第87話 回復の兆し
みんな、口々に美味しいと言って食べてくれる。
「ダイク兄、これにあれ付けたら美味しいんじゃない?」
フライを俺に見せながらロゼが言う。
「あれって・・・。」
一瞬、ロゼが何のことを言っているのか分からなかった。
フライにつけて美味しいもの・・・マヨネーズか!
「アイテムボックスに無いから作るしかないけど、手伝ってくれるか?」
「うん、絶対あったほうがいいよ!」
ルバークたちには伝わってないだろうが、現物を用意した方が早い。
アイテムボックスからレモンと塩、たまごとハンドミキサーを取り出す。
「ボクが作るから、ダイク兄は食べてていいよ!」
ロゼはそう言って、俺から道具と材料を取り上げる。
「ダイク君、ロゼ君がそう言ってることだし、食べなさい。味がわからないからって、食べなくていいわけじゃないんだからね。」
そう言って、俺の前の取皿にフライと焼き物を取り分けてくれる。
「はい・・・。」
正直、味のしない食事は苦痛だった。
食べないと体に悪いことは分かっているが、お腹もなぜか空いていない。
「食べないなら、わたしが食べるわよ!」
ノームが俺の皿の分まで食べようとすると、ルバークから厳しい目で睨まれる。
「じょ、冗談よ!何も、そんなに怒らなくってもいいじゃない!」
ノームはみんなにバレないように、テーブルの下でシラクモたちと試食をしてもらっている。
シラクモも美味しそうに食べてくれている。
「美味しいか、シラクモ。」
そう聞くと、俺の足元でクルクルと回りながら踊っていた。
「ダイク、美味いなこれ。これが魚なのか?信じられないな。」
アルもヴィドも手が休むことなく口へと魚を運んでいる。
「本当に美味しいです!作り方もシンプルなのに、こんなに美味しくなるんですね!」
ルーナは一口一口に感動しながら食べてくれている。
「喜んでもらえてよかったです。これが・・・。」
魔獣木の管理について話を繋げようとすると、扉がノックされる音が聞こえてきた。
「すいません。誰か来たみたいですね。」
ルーナが立ち上がり、扉を開けると村の人たちが立っていた。
何事かと思えば、美味しそうな臭いにつられて来たらしい。
この際、村の人々を巻き込んで味を知ってもらえば前向きに検討してもらえるかもしれない。
「ルーナさん、魚はまだ沢山あります。よければ、村のみなさんにも食べてもらいたいです。」
下心からではあるが、村の人たちにも魚を振舞うことになった。
調理するところから見てもらった方がいいだろうと思い提案すると、ヴィドは頷いて薪を持って外へと出て行った。
俺も続いて外へと出ようとすると、ルバークに止められる。
「ダイク君は自分の分を食べてからよ。準備はわたしたちに任せておいて。まずは、取り分けた分だけでも食べてちょうだい。」
手を引かれ、座っていた席へと戻される。
仕方がなく魚を口に入れるが、味はやっぱりわからなかった。
食べ終えたルーナ、ルバーク、アルは外に先に出て行った。
「ダイク兄、出来たよ!」
ロゼのお手製マヨネーズも完成したみたいだ。
「ノーム、これ食べてくれないか?お腹がいっぱいなんだ。」
皿に残ったフライと焼き物をシラクモたちが食べていた皿へと移す。
「いいわよ!鬼蜘蛛たちも食べるから、わたしはまだまだ食べれるわよ!」
「そうか。頼んだぞ。」
こういう時には妖精様がいてくれるとありがたい。
「ダイク兄、いいの?ルバークさんに怒られちゃうよ?」
「ロゼ、これは内緒だぞ。それに、村の人たちも待ってるから、早く作らないといけないしな。ロゼもマヨネーズをもう少し作ってもらってもいいか?たぶんだけど、その量だとあっという間に無くなるよ。」
「わかった、内緒だね!ボクも一緒に外で作るよ!」
初めての内緒話でロゼを言い包め、一緒に外へと出る。
家の外では、すでに各々の家から持ち出されたであろうテーブルや椅子が並んでいた。
