第75話 モヤモヤした気持ち
目を覚ますと、昨日までのモヤモヤした気持ちがすっきりと晴れていた。
よく眠れたからか、いつもより体調がいい気がする。
隣で寝ているロゼを起こさないように、窓際へと移動する。
朝日が差し込んでいて、いつもより街並みがきれいに見える。
「シラクモ、昨日はごめんな。ロゼを見ててくれて、ありがとう。」
頭の上に乗ってきたシラクモにお礼を言う。
ガラス越しにシラクモが、頭の上で喜んでいるのが見えた。
「ダイク兄、体調はどうなの?」
目を擦りながらロゼが聞いてくる。
「おはよう、ロゼ。心配かけたね。もう大丈夫だよ。寝たらすっきりしたよ。」
「そうなの?じゃあ、よかった!おはよう、ダイク兄!」
ロゼは勢いよく起き上がって、俺に飛び込んできた。
挨拶の順番がおかしいが、黙ってロゼを抱きしめる。
「顔を洗って、ご飯を食べに行こうか。」
身なりを整えて、部屋を出る。
「おはよう、二人とも!ダイク、あんた大丈夫なのかい?体調崩してるって聞いたけど。」
おばさんは朝から元気に働いている。
「おはようございます。寝たら良くなりました。ご心配をおかけしました。」
「そうかい?なら、いいのさ。座って待ってな。昨日はロゼが一人で寂しそうだったから、よかったよ。」
「それは言わなくていいよ!!」
おばさんはいたずらっ子のような笑みを浮かべて、調理場へと入っていった。
昨日はロゼに寂しい思いをさせてしまった。
申し訳ない気持ちになりつつも、怒っているロゼを見ると笑いが込み上げてきた。
「も~、ダイク兄、笑わないでよ!」
「ごめんごめん。そんなに怒らないでよ。」
和やかな雰囲気で、朝食を楽しんだ。
朝食を済ませて、ルバークのお見舞いに向かう。
「どのくらいでルバークさんは治療院から帰れるのかな?」
道すがらロゼが聞いてきた。
確かに、医師とは初日しか話せておらず、現状がよく分からない。
「治療院に行ったら聞いてみようか。」
ビクターも同じ治療院にいるのか聞いてみてもいいのかな。
家族がいるのかは知らないが、独り身なら寂しい思いをしているかもしれない。
治療院に入ると、病室には直行せずにメイド服の女性に聞いてみる。
「おはようございます。あの、聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「おはよう、お姉さん!」
「おはようございます。どうぞ、何でもお聞きください。」
「あのー、ルバークさんはいつ頃退院できますか?あとは、ビクターさんっていう方は入院されてますか?」
「退院については、まだ未定です。先生はしばらく様子を見るとおっしゃってました。ビクターさんは上の病室におりますよ。階段を上がってすぐの病室です。」
「そうですか。わかりました。ありがとうございます。」
お礼を言って、ルバークの病室を訪ねる。
扉を開けると、ルバークは額を抑えて苦しそうな顔を浮かべていた。
「ルバークさん、大丈夫ですか!?」
俺たちに気がついたルバークは笑顔に変わった。
「おはよう、二人とも。大丈夫よ。ちょっと痛んだだけ。」
「本当に?」
「えぇ、痛み止めも貰って飲んだし、頭痛のようなものよ。」
「わかりました。でも、一応シラクモお願いできるか?」
フードからシラクモが跳び出して、ルバークに回復魔法をかける。
「ありがとう、シラクモ君。痛みがマシになったわ。今日はもう寝て過ごすわね。二人はギルドに行って依頼でも受けてきたらどう?」
「はい・・・。そうしますね。ゆっくり休んでください。」
ロゼの手を引いて、病室を出る。
廊下をそのまま走り、治療院も出た。
ビクターの見舞いどころではなかった。
「ダイク兄、ルバークさん大丈夫かな?」
ロゼも再び心配そうな顔になってしまった。
「大丈夫だよ。痛み止めの薬も貰ったみたいだし、休んでれば治るよ。」
