第83話 観光と治療院
ノームはフラフラと街の中を飛び回り、早速市場を見つけた。
「ダイク、あれ美味しそうよ!一つ買いなさいよ!」
串焼きを指差して、勝手に商品を取ろうとする。
急いでノームを捕まえて、串焼きを一本買って路地裏に隠れる。
「お前、勝手に取っちゃダメだろ?ノームの姿は他の人には見えてないんだから、もっと気を付けてくれ。串焼きが一人でに飛び出したら大騒ぎになるだろ。」
聞く耳を持つ気がないのか、俺の手から串焼きを奪い取って俺と目を合わせないように貪り食っている。
「そうですか。俺の話なんて聞く気は無いんですね。わかりました。観光はここまでにしましょうか。」
俺は丁寧な言葉で伝えて、宿の方へと歩き出す。
「わー、わかったわよ!ちゃんと聞いてたわ!もう少し街を見たいのよ!」
空になった串を捨てて、目の前に飛んでくる。
「ごみは捨てない。」
「はいはい、拾いますよ!拾えばいいんでしょ!」
ノームは串を拾って、俺の手の上に置く。
「わたしが持ってたら、大騒ぎになるんでしょ!ごみはダイクが持ってなさいよ!」
な、何なんだ、こいつは。
少しイラっとしたのが自分でもわかった。
森の妖精様は平然としているので、表情には出ていないんだろう。
だが、少しづつ治ってきていることに安心する。
ノームとの街の探索は呆気なく終わった。
森の妖精様が市場を一通り見終わると、「もういいわ。」と告げたためだ。
あれも、これもと好きなだけ食べて、腹がいっぱいになると俺の頭の上で寝だした。
本当に、何なんだ、こいつは。
ノームを頭に乗せたまま、治療院へと向かった。
「こんにちは。」
治療院の扉を開けると、メイド服のお姉さんがカウンターに座っていた。
「あら、どうかされましたか?」
「先生がいれば、少しお話しできないかなぁと思ってきました。」
「先生でしたら、病室を巡回されている時間ですので、少しお待ちいただければ可能かと思います。」
「じゃあ、少し待たせてもらいます。」
「そちらに掛けてお待ちください。」
お姉さんはカウンターの向かいにある椅子を勧めてくれた。
椅子に座って、先生のことを待つ。
しばらく待っていると、先生が階段を下りてきた。
「お前さんか。どうしたんじゃ?」
立派な髭を触りながら聞いてくる。
「こんにちは。魔熱病について話をしたいんです。」
椅子から立ち上がって、答えた。
「そうか。この階の患者を診終われば時間があるかのう。それまで待てるか?」
「はい、待ってます。」
「そうか。では、また後でじゃな。」
そう言って、廊下の手前の部屋から先生は巡回を始めた。
空きの病室があるのか、入っていかない部屋もあって思ったよりも早く先生は俺の元にやってきた。
「待たせたの。ついてきなさい。」
階段を登っていくので、先生の跡を追った。
「ここじゃ。そこの椅子に座りなさい。」
部屋の扉を開けると、聴診器を耳に装着しながら座るように勧めてくる。
話をしたいだけなんだけど・・・。
仕方ないが、先生の言う通りに椅子に座る。
この部屋は診察室というよりも休憩室だろうか。
お世辞にもきれいとは言えない、万年床のようなベッドが片隅にはあった。
服を捲られて、聴診器が胸のあたりに当てられる。
病気で訪れているわけではないが、ドキドキしてしまう。
「ふむ、問題は無さそうじゃの。で、どうしたんじゃったかな?」
耳から聴診器を外して、先生が聞いてくる。
「魔熱病について、先生の見解をお聞きしたいんです。」
「わしの見解?」
先生はお茶を淹れてくれている。
「魔熱病に罹らないためにどうしたらいいとか、前に既往歴の話をされてましたよね?一度罹ったらどのくらいの間、再び罹ることがないとか・・・。」
「お前さんは魔熱病について知って、どうするつもりなんじゃ?」
お茶を差し出しながら、聞いてくる。
「ありがとうございます。どうするって訳じゃないんですけど・・・。ルバークさんが魔熱病にもう罹ることが無いように知っておきたいんです。」
この話は本心だが、これだけではない。
