第77話 募る不安
誤字報告、ありがとうございます!
目を覚ますと、隣でロゼが寝ていた。
窓の外はすっかりと日が落ちて、大通りにも人影はない。
昨日も一人で夕飯を食べさせてしまったみたいだ。
椅子に座って、自己嫌悪に陥っていると、俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
(ダイク・・・・・・ダイク・・・・・・。)
こんな時間に・・・と思ったが、はっきりと俺の名前を呼んでいる。
部屋の中を見渡すが、ロゼ以外いない。
窓の外から呼ばれているわけでもなさそうだ。
何度も繰り返し、名前を呼ばれている。
あまりにもはっきりと聞き取れるので、マザーのように頭に直接話しかけているのかもしれない。
何度も呼ばれるので、装備を整えて部屋を出てみる。
階段を下ると、酒場はもう終わったみたいで静かだった。
魔石の光も消えていて、おばさんも寝ているんだろう。
扉は鍵が掛かっておらず、出入りは問題なくできた。
外に出ても名前を呼ぶ声は止まらない。
どこから聞こえてくるのか、方角はわからない。
とりあえず、宿の周りを調べてみる。
厩舎の方へ行くと、ロデオが眠っていた。
冒険者ギルドも行ってみるが、ここからでもなさそうだ。
サンテネラの街をフラフラと、声の出所を探してみた。
「おい、お兄ちゃん。こんな時間にぃ何してるんだぁ?」
いきなり肩を組まれ、街灯の当たらない裏路地に連れ込まれた。
「何するんですか。やめてください。」
肩組を外して押しやると、全く知らないおじさんだった。
酒の匂いがきついので、酔っ払いだろう。
「なぁ、お兄ちゃん。痛い目をみたくなければぁ、金を置いていきなぁ。まだ若いんだぁ、死にたくないだろぅ。」
酔っ払いのおじさんは腰からナイフを取り出して、脅してくる。
足元はフラフラしているので、怖くもなんともなかった。
「お断りします。忙しいので失礼しますね。」
酔っ払いに構っている時間は無い。
声の主を探して歩き始めると、フードから何かが跳び出した。
「う、うわぁ。やめてくれぃー。」
酔っ払いはナイフを落として、腰を抜かしながら逃げていった。
「シラクモ、ついて来てたのか。」
そういえば、目覚めてからシラクモのことを見てなかった。
「ずっとフードの中にいたのか?」
シラクモは前足をあげて、俺の体をよじ登り、頭の上へと乗った。
あれっ、俺はなんでここにいるんだ。
空を見上げると、まだ真夜中だ。
さっきまでのことを思い出そうとしても、靄がかかったように思い出せない。
起きて自分で宿を出た記憶はある。
なんでこんな時間に宿を出たんだろう。
自分自身のことなのに、わからなかった。
「シラクモ、俺はどうしちゃったんだろう・・・。」
シラクモが頭の上にいることは、重みでわかった。
地面に下りて、何かを伝えようとしてくれるが解読はできなかった。
宿に戻ると、ロゼはまだ寝ていた。
起こさないように静かに装備を外して、ゆっくりとベッドに入る。
目を瞑ると、まるで何事もなかったかのように眠ることができた。
再び目を覚ますと、隣にロゼがいなかった。
お腹がすいて、先に朝食をとっているんだろうか。
顔を洗い、装備を整えて階段を下る。
「おはようございます。ロゼはどこに行ったのか聞いてますか?」
酒場のカウンターにもテーブル席にもロゼの姿が見えない。
しょうがないので、おばさんに聞いてみる
「おはよう!疲れはとれたかい?」
おばさんは近づいてきて、俺の顔をまじまじと見てくる。
「顔色はよさそうだけど、もう少し休んでもいいんじゃないかい?治療院で見てもらうのもいいかもしれないね。そうだよ、ルバークちゃんのお見舞いついでに診てもらっといでよ。」
俺の質問を置き去りにして、おばさんは話す。
「そうですね。そうします。で、ロゼはどこに行ったか分かりますか?」
「あぁ、ごめんよ。ロゼは朝早くにルバークちゃんのところに行ったよ!すぐに帰ってくるから待っててって言ってたよ。」
おばさんはそう言って、調理場へと行ってしまう。
