルバークの顔は笑っているのに、背筋がぞくっとするような声だった。
食事をとり終わると、滝の裏の洞窟に再び入った。
「ここは魔素が薄いのかしらね?まだ全然、魔獣になりそうにないわね。」
魔獣の実はいくつか落ちているが、少し膨らんでいるくらいで魔獣になるまでの時間はまだかかりそうだった。
「このくらいでよかったと思います。成長が早ければヴィドさんたちに毎日でも来てもらわないといけませんからね。このペースなら五日に一度くらいでも問題は無さそうですね。」
朝に来たときは、魔獣木がまだ三本あったため、それなりに魚の魔獣が湧いていた。
すべて倒して回収したため、魚の魔獣の在庫には余裕があった。
将来、魚をヴィドたちの村で売り出せるように干物にでもする方法を考えなくてはならない。
一夜干しや煮干し、塩干しなど様々な干し方があるのは知っていた。
だが、実際にどう作っているのかは知らなかった。
村に戻ってから色々と試してみる必要がありそうだ。
「ダイク君、ダイク君!」
ルバークが俺の体を揺すっていた。
「何ですか?」
「何か考え事をしていたんでしょうけど、わたしの質問に答えてちょうだい。今日はまだやることはあるのかしら?」
「そうですね・・・。魔獣もまだ生まれないみたいですし、今日はこのくらいにしておきましょうか。」
「もういいの、ダイク兄?」
ロゼがはじまりの剣を名残惜しそうに返してくる。
「それはロゼが持ってていいよ。サクラさんの残してくれたものだから、大事に使ってね。」
「うん、ボク大事にするよ!ありがとう!」
そう言って、腰に剣をぶら下げた。
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