第85話 ロイ
今年も残すところ、あとわずか。
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来年も引き続き、よろしくお願いします。
「お帰り、ルバークちゃん!ダイク、ロゼ!」
宿に入ると、おばさんの元気な声が聞こえてくる。
「ただいま、おばちゃん。すっかり遅くなってごめんなさいね。」
ルバークはおばさんに駆け寄り、そう言った。
俺とロゼはルバークの後ろでペコリと頭を下げた。
「いいんだよ、仕事だったんだろ?それより、昼食は摂ったかい?まだなら、朝食の分が残ってるから、それを食べないかい?」
「いいの?ありがとう。あと、清算をお願いしてもいいかしら?」
「何だい、もう帰っちゃうのかい?」
「寂しいけど、そろそろ家に帰らないと・・・。」
「そうかい。わかったよ!まずは、食事を用意するね!座っててくれるかい!」
おばさんはそう言って、調理場へと入っていく。
「ルバークさん、もう帰るの?」
「そうよ、ロゼ君。魔獣木も回収できたし、そろそろ帰らないとね。」
ルバークはテーブル席に腰を下ろしながら言う。
俺とロゼも、同じテーブルの席に腰を下ろした。
「帰り道にヴィドさんたちの村に寄ってもいいですか?魔獣木の件について、話だけでもしておきたいんです。」
「ヴィド君たち、もう村に帰ることできたの?」
「ギルドに聞きに行ったら、もう村に帰ってるんじゃないかって言ってました。」
「そうなのね。・・・それにしてもダイク君、食事はしっかり摂ってた?少し痩せたように見えるけど・・・。」
「ボク、わかった!ノームに食べられちゃったんでしょ!」
「まぁ、そうです。でも、全く食べてないわけじゃないんですよ。少しは食べてますし・・・。」
「少しはじゃないでしょ!体のために、食べなきゃダメよ!ところで、ノームちゃんはどこにいったのかしら?」
そういえば、ルバークとギルドで会ったくらいから静かにしてるな。
「ダイク兄のフードの中で、寝てるよ!」
ロゼが俺のフードを覗き込んで言った。
「そう。なら、昼食はダイク君がしっかりと食べるのよ。」
ルバークが厳しい目つきで俺のことを見てくる。
「わ、わかりました・・・。」
その後、おばさんが持ってきた食事を摂り、宿を後にする。
味覚が戻ってないので、食事は苦痛だったがルバークの目もあり、すべて平らげた。
ヴィドたちの村へと向かう荷車の中で、ルバークがどのように魔獣木を回収してきたのかを話してくれた。
御者台には、ロゼが座っている。
ロゼが御者をしてもロデオは抵抗することなく走ってくれた。
ノームは起きることなく寝続けており、快適な旅となっている。
「でね、魔獣は問題なくロゼ君とわたしで倒せたのよ。これがその魔獣よ。」
ルバークは見たことの無い魔獣だったと言った。
マジックバックから魔獣の一部を取り出して見せてくれる。
鑑定してみると、キラーアントという魔獣の足だった。
「さすがに大きくて一部しか持ってこれなかったわ。ダイク君、欲しかった?」
足の大きさから、全長は俺よりも少し大きいくらいかもしれない。
「いらないです。食べられるのかもわからないですし、持ってこなくって正解ですね。」
「そう、よかったわ。でね・・・。」
ルバークの話は続いた。
要約すると、魔獣木はロゼが砕いて回収してきたらしい。
ただ、魔獣木は堅く、何本もの剣をダメにしたみたいだ。
何度も何度もロゼが力いっぱい斬りつけることで、マジックバックに収まる大きさまでになったようだ。
「砕いた破片を一つも残らないように回収してきたから、安心してちょうだい。」
「お疲れさまでした。そういえば、魔道具はどうなったんですか?試したいことがあるって言ってませんでしたっけ?」
「全然、役に立たなかったわ。魔獣木って堅過ぎるのよね。」
何をしたのかは、あえて聞かなかった。
自分で聞いておいて何だが、ルバークが研究モードになられては困る。