一人でルバークのところに行ったのか・・・。
行くなら、起こしてくれればよかったのに・・・。
「なに、おっかない顔してるんだい?大丈夫だよ!ロゼのことは心配いらないさ!」
料理を並べながらおばさんが言う。
「まずは、自分の心配をしなよ!しっかりと食べて、しっかりと寝る。これが元気の秘訣だよ!昨日も食べてないんだ。まずは、しっかりとお食べよ!」
カウンターには所狭しと料理が並んだ。
「ありがとうございます。いただきます。」
残すのも悪いので、頑張って食べきった。
もうこれ以上は食べれない。
「ごちそう様でした。部屋に戻りますね。」
「はいよ!しっかり休むんだよ!」
返事をして、部屋へと戻る。
ベッドに横になって、ロゼを待つがなかなか帰ってこない。
結局、部屋へと帰ってきたのは昼前だった。
「ロゼ、ルバークさんのところに行ってたんだって?」
ドアが開くなり、問いかける。
「うん、遅くなっちゃってゴメンね!」
ロゼの脱いだローブからクガネが出てきた。
「行くなら言ってくれればよかったのに。」
「ダイク兄、まだ寝てたし。気持ちよさそうに寝てたから、起こすのも悪いと思って・・・。」
「・・・そうか。なら、いいよ。」
部屋が沈黙に包まれる。
これ以上話すと、イライラしてしまいようなので目を閉じた。
魔獣木は発見済みのものがまだ二か所、残っている。
回収に向かなければ、と思うものの体が動かない。
金貨の件もあるんだろうが、何だか、なにもしたくなかった。
魔熱病に罹る人を止められると初めは意気込んでいたのに、不思議なものだ。
特効薬のお陰で、熱の脅威はないんだから頭痛に苦しむだけで、治療院にいれば死ぬこともないだろう。
なんなら、角の生えた人が増えてルバークが住みやすい世界になるかもしれない。
悪いことばかりで無いようにすら思えてくる。
そんなことを考えているうちに、日が沈んでしまった。
「ダイク兄、そろそろ夕飯にしない?体調は大丈夫?」
大人しく椅子に座っていたロゼが立ち上がった。
「大丈夫だよ。・・・下に行こうか。」
「うん!行こうか!」
ロゼが部屋のドアを開けて、エスコートしてくれる。
重たい頭を起こして、階段を下っていく。
「ゆっくり休めたかい?顔色はまぁまぁってところだね。」
おばさんによる顔色チェックが入る。
「大丈夫です。休んだら、元気が出てきた気がします。」
元気のかけらもない、小さな声で言った。
「そうかい。ほら、カウンターでいいだろ?座って待ってな!」
おばさんは俺たちを座らせて、調理場に料理を取りに行った。
「ロゼ、今日はごめんな。俺、ちょっとおかしいんだ。何がって訳じゃないんだけど、ちょっとしたことでイライラしたりしてるだろ。」
「ダイク兄、いいんだよ。今日はボクもいけなかったんだ。ダイク兄に何も言わずに一人で出掛けちゃったから。ボクもごめんなさい。」
互いに謝りあい、笑った。
「はい、おまたせ!」
丁度いいタイミングでおばさんは料理を持ってきてくれた。
「ありがとうございます。いただきます!」
「おばさん、ありがとう!いただきます!」
「はいよ!お腹いっぱいお食べ!」
おばさんの返事を聞いてから、チキンステーキを一口齧った。
味を感じることができなかった。
臭いも全くしない。
せっかくいい雰囲気になったのに、ぶち壊すのはごめんだ。
ロゼに気取られないように、味のしない食事を口の中に運んだ。
風邪でも引いたかな。
不安を打ち消すように、風邪の症状が出ているだけだと強く思い込んだ。
食事の味は分からずに終わったが、ロゼが美味しそうに食べているのを見るだけで満足できた。
食事を終え、部屋に戻ると急激に眠気に襲われる。
あぁ、やっぱり風邪でも引いたのかもしれない。
「ロゼ、何だか眠くなってきたよ。先に寝てるね。」
「わかった。おやすみ、ダイク兄。」
早々にベッドに入り、目を瞑ると夢の世界へと誘われた。
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