ヴィドたちが魔獣木に安心して近づけるように、知りたかった。
入れてもらったお茶をズズッと一口飲んだ。
「ほぉ、そうか。」
先生はお茶を一口飲んで、顔を歪めながら話し出した。
「お前さんがどの程度魔熱病について知っておるのかはわからんが、未だに魔熱病は未知の病じゃ。治療薬のお陰で、死ぬようなことは抑えられとるが、どうやって罹るのかはわかっておらんかった。今回の流行は、魔獣木という植物に近づいた者たちが魔熱病に罹っておるのじゃ。」
「はい。そうみたいですね。」
「だが、前回流行した時には魔獣木は見つかっておらんのじゃ。同じ病のはずじゃがのう。つまりじゃ、何が言いたいかというと、何もわかっておらんということじゃ。わしは治療院の先生をしておる。正確でないことは話すことはできん。すまないのう。」
「そうですか・・・。ありがとうございます。」
役に立つ情報は特に得られなかった。
お礼を言って立ち上がろうとする。
「お前さん、表情はどうしたんじゃ?入り口で見かけた時から何か引っかかっておったんじゃ。お茶は死ぬほどに渋いのに、顔色一つ変えずに飲んでおったな。前にあった時はそんなことは無かったじゃろ?」
突然の指摘に、心臓が高鳴った。
「ちょっと、疲れが溜まっているみたいで・・・これでも少しづつ良くなってきてるんです。では、失礼しますね。」
逃げるように部屋を飛び出してしまった。
「何かあれば、ここに来るんじゃぞ!」
背後から先生の声が聞こえてきた。
階下のカウンターにいたお姉さんも何事かと身を乗り出していたが、頭だけ下げて治療院を出た。
治療院での収穫はなかった。
魚の魔獣を扱うのは厳しいんだろうか。
ヴィドとアルは魔熱病に罹っていないので、抗体はないだろう。
ビクターやルバークの場合で考えてみよう。
試験場で魔獣木に近づいた時は、魔熱病に罹らなかった。
湖の浮島に生えていた魔獣木に近づいた後には、ビクターは魔熱病に罹った。
魔獣木からというよりは、魔獣木によって汚染された土が魔熱病の原因ではないだろうか。
実自体は土に植えなくても魔獣木は落としていた。
滝に置いてきた魔獣木は丁寧に土に植えてきたが、土に触れさせずに魔獣木を置いてみてはどうだろうか。
やってみる価値はありそうだ。
「ちょっと、ダイク!こんなところで立ち止まって何やってるのよ!」
口うるさい森の妖精様が目を覚ましたみたいだ。
「ちょっと考え事をしてたんだ。これから帰るところだよ。」
周りの目も気にせずに、普通に話してしまったので周囲にいた人たちが俺のことを不審な目で見ていた。
逃げるようにその場を離れて、宿まで走って帰った。
「お帰り、ダイク!夕飯の準備は出来てるから、お腹がすいたらいつでも下りといで!」
おばさんは今日も元気に働いている。
「ありがとうございます。もう少ししたら、また下りてきますね。」
そう言って、階段を上がって部屋へと入る。
ロゼとルバークはまだ帰っていないみたいだ。
「シラクモ、出ておいで。」
ローブを脱ぎながらシラクモに声をかけると、待ってましたと言わんばかりにフードから跳び出てきた。
窓際に座ってシラクモを撫でていると、ノームが騒ぎ出す。
「鬼蜘蛛なんて撫でてないで、夕飯にしましょうよ!わたしはお腹がすいたわ!」
あんなに食べていたのに、もうお腹がすいたらしい。
「もう少し待ってたら、ロゼとルバークさんが帰ってくるかもしれないだろ。
「あの二人なら今日は帰ってこないわよ!」
「お前、もしかしてもう一匹のノームの状況までわかるのか?」
「もう一匹って何よ、失礼しちゃうわね!」
「あぁ、ごめんごめん。で、わかるのか?」
適当に謝ってノームに問いかける。
「わかるわよ!なんてったって森の妖精ですからね!」
何を誇っているのかは理解できないが、二人は帰ってこないのか・・・。
夕食もほとんどがノームに食べてもらい、部屋へと戻った。
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