「そうでしたか。あっ、もう少しで着きそうですよ。」
タイミングよく、ヴィドたちの村が見えてくる。
村の入り口の前に広がる畑に、人の姿が確認できた。
村の人々は俺たちを見つけるなり、挨拶や手を振ってくれる。
俺たちもそれに答えながら、ルーナの家へと向かった。
「ねぇ、ダイク!ここはどこよ!?」
後頭部から妖精の声が聞こえてくる。
「起きたのか。知り合いが住む村だよ。」
俺の目の前に飛んでくると、大きな欠伸をした。
「あっそ!まぁ、いいわ。わたしは村を探検してくるわね!」
そう言い残して、村を自由に飛び回っている。
「ノーム、行っちゃったよ。ダイク兄。」
「そうだな。まぁ、悪いことはしないだろうし、放っておこう。」
目的地に着くと、俺たちは荷車を下りて扉をノックする。
しばらく待つと、小さな狐の赤ちゃんを抱いたルーナが出てきた。
「こんにちは、ルーナちゃん。お久しぶりね。まぁ、小さくて可愛いわ~!」
突然の訪問に驚いた顔をしているルーナにルバークが声をかける。
「お久しぶりですね、皆さん。今日はどうされたんですか?」
ルーナは抱えた赤ちゃんを見やすいように屈んでくれた。
「お久しぶりです、ルーナさん。可愛い赤ちゃんですね。ご出産おめでとうございます。ヴィドさんかアルさんに用があって来たんです。どこにいるかわかりますか?」
ロゼは赤ちゃんを不思議そうに眺めていた。
「ありがとうございます。ヴィドたちは村の裏の雑木林に行ってると思います。しばらく戻らないと思いますので、よければ家で待ちませんか?」
「いいの?ありがとう、ルーナさん!」
ロゼがいち早く反応を示した。
雑木林とはオークたちがいたところだろう。
俺たちが出向いてもよかったが、ロゼは赤ちゃんに興味津々だ。
家の中に入ろうというところで、ノームが戻ってきた。
「この村、何にも面白いものが無いわね!あら、赤ちゃんじゃない!可愛いわね!」
赤ちゃんに興味を示すとは意外だったが、赤ちゃんもノームのことが見えているのか、目で追っていた。
ルーナには見えていないので、怪しまれないようにノームを無視する。
「こちらへどうぞ。」
ルーナが席に、それぞれ案内してくれる。
「ルーナちゃんも座って。わたしがお茶を淹れるわ。突然来ちゃってごめんなさいね。」
ルバークは席に着くと、ルーナを座らせてお茶の準備を始めた。
「とんでもないです。魔獣が増えてバタバタしてましたけれど、もう落ち着いたのでいつでも来てください。」
ノームとロゼは席に着かずに、ルーナの側で赤ちゃんを見ていた。
「ロゼ君、お茶が入ったわよ。」
ルバークが声をかけても、離れ難いようだった。
「ねぇ、ダイク!赤ちゃんの名前を聞きなさいよ!」
妖精が俺の手を引っ張って、赤ちゃんの側に連れていこうとする。
「名前は決まってるんですか?」
俺もお茶を一口飲んで、ノームに導かれるように赤ちゃんの側へと近寄った。
「この子の名前は、ロイっていうの。この村を救ってくれた小さな英雄からとった名前なのよ。」
ルーナは優しい笑顔を俺とロゼに向けて言った。
「えっ、それってボクとダイク兄じゃない!?」
ロゼは驚きながらも、満面の笑みで喜んだ。
「いい名前にしたわね。ロイってことは男の子なの?」
「はい。女の子だったらルバークさんからとろうと思ってました。」
「フフフ、そうなのね。二人ともよかったわね。」
顔には出ていないんだろうが、嬉しかった。
妖精を目で追っているロイのことが、余計に可愛く目に映る。
「ボクはロゼだよ。こっちにいるのがダイク兄。あっちにいるのはルバークさんだよ。」
ロゼがロイにみんなのことを紹介してくれる。
ロイにはまだわからないだろうが、ロゼがお兄ちゃんをしている姿を見て、成長したなと思う。
この村に来た目的は果たせていないが、来てよかったと思える瞬間だった。
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