第80話 森の妖精
目の前をチョロチョロと飛び回るノームをむんずと捕まえる。
「ちょ、ちょっと!!」
「魔獣木の回収は終わったぞ。早く話せ。」
抑えきれない怒りをノームにぶつける。
「ダイク君、落ち着いて!目を閉じて、冷静になりなさい。」
ルバークは手で、俺の両目を覆った。
再び深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
「ルバークさん、ありがとうございます。落ち着きました。ロゼも、大丈夫だよ。」
心配そうな顔をしているロゼにも声をかける。
「ねぇ、ノームさん。ダイク兄は治るの?味を感じなくなっちゃったみたいなんだけど・・・。」
ロゼは俺の手からノームを助けようとするが、触ることができなかった。
「あれっ?ノームさん、触れないよ?」
「だから、言ってるじゃない!なんで、ダイクはわたしを捕まえられるのよって!わたしは妖精なのよ!普段は人には見えないし、触れないの!」
触れていることが気持ち悪くなり、ノームを雑に手放す。
「ちょっと!丁寧に扱いなさいよ!わたしはレディなのよ!」
「悪いけど、あんまりイライラさせないでくれないか?抑えるのに必死なんだ。今は俺がノームを触れることはどうでもいいんだ。早く話を聞かせてくれ。」
「わかったわよ。話せばいいんでしょ!」
ノームは俺を呼んだ理由を話し出した。
「魔獣木を回収してほしいの。」
ノームが小さな声でポツリと呟く。
「・・・えっ!?」
「魔獣木を回収してほしいの!!聞こえないの?」
「ダイク兄は回収してるよ?」
「全てよ。この地上にあるすべての魔獣木を回収してほしいの!」
ノームが大きな声で叫んだ。
「全てって言っても、どこにあるのか俺には分からないよ。」
「わたしが案内するわ!だから、お願い!魔獣木を回収してくれない?」
魔獣木とノームの利害がわからなかった。
「ノームは魔獣木があることで何か困ってるのか?」
「あの木は周りの木々や、魔獣を栄養としているの。初めは周囲の木々を吸収して、次に魔獣を生み出して、その魔獣を吸収するの。元々そこにいた魔獣たちは、生み出された魔獣によって追い出されているみたいね。あなたたちの森で一時期あったじゃない。ウルフが襲ってくることが。あれは魔獣木が植えられたからよ。」
「植えられたって、人為的に植えられているのか?」
回収よりも、植えるのを止めるのが先じゃないんだろうか。
「そうよ!どこからともなく現れて、植えたと思ったら消えるの!止める暇もないわよ!」
「ダイク君、・・・それってあの魔法じゃないのかしら?」
「そうですね。可能性は高いと思います。」
恐らく、空間魔法を使っているんだろう。
「そいつの姿は・・・いや、今はいいか。ノームは魔獣木があることで、木々が吸収されることで困ってるってことでいいのか?」
逸れた話を元に戻す。
「それもあるわ!魔獣木は色々なところに悪影響を及ぼすのよ!土は死んじゃうし、ルバーク!あなたの罹った魔熱病だったかしら?それも魔獣木が原因よ!そして、ダイク。あなたの中にある魔獣木も根を張って、あなたに悪影響を及ぼしているわ!」
ノームは真面目な顔で、まっすぐにこちらを見た。
「早いこと外に出した方がいいわ!その魔獣木のお陰で、ダイクと繋がることができたけど、人には・・・この世界には酷な植物だわ。」
「俺の中に根付いた魔獣木を通じて、声をかけてきたってことか?」
「まぁ、そんなところね!」
「ちょっと待ちなさい、ノームちゃん!ダイク君はこのままアイテムボックスに魔獣木を入れて置いたままだと、どうなっちゃうのかしら?」
「そんなことは、わからないわ!でも、正気を保ってはいられないんじゃない?」
ノームは他人事のように吐き捨てた。
それを聞いて、ルバークは俺とロゼの手を掴んできた道を戻り始めた。
「急いで滝のある洞窟まで行くわよ!ダイク君、お願いね!」
自ら俺の背に乗ってくる。
