閑話 一人でお見舞い
目を覚ますと、ダイク兄は部屋の中で何かを探してるみたいだった。
ベッドの下を覗いたり、窓の外を見たりと部屋のあっちこっちを調べている。
声をかけようかなって思ったけど、寝てるふりをした。
最近のダイク兄はなんだか、ちょっと怖かった。
なにかあるとすぐに怖い顔になっちゃう。
ボクには優しくしてくれるけど、どうしちゃったんだろう。
疲れてるって言ってたけど、本当にそれだけなのかな?
前は疲れても、そんなことなかったんだけどな・・・。
そんなことを考えていると、部屋のドアが開く音が聞こえてきた。
起き上がって部屋を見渡すと、ダイク兄がいなくなっていた。
「クガネ、起きて!ダイク兄がこんな時間なのにでかけちゃったんだ!どうしよう!」
クガネは眠たそうにしながら、ローブのフードに入った。
「追いかけろってこと?・・・わかった!ボク、行くよ!」
ローブを着て、こっそりとダイク兄の跡を追いかけた。
部屋を出て階段を下ると、ダイク兄は宿を出ていくところだった。
「こんな時間に外にでちゃうの?ダイク兄はどこに行くんだろう・・・。」
ポツリと呟くと、クガネがフードから肩に出てきた。
クガネは左の前足をあげて、宿の扉を差している。
「わかってるよ、クガネ。ダイク兄、見えなくなっちゃうもんね。」
小走りで追いかけると、ダイク兄はフラフラと宿の周りを歩いていた。
目がぼんやりとして見えるのは気のせいかな?
無表情で何かを探しているみたい。
ロデオのところに行ったり、冒険者ギルドに行ったりして何かを探している。
何を探しているのかは分からないけれど、跡を追った。
ダイク兄が大通りに出て歩いていると、おじさんに絡まれて路地裏に連れていかれた。
「クガネ、大丈夫だとは思うけど、何かあったらダイク兄を助けに行くよ!」
小さな声でクガネに報告する。
おじさんがナイフを取り出しだのを見て、助けに行こうと思ったらダイク兄のフードからシラクモが跳び出した。
シラクモが跳びつくと、おじさんは転びながら逃げていっちゃった。
ダイク兄はシラクモと何かやり取りをしていた。
ここからじゃ聞こえないけど、しばらく見てるとしっかりした歩きでこっちに戻ってきた。
さっきまではフラフラと歩いてたけど、今はいつも通りの歩き方をしている。
「ダイク兄、宿に帰るのかな?ボクたちも急いで帰ろうか!」
見つからないように静かに宿まで走った。
ベッドに入って寝たふりをしてると、ダイク兄も帰ってきた。
ダイク兄はベッドに横になると、すぐに寝ちゃった。
「ダイク兄、どうしちゃったの・・・?」
寝ているダイク兄からの返事は無い。
寝ようと思っても、ダイク兄のことが心配で寝られなかった。
自分ではどうしてあげればいいのか、わからなかった。
朝になったらルバークさんに相談に行こうと決めた。
目をつぶっても、寝ているうちにダイク兄がどこかに行っちゃうんじゃないかと心配で寝られない。
ベッドから起き上がって、窓の外を見て過ごした。
クガネは寝てたけど、シラクモが付き合ってくれる。
「シラクモ、ダイク兄はどうしちゃったんだろうね。ボクは朝になったらルバークさんのところに行ってくるよ。シラクモはダイク兄のことをお願いね。」
前足をあげて、答えてくれる。
「ありがとう、シラクモ。そろそろ日が出てくるから準備するね。」
静かにローブを被って、クガネをフードに入れる。
「寝てるのにゴメンね。クガネ、ちょっと出かけるからついて来て!」
部屋をでて、階段を下りた。
「あら、おはよう!早いけど、どうしたんだい?」
「おはよう、おばさん!ちょっとルバークさんのところに行ってくるよ!ダイク兄は寝てるから、下りてきたらすぐに帰るよって言っておいてもらえる?」
「いいけど、一人でいけるかい?」
