第81話 快気祝い
だんだんと日が沈んでいく。
きれいな夕焼けが闇に飲み込まれ、辺りは真っ暗になってしまった。
ロデオは激走を続け、滝まであと少しというところまで来ていた。
道に迷うことが無いように、進む先に魔法の光の玉を飛ばす。
「ダイク君、魔法を使って大丈夫なの?何かおかしなところは無い?」
ルバークは心配からか、過保護気味だ。
「ルバークさん、心配する必要はありませんよ。特に変わりはありません。」
表情なんかは今でも動いている感覚がある。
だが、ルバークたちは表情が変わらないと言う。
もう既に、自分でも何がおかしいのかが分からなかった。
「ねぇ、ちょっと!暇なんだけど!なにか話でもしなさいよ!」
ノームはブレることなくうるさかった。
だが、怒りの感情が鳴りを潜めてからは、全く気にならなくなった。
「そういえば、あそこの森にいたトレントは討伐しなくてよかったのか?」
あの時、戦いに勝ったトレントはノームの指示で森へと帰っていった。
「あの子たちはいいのよ!わたしが生み出したトレントだから!ダイクは魔獣と見れば、何でも討伐しようとするのね!あ~、やだやだ!」
「何がいいんだ?あいつ等だって、人が近づけば襲ってくるんだろ?」
「そんな野蛮なことしないわ!あの子たちはしばらくすると、森の一部に・・・木に戻るわ!わたしのトレントちゃんを馬鹿にしないでよね!」
「ふ~ん。」
「そこの鬼蜘蛛だって、そうでしょ!誰彼構わず襲う訳じゃないでしょ!それと同じよ!」
ノームは俺の頭をポカポカと叩いているが、気にならないので放っておく。
あまり人の通る道を走っていないために、荷車はガタガタと音を立てて揺れる。
ロデオが森の中に入ると、ノームは元気に飛び回った。
辺りを魔法で照らしているとはいえ、ほんの数メートル先までしか見えない。
「ダイク兄、もうすぐだよ!」
ロゼがそう言うと、滝の音が微かに聞こえてくる。
滝の中に入るために服を脱ぎだすと、ルバークに止められる。
「ダイク君、脱ぐ必要は無いわよ。道を作るわ。」
ルバークは滝の方を見て、魔力を込めると洞窟へと抜けるトンネルができた。
俺たちのいる場所からトンネルまでは橋が架けられた。
「これで問題なく行けそうね。」
ルバークはそう言って、先に橋を渡り出した。
トンネルをくぐると、濡れることなく洞窟まで抜けられた。
「ノーム、ここに魔獣木をおくぞ。問題はないか?」
チョロチョロと飛び回るノームに一応、確認をとる。
「ここなら、別にいいわ!土は森に繋がってないし、いい場所じゃない!」
「森に繋がってないってことは、ノームはここにあった魔獣木の存在は知らなかったのか?」
「ダイク兄、今はそれどころじゃないでしょ!早く、魔獣木を出して!」
「そうよ、ダイク君。話は後でにしましょう。」
ルバークとロゼに急かされて、魔獣木をアイテムボックスから取り出す。
四本になった魔獣木を適当に土に植えていく。
「これでいいですかね?」
振り返ると、ルバークとロゼは心配そうに俺の顔を見てくる。
「二人でそんな顔しないでください。俺まで不安になりますよ!」
出来る限り明るい声を出して言った。
「それも、そうよね。」
神妙な面持ちでルバークが言う。
その反応から、表情は戻っていないんだろう。
「寝たら元通りかもしれませんし、今日のところはサンテネラに戻りましょうか。お腹もすいてきましたね。」
吹き抜けている天井を土魔法で覆っていく。
「ダイク君、何してるの?」
「魔獣木って共通して光の入るところに植えられているんです。もしかしたら、光を浴びないと生きていけないのかもと、思いまして。まぁ、生きているようにも見えないんですが・・・。」
そうしている間にも、魔獣木からは実が落ち始めていた。
「いい案ね!可能性はあるんじゃない?」
