第79話 夢の声
宿の裏手にある厩舎に、直接ロデオを迎えに行った。
宿のおばさんに退院したことを報告するのかと思ったが、そんなことはなかった。
荷車を取り付けて、俺のために急いでくれている。
元気そうにしているルバークを見て、ロデオは鼻息荒く喜んでいた。
ロゼが御者台に乗ると言うので、俺とルバークは荷車に乗った。
ロゼのことを認めてくれたのか、ロデオは問題なく走り出す。
サンテネラを離れて、魔獣木の生えているという森を目指した。
「夢の話だと、魔獣木をアイテムボックスに入れておくのはまずいのよね?」
荷車に揺られながら、ルバークが話しかけてくる。
「そう言ってました。魔獣木が俺を蝕んでるって。」
夢のことは今でもはっきりと思い出せた。
「それが本当だとして、どうやって魔獣木をアイテムボックスの外に保管するってことが悩みどころね・・・。」
「そのことなんですけど、三本目の魔獣木を回収した場所が滝の裏の洞窟だったんです。そこでは魚の魔獣が生まれてきました。洞窟の中は水が無いので、魚の魔獣は何もできません。そこに魔獣木を集めて置くのってだめですかね?」
「それはいいわね。場所はどこにあるの?」
「ヴィドさんの村の近くにある川の上流にあります。簡単に倒せて、食料にもなります。ヴィドさんたちに管理を任せて、村の名産品でもすればいいと思うんです。」
「そんなことまで考えているのね。ヴィド君たちに相談は必要だけど、その方向でいきましょうか。わたしは魔道具でどうにかできないか、考えてみるわね。」
ルバークはそう言って研究モードに入り、口が堅く閉ざされた。
俺も目を瞑って、気持ちを落ち着かせる。
街道を外れて進むと、ウルフが何度か襲いかかってきた。
ルバークは動く気配もなく、ロゼは御者をしなければならない。
俺が荷車の上で立つと、シラクモとクガネが荷車から跳び出て行った。
二匹を見て、ウルフたちは敵わないと思ったのか、尻尾を巻いて逃げていった。
シラクモがクガネを背負って、一跳びで荷車に戻ってくる。
「お疲れ様、シラクモ、クガネ。」
労って、二匹の腹を撫でてやる。
ロゼも戦いたいのか、ウズウズしているのが見えた。
しかし、自ら申し出た御者を放り出す訳にもいかず、大人しくロデオと前を向いていた。
昼を少し過ぎた頃、前方に小さな村が見えてくる。
「ダイク兄、村が見えてきたよ!」
村の人は避難しているのか、人影は見当たらない。
「あの村でロデオに待っていてもらおうか。あとは歩ける距離にあるはずだ。」
人気のない村へと入り、荷車から下りる。
「ルバークさん、ここからは歩いていきますよ。」
周りの見えていないルバークに声をかける。
「あら、もう着いたの?早かったわね。」
「頭痛はどうですか?ここで少し休憩してから行きますよ。」
「そうね、痛みは無いわ。心配してくれてありがとう。久しぶりに唐揚げパンが食べたいわね。」
昼飯はまだなので、合わせて摂ることにする。
「ボクもお腹すいたよ~!ロデオもお腹すいたよね?」
ロデオの水と餌の入った皿をロゼに渡す。
水はそのままロデオの近くに置いて、餌は一つ一つ手渡しであげていた。
ルバークはお茶を淹れている。
俺も唐揚げパンを出して、スープを温める。
「ここからはどのくらいかかりそうなの?」
「俺がルバークさんを背負って走るので、そんなに時間はかからないと思います。」
「ボクが背負ってもいいよ!」
「ロゼは魔獣を倒すために、体力を残しておいて。」
「わたしも走れるわよ。何も背負わなくったって・・・。」
「身体強化を使うので、たぶんついてこれないと思います。ルバークさんは病み上がりなんですから、大人しくしていてください。」
ルバークと話していると、不思議とイライラすることは無かった。
サンテネラを出てからは気が楽だった。
昼食を終えると、ルバークを背負って走り出した。
