第84話 ルバークの怒り
「なぁ、ノーム。今のロゼたちの状況はわかるか?」
部屋へと戻り、シラクモの上で遊んでいる妖精に問いかける。
「魔獣はあっさりと倒したみたいだけど、魔獣木の回収に時間がかかっているみたいね!でも、もうそろそろ終わりそうだし、朝には帰ってくるんじゃない?」
シラクモがノームを乗せて、部屋を跳び回っている。
「終わりそうってことは、俺がいなくても回収できたってこと?」
「まぁ、そうなんじゃない?詳しくは戻ってきた二人に聞きなさいよ!わたしは忙しいのよ!」
忙しいって、シラクモに乗って遊んでいるだけじゃないか。
少しイラっとしつつも、魔獣木を回収できたことに安心した。
それとは別に、新たな不安が頭を過る。
魔獣木を回収するってことは、ルバークのマジックバックに入れるんだろう。
「シラクモ、こっちにおいで。ノーム、マジックバックに魔獣木を入れても大丈夫なのか?俺みたいに表情や感情が影響を受けたりしないのか?」
窓際のテーブルにシラクモが跳んできた。
シラクモの上にいる妖精に真剣な眼差しを向ける。
「影響はないわよ!マジックバックとアイテムボックスは全く違うもの!」
「違う・・・。マジックバックは魔石を通して空間に物を入れていて、アイテムボックスは俺の魔法で空間に物を入れている。こんなところか?」
「まぁ、そんなところよ!」
ノームは以前、魔獣木が俺に根付いていると言っていた。
これは比喩でも何でもなく、本当に俺に根付いていたんだろう。
アイテムボックスという魔法を通じて・・・。
ノームに確認をとるが、大きく間違っていないようだ。
「こんなつまらない話をいつまで続けるつもり?もっとわたしを喜ばせる話題はないの?」
ノームを喜ばせる話題は持ち合わせていない。
黙っていると、ノームはベッドで寝だした。
シラクモのことを一通り撫でて、俺も寝ることにした。
朝はうるさい妖精の声で目を覚ます。
「早く起きなさいよ!わたしはお腹がすいたのよ!早く食べに行くわよ!」
眠たい目を擦りながら、ベッドから体を起こすが気分は最悪だ。
「朝から騒がないでくれ。今準備するよ・・・。」
ベッドから立ち上がるなり、妖精が俺の目の前をチョロチョロと飛び回る。
朝からイライラさせないでほしい。
妖精を捕まえて、シラクモを呼ぶ。
「シラクモ、こいつを捕まえておいてくれ。」
シラクモは前足をあげて、妖精を受け取ると糸を使ってぐるぐる巻きにする。
「この森の妖精様にこんな・・・こんなことして・・・なんで鬼蜘蛛がわたしを触れるのよ!しかもこれじゃ動けないじゃない!」
糸の中でもぞもぞと蠢いているが、抜け出せないみたいだ。
「昨日はシラクモに乗って遊んでたじゃないか。何を今さら触れないなんて・・・。」
「わたしが触るのと、触られるのじゃ違うのよ!」
「あー、そうですか。じゃあ、シラクモは特別ってことだな。よかったな、シラクモ。」
シラクモは前足をあげて、嬉しそうにしている。
「何がいいのよ!わたしからすれば、大問題よ!」
そんなやり取りをしているうちに、用意が終わった。
「シラクモ、ノームを開放してやってくれ。」
指示を出すと、シラクモは前足を器用に使って妖精に絡まる糸を解いていく。
「ちょっと、もっと丁寧に解きなさいよ!」
「ありがとう、シラクモ。」
シラクモを抱き上げて、ローブのフードに入れる。
そのまま部屋を出て、階段を下っていく。
妖精様は何か文句を言っているが、聞き流す。
「おはよう、ダイク!今、朝食を持ってくるよ!」
おばさんは朝から元気に働いている。
「おはようございます。お願いします。」
カウンターに座って、朝食を待つ。
昨日はほとんど食事を摂っていないが、お腹がすいている訳でもなかった。
「あ~、お腹がすいたわ!おばちゃん、早く頼むわ!」
おばさんには届かない声をあげ、俺の隣の席に妖精は降り立った。
カウンターに食事が並ぶと、おばさんがいる前で食べようとし始めた。
素早く妖精を掴み上げ、なんとか止めることができた。
おばさんは若干、不思議そうな顔をしていたが、なんとか誤魔化して食事を始める。