ノームは納得してくれたが、ルバークとロゼはポカンとしている。
「話は後にして、今はここを出ましょうか。」
二人の背中を押して、洞窟を出る。
洞窟の入り口にも土魔法で隙間なく封印して、人の出入りができないようにしておいた。
橋を渡って、荷車に乗り込む。
御者はルバークに変わった。
全員が乗ったのを確認すると、ルバークはロデオを走らせる。
「ノームはこれからどうするんだ?森に帰るのか?」
「なんでよ!もちろん、わたしもついて行くわよ!ダイクには魔獣木をどうにかしてもらわないといけないんだから!」
頭の周りとウロチョロと飛び回るノームを見て、少しイラっとした気がする。
「ノーム、少しイラっとするから飛び回るのやめてくれる?」
「本当に!?ダイク兄、イラっとしたの?」
「た、たぶんね。そんな気がするんだ。」
ロゼは俺がイラっとしたことに、満面の笑みで喜んでいた。
シラクモも、クガネもロゼの周りで嬉しそうにしている。
サンテネラに帰り着くと、宿へと一直線に戻った。
ロデオを厩舎に戻して、宿の扉を開けると酒場が賑わっていた。
「おばちゃん、今夜からわたしも泊めてもらうわね!」
ルバークが調理場で作業をしていたおばさんに声をかけると、おばさんは走ってルバークの元に駆け寄った。
「ルバークちゃん、お帰り!心配したんだからね!」
目に涙を溜めたおばさんがルバークに抱き着いた。
「おばちゃん、苦しいわ。心配してくれて、ありがとう。もう、大丈夫よ!」
「よかった、本当によかったよ!」
感動の再開に水を差すように、俺とロゼのお腹が鳴る。
「フフフ、おばちゃん。わたしたち、お腹すいているの。何かお願いできる?」
「任せておきなよ!すぐに持ってくるよ!座って待ってなよ!」
ルバークの快気祝いなのか、いつもより豪華な料理がテーブルに並ぶ。
「宿からの祝いだよ!いっぱいお食べ!」
「「「いただきます!」」」
一口食べてみるが、やはり味はしなかった。
「美味しいわね!これっ!」
ノームもなぜか同じテーブルで、俺の皿から食事を摂っている。
「ノーム、お前こんな堂々と姿を見せていいもんなのか?」
「何言ってんのよ!他の人には見えないようにしてるわよ!ちゃんとしてるのよ、わたし!」
そう言って、食事をがっついている。
残すのも悪いし、正直ノームがいてくれて助かった。
「ダイク君、味はどう?」
ルバークが食べる手を止めて、聞いてくる。
「やっぱり、まだ味も臭いも感じないです。すいません。」
「・・・そう。でも、もう少し食べてね。今日もいろいろ動き回ったんだから、体のためにも食べないと。ノームちゃん、ダイク君の分も残してあげてね。」
「わかってるわよ!わたしはもうお腹いっぱいよ!残りはダイクが食べなさいよ!」
膨らんだ腹を擦りながら、ノームは言う。
無味無臭の食べ物を口に運ぶが、何とも変な感覚だった。
ルバークとロゼを悲しませないためにも、皿に盛られた分は食べきった。
部屋に戻ると、ロゼに無理やりベッドに寝かされてしまう。
「まだ寝るには早いんじゃない?」
早く寝かせたいロゼの気持ちもわかった。
しかし、こういう時に限って、眠気のねの字もない。
「ダイク兄はもう寝るんだよ。寝たら良くなるんでしょ?」
悲しそうな顔でそう言われては、寝るしかない。
「わかったよ。もう今日は寝るよ。シラクモも寝るか?」
シラクモは前足をあげると、枕元で足をたたんで小さくなった。
目を瞑ってシラクモを優しく撫でていると、意識が微睡んでくる。
「ちょっと、わたしはどこで寝ればいいのよ!」
意識の向こうでノームが騒ぎ立てているが、聞こえなかったことにして微睡みに身を任せた。
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