悲鳴にも近い声をルバークはあげたが、立ち止まることなく走る。
「ロゼ、あそこの森のはずだ。」
村を出て、しばらく走ると鬱蒼とした森があった。
草木が生い茂り、そのまま進むことは困難だった。
森の手前で一度止まり、ルバークをいったん下ろす。
「全く手つかずの森って感じね。どうやって進みましょうか。」
(どうぞ、こちらへ・・・。)
また、夢の声が聞こえてきた。
「だれっ!?」
ロゼが驚き、声をあげた。
「今の声、聞こえたのか?」
「わたしにも、はっきりと聞こえたわ。」
ルバークにも聞こえていたみたいだ。
「今の声が、夢に出てきたんです。でも、こちらへって・・・。」
狼狽えていると、木々がメキメキと音を立てながら左右に分かれていく。
「ここを行けってことかしら?」
ゆっくりと、一本の道ができていく。
「そうかもしれませんね。行ってみましょう。」
警戒しながら、森の中へと入っていく。
開かれていく道をしばらく進むと、開けた場所で木が戦っていた。
「どういうことなの?いったい何が起こっているの、これ・・・。」
ルバークは小さな声でつぶやいた。
俺にもよく分からない。
鑑定で見てみると、トレントという魔獣だった。
「あれは、トレントって魔獣のようです。」
しかし、なぜ魔獣同士で戦っているのかが分からなかった。
「こっちよ、こっち!」
どこからともなく声がした。
三人で辺りを見渡すが、声の主が見当たらない。
「こっちよ、下、下!」
近くに生えていた木の根の隙間から、羽の生えた小さな人が出てきた。
「目が合ったわね!わたしよ、ダイク。夢の中で呼んであげたでしょ!」
酷く混乱して、すぐに声が出なかった。
ルバークとロゼは、妖精のようなものと俺を交互に見てくる。
「あ、あの、あなたじゃないと思います。声は似てますが、もっと丁寧な話し方をしてましたよ。」
妖精のようなものはケタケタと笑った。
「あれは演出よ!それっぽく感じられたでしょ!わたしに感謝しなさい!」
「はぁ。」
気の抜けた返事になったが、何だかイライラしてくる。
「ちょっと、そんな怖い顔しないでよ!わたしはノーム。森の妖精よ。」
羽を羽ばたかせて、俺たちの周りをクルクルと回り出す。
「ボクはロゼだよ!はじめまして!」
「知ってるわ!わたしは木々を通して、あなたたちのことを見ていたわ。なんたって、わたしは森の妖精だからね!」
「ノームちゃん、あなたがダイク君を呼んだのよね?」
「そうよ、わたしが呼んだの。魔獣木について教えてあげるためにね!」
「じゃあ、早く教えてください!」
イライラが募り、妖精が近づいたのを見計らって手を伸ばすと、妖精はあっさりと捕まった。
「ちょっと、なんで捕まえられるのよ!」
ノームは手の中でジタバタと暴れている。
「ダイク君、落ち着いて。ノームちゃんもあまりダイク君を怒らせないでちょうだい。」
ルバークに諭され、一度深呼吸をして気持ちを整える。
「わかったわよ!ダイク、手を放しなさい!」
手を放してやると、トレントが戦っていた場所へと飛んでいった。
トレントはまだ残っているが、戦いは終わっていた。
「ありがとう、もう戻っていいわよ!」
ノームがそう言うと、トレントは森の中へと戻っていった。
「早くこの魔獣木を回収しなさい!話はそれからよ!」
ノームが喋るたびにイライラが募るが、魔獣木の回収を優先する。
先ほどまではトレントたちに隠れていたが、森の開けた場所の真ん中に魔獣木があった。
シラクモと協力して、魔獣木の生えている地面を魔法で解していく。
「わたしも手伝うわ。」
ルバークの協力もあり、魔獣木はあっさりとアイテムボックスの中へと消えた。
その間もノームは俺の目の前をチラチラと横切って、イラつかせてきた。
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