「ダイク君、ここで調理をお願いするわ。わたしたちも手伝うから、早く作りましょう。」
ルバークの前には簡単な調理場が整えられていた。
ロゼはルバークに駆け寄って、マヨネーズを見せている。
「これがマヨネーズだよ!前にルバークさんにも食べてもらったことあるよね!」
ルバークは頭を傾け、いつのことかは思い出せないようだ。
「以前作ったラップサンドに少し入っていたんです。薄い生地に野菜と唐揚げを巻いたやつです。覚えてませんか?」
「あ~、あれね!あれも美味しかったわね。確かに、フライに合いそうだわ!」
「ルバークさんはロゼともう少し、マヨネーズを作ってもらってもいいですか?」
ルバークとロゼには追加でマヨネーズをお願いする。
「おいらたちは何をすればいい?」
ルーナ、アル、ヴィドが並んで聞いてくる。
「ルーナさんは残ってるサーモンを塩を振って焼いてもらえますか?アルさんとヴィドさんは俺と一緒に魚を捌いてもらいます。」
そう言うと、ルーナは早速作業に取り掛かる。
俺もアイテムボックスからサーモンと鯖を取り出す。
「これをさっきみたいに捌けばいいんだな?」
「はい、お願いします!」
会場準備の終えた村人が見守る中、調理が始まった。
村の人たちは魚を見るなり、少しがっかりした様子を見せた。
しかし、料理が出来上がってくると美味しそうな臭いに驚きながら、今にも涎が垂れそうな顔で調理を見守っている。
乾燥したパンが足りないと思ったが、アルが村人に聞けばすぐに集まった。
村人にも手伝ってもらい、荒いパン粉を準備できた。
魚を捌き終わると、フライの準備と揚げる調理はアルとヴィドに任せた。
俺はアイテムボックスからパンを取り出して、切れ目を入れていく。
「ダイク君、マヨネーズはこのくらいでいいかしら?」
ルバークの手には、ボウルいっぱいにマヨネーズが入っていた。
「ありがとうございます。ロゼと一緒にパンの切れ目にマヨネーズを塗ってもらえますか?」
「わかった!唐揚げパンみたいにするんだね!」
「そういうことね!」
みんなが手伝ってくれたお陰で、かなりの量の料理を作り終えることができた。
簡単に料理の説明をしながらテーブルを回って料理を配っていく。
待ちきれないとテーブルに料理が置かれると、村人の手が伸びてくる。
それぞれが美味しそうに食べてくれている。
フィッシュサンドも好評だった。
あまりにも美味しそうに食べてくれて、あっという間に皿が空になる。
作った甲斐があるなと、少し嬉しくなってくる。
「あっ、ダイク兄、少し笑ってるよ!」
ロゼが俺の顔を指差して、ルバークに報告する。
「あら、本当ね・・・。よかったわ・・・。本当に・・・よかった。」
ルバークは俺に抱き着いて涙声でそう言った。
「本当によかった!」
ロゼもルバークに続いて抱き着いてくる。
「ルバークさん、そんなに泣かないでください。ロゼも・・・。」
気がつけば、ロゼまで泣き出していた。
「良かったですね・・・。」
近くにいたルーナまでもらい泣きしていた。
「ルバークとロゼも心配だったんだろ。泣かせておいてやればいいさ。」
アルが俺の頭を撫でながらそう言った。
ヴィドはロイを抱えながら笑っているように見えた。
この日はこれでお開きとなり、空き家となっていた村長の家に泊ることとなった。
ロゼとルバークは安心したからか、ベッドに入るなりすぐに寝てしまう。
「ダイク、良かったじゃない!これで安心して魔獣木を回収しに行けるわね!」
森の妖精はそう言った。
すっかり忘れていたが、ノームは魔獣木を回収して欲しいからついて来ているんだった。
「まだだろ。滝に置いてきた魔獣木をどうにかしない限りは行かないからな。」
やることはまだまだたくさんある。
ベッドに入って考えているうちに、眠気に襲われて身を任せた。
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