「ちょっと待ちなさいよ!わたしの話が終わってないわよ!」
「行きましょう!」
ノームの声は無視して、走り出せと指示が出た。
身体強化を使って、走り出す。
ノームも負けないスピードでついてきたが、森を出ると急激にスピードが落ちた。
「ダイク兄、可哀そうだよ・・・。」
ロゼが後ろを振り返りながら言った。
しょうがなく、森へと戻る。
「お前は森から出られないのか?」
ついつい辛辣な物言いになってしまう。
「当り前じゃない!わたしは森の妖精なのよ!本当に信じられないわ!」
頬っぺたを膨らませて怒るところが、ロゼにそっくりで笑ってしまう。
「ダイク兄!今、ボクに似てる・・・ダイク兄、大丈夫!?」
ロゼが心配そうにこちらを見ていた。
「何が?今は怒ってないよ?」
ルバークも背中から下りて、俺の顔を見ている。
「ダイク君・・・。ノームちゃん、わたしたちは急がないといけないの。話はまた今度でいいかしら?」
ルバークは焦りながらも真剣な顔でノームに言った。
「わかってるわよ!ロゼ、この枝を持ちなさい!」
ノームは森に転がっている枝を指差して言った。
「いいけど・・・。」
ロゼが木の枝を拾うと、ノームは枝に腰掛けた。
「さあ、急ぎましょう!早く走りなさいよ!」
よくわからないが、枝さえあればノームは移動できるようだった。
「ダイク君、急ぎましょう。」
俺の背に再び乗って、ルバークが言った。
ロデオの元まで走ると、ロゼは荷車に枝を投げて御者台に飛び乗った。
「ロデオ、出来る限り急いでくれる?お願いね。」
ルバークはロデオを撫でながら言い聞かせる。
ロデオもルバークに答えるように、嘶いた。
「ちょっと、ロゼ!あんた、レディの扱いがなってないわよ!」
ノームは文句を垂れているが、誰にも相手されない。
「ダイク君、早く乗って。ロゼ君、行きましょう。」
俺たちが乗り込むなり、ロデオはフルスピードで走り出した。
「どうしたんですか、ルバークさん。何か変なことありました?」
「ダイク君・・・自分ではわからないのね・・・。」
暗い顔をして、ルバークはそう言った。
「なんなんですか?言ってくださいよ!」
声を荒げてしまった。
「ダイク君。今は・・・怒っているのよね?表情に・・・出てないわ。」
自分で顔を触ってみるが、実感できない。
感覚としては、顔の筋肉も動いている感じはあった。
「これでも、表情がありませんか?」
精一杯の変顔をして見せるが、ルバークの悲しそうな顔は変わらない。
「・・・そうですか。」
自分のことのはずなのに、何とも思わなかった。
むしろ、これで怖い顔をしないで済むくらいに思えた。
ノームが俺の顔を引っ張ったりしているが、怒りすら湧いてこない。
「おかしいわね、さっきまではすぐに怒っていたのに!」
ノームがそう言うと、ルバークの表情はさらに暗くなる。
確かに、さっきまではあんなにイラついていたのに、そんな感情も見当たらない。
「ハハハ、これでノームは俺に怒られることはないな!」
場を和ませようと言ってみたが、ルバークは笑わない。
「ちょっと、無表情で笑うって怖いわよ!気をしっかり持ちなさい!魔獣木に飲み込まれたら終わりよ、ダイク!」
ノームにまで心配をされてしまう。
「ノームちゃん、本当にアイテムボックスから魔獣木さえ出せば、ダイク君は元に戻るのよね?」
「ん~、たぶん大丈夫じゃない?」
「たぶんって、ふざけないでちょうだい!ノームちゃんが先に魔獣木を捨てるように言ってれば・・・ごめんなさい。これは結果を見ればそうなっただけよね。」
声を荒げたルバークは、自分自身で答えを飲み込んだ。
「ルバークさん、俺は大丈夫です。なんとかなりますよ!」
シラクモも俺のことを心配してくれるのか、じっとこちらを見ていた。
「大丈夫だよ、シラクモ。」
何度も大丈夫を繰り返して言った。
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