「うん、大丈夫!ダイク兄のこと、お願いね!」
宿を出て、治療院まで走った。
治療院の扉を開けると、カウンターにはまだ誰もいなかった。
廊下を歩いて一番奥の部屋に着くと、静かに扉を開ける。
「おはようルバークさん、起きてたの?」
ルバークさんは魔石をいじっていた。
「あら、おはよう、ロゼ君。どうしたの?こんなに朝早くに。」
「聞いてほしいことがあるんだ。」
そういって、ルバークさんのベッドの脇にある椅子に座る。
「そうなの?ダイク君はどうしたの?」
「まだ宿で寝てるよ。ダイク兄のことだから、ボク一人で来たんだよ。」
「ダイク君のこと?いいわよ。言ってみて。」
「最近、ダイク兄がちょっとおかしいんだ。ちょっとしたことですごい怖い顔になったり、すぐに疲れちゃうんだ。昨日の夜は一人で勝手に出かけて行っちゃうし・・・。」
「最近っていつ頃からなの?わたしの前では、普段と変わらなかったと思うけど・・・。」
「森にいた時はいつもと変わらなかったかな。サンテネラに来てからおかしいかも。」
「そうなの・・・。どんなことで怖い顔になったのか教えてくれる?」
「うん・・・。」
冒険者ギルドであったこと、治療院であったことを説明する。
「そう。・・・教えてくれてありがとう。今日じゃなくてもいいんだけど、ダイク君を連れてきてくれる?わたしも話してみるわ。」
「うん。わかった。」
「ロゼ君は、普段通りにしてればいいわ。ダイク君は本当に疲れてるだけかもしれないし、優しくしてあげてね。こんな時に近くにいてあげられなくて、ゴメンね。ロゼ君。」
「ううん、話を聞いてくれるだけで、ボクは嬉しいよ。どうしたらいいのか、わかんなかったからルバークさんと話せてよかった!」
ルバークさんがベッドから立ち上がって抱き着いてきた。
「もう少しで、わたしもここから出られると思うわ。もうしばらく待っててね。」
「うん、ルバークさんは体を良くしないとね!今日は話を聞いてくれてありがとう。ダイク兄も心配してると思うから、もう帰るね!」
「そうね。ダイク君によろしくね。」
ルバークさんに話せたことで、少し気が楽になったように思った。
治療院を出て、宿へと戻っているとギルド前でマスターに捕まった。
「朝早いな、ロゼ。一人で出かけてるのか?」
「ルバークさんのお見舞いに行ってきたんだ!」
「今日は依頼を受けないのか?」
「もう受けられないかも。報酬を知って、ダイク兄が怒ってたから・・・。」
「あっ、あれは・・・どうしようもなかったんだ。詳しくは言えないが、あれでも頑張った方なんだぜ!?」
「それなら、しょうがないね。これ以上、ボクはダイク兄を怒らせたりしたくないんだ。」
「そんなにダイクは怒ってるのか?・・・参ったな。」
「ごめんね、マスター。ダイク兄の気が向いたら受けに来るよ。」
「ダイクの気が向くように、ロゼが頑張ってくれよ。な、頼むぜ。」
「無理だと思うよ。ダイク兄、最近体調が悪いんだ。」
「そうなのか?まさか、魔熱病か?」
「違うよ!熱がある訳じゃないんだけど・・・。ボクにもよく分からないんだ。」
「そうか・・・。一度、治療院で診てもらったらどうだ?」
「うん、そうできるなら、してみるよ。ダイク兄を待たせてるから、もう戻るね!」
「ダイクによろしくな!」
宿に戻ると、ダイク兄は少し機嫌が悪かった。
黙って出ていったことを怒っているみたいだった。
ベッドに横になったまま、目を閉じている。
夕飯の時まで、部屋の中には気まずい雰囲気で包まれることになる。
日が沈みかけた頃、声をかけると一緒に夕飯を食べてくれた。
今日の出来事を謝りあって、笑いあった。
久しぶりにダイク兄が笑っていた気がする。
評価とブックマーク、ありがとうございます!
まだの方は是非、お願いします!
モチベーションになります!