ルバークは出会った当初、魔熱病について話していた。
高熱が続いて、治まったと思えばひどい頭痛に襲われたことを。
頭痛が治まった頃には、額から角が生えていたことを。
すでに頭痛のフェーズに入っているなら、新たに角が生えてくるんだろうか。
ルバークは角のことを気にしていた。
他の人には見せないように、気を使って生活している。
何が特効薬だとイライラが募っていく。
「ダイク兄、また顔が怖い顔になってるよ・・・。」
「ロゼ、魔獣木を回収しに行こう。これ以上、魔熱病に罹る人を出さないためにも。」
「うん、それは分かってるけど・・・。」
手を繋いで、冒険者ギルドに向かって走る。
冒険者ギルドに入ると、一直線にキャサリンの元へと進む。
「キャサリンさん、昨日ジョセフさんから受けた依頼をお願いします。」
「お、おはようございます。畏まりました。お待ちください。」
あまりの勢いにキャサリンはたじろいでいた。
たじろぎながらも、依頼について説明をしてくれた。
「こちらが新しい冒険者タグです。今お持ちのものは返却していただいて、こちらと付け替えてください。」
そう言って、タグをそれぞれの手に渡してくる。
タグにはCランク冒険者と書かれていた。
「ありがとうございます。こっちはお返しします。」
俺とロゼの分のEランクのタグを外して、返却する。
新たなタグを取り付けて、首にひもをかける。
EランクからCランクに上がったが、嬉しさは無かった。
「じゃあ、行ってきますね。」
「ダイクさん・・・。いえ、お気をつけて。」
キャサリンは何か言いたげだったが、言葉を飲み込んだ。
キャサリンから教えてもらった情報によると、三か所で魔獣木が見つかっていた。
今日は、ヴィドたちの村の近くにある魔獣木を回収に向かう。
サンテネラの街を出て、村の近くの川の上流に滝があり、その裏に洞窟があったらしい。
門を出て、ロゼを背負って身体強化を使って走って向かう。
魔獣自体は脅威では無いらしいが、ロゼの体力を温存しておく。
背負われるのを嫌がるかと思ったが、ロゼは何も言わなかった。
ヴィドたちの村を過ぎると、すぐに川が見つかった。
恐らく仮設の橋を設置した場所の支流なんだろう。
上流の方角には小さな山が見える。
川幅は狭いが、水の量は十分に流れている。
川の流れに逆らう様にしばらく進むと、激しい水音が聞こえてきた。
「ダイク兄、あそこじゃないかな?」
ロゼの指差す先には、山の中腹位にある断崖から水が激しく落ちてきていた。
「ロゼ、お腹すいてないか?」
背中からロゼを下ろして、聞く。
「すいてないけど、ダイク兄は疲れてないの?」
「大丈夫だよ。けど、休憩してから中に入ろうか。シラクモとクガネも出ておいで。」
水を一杯ずつ飲んで、少し座って休む。
「ここに来るまでの魔獣は倒してこなかったけど、いいのかな?」
ロゼが剣を素振りしながら言った。
「良くはないけど、今は魔獣木が優先だよ。ほかの魔獣は他の冒険者にお願いしよう。」
身体強化を使って進んできたが、その間も魔獣は見かけたが無視してきた。
ほとんどはウルフだったし、いちいち止まっていたら日が暮れてしまう。
ロゼの気持ちも分かるが、俺たちにもできる限界がある。
そんな言い訳じみた事ばかりを考えてしまう自分に、嫌気がさした。
「帰りに余裕があれば、倒しながら帰ろう。それでいいか?」
「うん、そうだね。ありがとう、ダイク兄!」
ロゼは嬉しそうにしていた。
そんな姿を見て、ロゼのことがやけに眩しく見えた。
ため息を一つついて、考える。
サンテネラに来てから、感情のコントロールがうまく効かない。
森にいた時からだっただろうか。
いや、そんなことはない。
ルバークの熱のおかげで気づかなかっただけかもしれないが・・・。
評価とブックマーク、ありがとうございます!
まだの方は是非、お願いします!
モチベーションになります!