朝食もほとんどノームが食べ、残ったパンの抜け殻を口に入れた。
部屋に戻って、シラクモに朝食をあげ終えるとすっかりと暇になってしまった。
「ノーム、ロゼたちは今どうしてる?」
ベッドに横になりながら聞いてみる。
「そんなのわからないわ!こっちに戻ってくるってなった時に消えちゃったみたいね!」
なんて勝手な妖精なんだ。
案内をするなら帰りまでしっかりしてほしいものだ。
ただ、もうこちらに向かっていることは分かった。
「ねー、何か言いなさいよ!ちゃんと教えてあげたじゃない!」
「はいはい、ありがとう。」
大人しくロゼたちの帰りを部屋で待つことにする。
ノームは市場に行こうと言っているが、ベッドに横になって寝たふりをしてやり過ごす。
「ダイク兄、ダイク兄!起きて!」
いつの間にか本当に寝てしまっていた。
「お、お帰り、ロゼ。ルバークさんはどこ行ったの?」
部屋の中にはロゼとクガネしか戻っていない。
「ルバークさんはギルドに行ったよ!魔獣木のこと報告するんだって!」
ベッドに腰を下ろして、ロゼが言った。
「これからどうするか、ルバークさんは何か言ってた?」
ロゼは首を振って答える。
「そうか・・・。ロゼは疲れてるなら休んでていいよ。俺も暇だし、ルバークさんを追ってギルドに行ってくるよ。」
「ボクも行くよ!」
勢いよく立ち上がって、俺の手を引っ張りベッドから立たせてくれる。
「シラクモ、クガネも行くよ!」
ロゼがそう言うと、二匹はそれぞれのフードの中に入り込む。
「ちょっと、わたしも行くわよ!」
自分の名前を呼ばれなかったのが寂しかったのか、俺の頭にしがみ付いてくる。
「じゃ、行こうか。」
ロゼと手を繋いだまま、宿を出てギルドへと歩いた。
ギルドに入ると、カウンターの辺りでルバークとジョセフが言い合っているのが見えた。
ロゼの手を引いて、ルバークの元へと急ぐ。
「あら、ダイク君。さっき戻ったわ。少し瘦せたんじゃない?ちゃんと食事は摂ってたのかしら?」
ルバークは俺を見つけると、ジョセフそっちのけで心配そうな顔を浮かべる。
「お帰りなさい、ルバークさん。これは、どういう状況ですか?」
食事の件は置いておいて、現状を確認する。
「魔獣木の回収が終わったって報告をしていたのよ!」
ルバークはにっこりと笑ってジョセフの方を向く。
「いやな、魔獣木を回収してきたっていうから、報酬を払うって言ってるんだがルバークが受け取らないんだ。」
ジョセフは困惑しながら、俺に助けを求めてくる。
「マスター。わたしたちは勝手に魔獣木を回収しただけなの。気にしないでちょうだい。一応、無くなった報告だけはしておくわ。たかだか金貨五枚のために動いたなんて思われたくないの。二人に他の依頼を受けられなくしたことも気にしなくていいわ。」
ルバークの顔は笑っているが、目の奥に炎が宿っている。
「それは・・・・・・しょうがなかったんだ。領主から金が下りなかったんだ。」
「それをどうにかするのがあなた方のお仕事じゃないんですか?」
ジョセフは黙ってしまう。
「ルバークさん、もういいですよ。帰りましょう。」
前はこのことで怒りが沸いたが、今となってはどうでもいい。
ルバークが怒ってくれたことですっきりしたのかもしれない。
ジョセフにペコリと頭を下げて、ルバークの背中を押してギルドを後にする。
「ルバークさん、怒ってくれてありがとうございます。疲れているのにすいません。」
宿へと向かいながら、ルバークに謝った。
「やだ、謝らないでちょうだい。こちらこそ、ごめんなさいね。勝手に金貨五枚を断っちゃって。」
「いいんだよ、ルバークさん。依頼を受けたんじゃないしね!」
「そうです。勝手に取りに行っただけなんで、金貨は必要ありません。」
それを聞いて、ルバークの顔に笑顔が戻る。
「フフフ、そうよね。マスターも大変ね。わたしたちと領主に板挟みにされちゃって。」
「そうですね。少し気の毒ですね。」
そんな会話をしているうちに宿へとついた。
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