第74話 魔熱病と報酬
翌朝、宿で朝食を食べて、治療院を訪ねた。
病室に入ると、ルバークはベッドに座って魔道具をいじっていた。
顔色もだいぶ良くなっているように見える。
「おはようございます。体調はどうですか?」
「おはよう、ダイク君。ロゼ君も。心配かけたわね。もうだいぶ良くなったわ。」
「ルバークさん!!」
俺の後ろに隠れていたロゼが、ルバークに飛び込んだ。
「ロゼ、ルバークさんは病人なんだぞ!」
ルバークはそんなこと気にせずに、ロゼの頭を撫でる。
「フフフ、いいのよ、ダイク君。薬のおかげで熱もだいぶ下がったし、連れてきてくれてありがとうね。あんなに嫌がってたのが、馬鹿みたいね。」
「いいんです。あまりいい印象がなかったみたいですし、しょうがないと思います。まずは、しっかり治してくださいね。」
「そうだよ、ルバークさん!早く良くなってね!」
「ありがとう、二人とも。」
病室のドアがノックされる。
ドアの方を見ると、メイド服の女性が立っていた。
「お話し中すいません。これから検査が始まりますので、お引き取り願います。」
女性はそう言い残して、戻っていった。
「そういうことだから、二人はサンテネラを満喫してらっしゃい。」
ルバークはそう言い、俺たちを見送った。
ついこの前に来たばかりなので、買うものもない。
特にすることもないので、冒険者ギルドに寄ってみてもいいかもしれない。
「ロゼ、何か簡単な依頼でも受けようか。」
宿へと向かいながら、ロゼに話しかける。
「いいよ!ボクも行きたいと思ってたんだ!」
治療院から向かう先は変わらない。
行き先が宿から、宿の近くにある冒険者ギルドに変わっただけだ。
ロゼと手を繋いで、大通りを曲がって裏路地へと入っていく。
ギルドに入ると、すぐのところにある掲示板に直行する。
討伐系の依頼は相変わらずに高ランクのみが対象となっていた。
「これでいい?」
手ごろな薬草採集の依頼を指差して、ロゼに聞いてみる。
「う~ん、まぁ、しょうがないよね。それにしよっか。」
しぶしぶ納得してくれた依頼を剥がして、受付にいるキャサリンのところに持っていく。
「これ、お願いします。」
「ダイクさん、ロゼさん。申し訳ありませんが、こちらはお受けできません。」
「えっ、なんで!?」
「詳しくはマスターからお話しします。解体部屋の奥の部屋でお待ちいただけますか?」
「は、はい。わかりました・・・。」
返事を聞くと、キャサリンはカウンター奥の部屋へと入っていった。
よく分からないが、依頼を受けられなかった。
しょうがないので、解体部屋へと向かう。
「こんにちは。リンデンさん。」
解体部屋のドアを開けると、すぐにあるカウンターでリンデンは書類仕事をしていた。
「おう、お前たちか。ルバークが大変だったみたいだな。アルから聞いたぞ!」
書類仕事の手を止めて、俺たちに向き合う。
「で、今日は何を持ってきたんだ?」
「何も持ってきてません。キャサリンさんに奥の部屋で待つように言われたんです。」
「そうだよ。ボクたち、依頼を受けれなかったんだよ!」
ロゼが頬っぺたを膨らませながら言う。
「ガハハハ、そうか。残念だったな!だが、お前たちにとっても悪い話だけじゃないはずだぜ。大人しく奥の部屋で待ってるんだな。鍵は掛かってないから、好きに使ってくれ。」
悪い話もあるのか・・・。
奥の部屋に行くのが、嫌になってしまう。
「も~、ダイク兄、早く行こうよ!」
ロゼに手を引かれて、奥へと連れていかれる。
振り返ると、リンデンは手をひらひらと振っていた。
それぞれソファに座って待つと、ジョセフが入ってきた。
「待たせたな。」
険しい顔をして、ソファにドカッっと勢い良く座る。
しかし、ジョセフは話し出さずに部屋の中が沈黙に包まれた。
「ねぇ、なんでボクたち依頼を受けられないの?」
ロゼが沈黙を破ると、ジョセフはしゃべりだす。
「魔熱病が、また流行ってるんだ。治療院で聞いたか?」
「増えているとは聞きましたけど・・・。それが俺たちと何か関係があるんですか?」
「魔熱病に罹っているのは、冒険者だ。・・・しかも、魔獣木を見つけた者たちなんだ。」
たしか、ビクターも体調が悪いって聞いたな・・・。
「ダイク。お前、言ってたよな。月明かりで光ってたって。この街の外壁から確認させたんだ。そうしたら、いくつか光ってる場所が見つかった。Cランク以上の冒険者たちを集めて、派遣したわけだ。で、見つけて帰ってきたと思ったら体調不良で倒れだしてな。」
ジョセフは頭を抱えながら、話を続ける。
「魔獣木を探索に向かわせた全員が、魔熱病に罹ってるんだ。俺の知る限り、魔獣木を見つけて病気に罹ってないのはお前たちだけだ。悪いがお前たちには魔獣木の回収に向かわせるために、依頼は受けられなくしてある。」
以前、魔獣木を見せたことのあるジョセフ、アル、ヴィドは病気になっていない。
原因は魔獣木の生えている場所にあるんだろうか。
魔獣木自体に害はなくとも、土が汚染されるなんてこともあるのかもしれない。
腕を組んで考え込んでいると、ロゼが体を揺らしてくる。
「ダイク兄、マスターがすごい顔で見てるよ。」
ロゼに言われ、ジョセフの方を見ると、険しい顔がさらに険しくなっていた。
「頼めるか?」
ロゼの顔を見ると、頷いている。
「わ、わかりました・・・。」
有無を言わさない感じであったが、しょうがないんだろう。
ジョセフの顔には疲れも見える。
「すまんな。次に、魔獣木発見の報酬の件だな。先日、領主が来て話し合ったんだ。」
忘れていたが、そんな話があったと言われて思い出した。
ロゼは興味がないのか、隣でクガネと遊んでいる。
「・・・はい。」
「残念だが、払える金額はこれだけだ。」
ジョセフが懐から小さな袋を取り出し、テーブルに置いた。
ロゼはそれを取って、中身を確認している。
「え~、これだけなの?」
俺も見せてもらうと、金貨が十枚ほど入っていた。
「これでも、渋る領主から搾り取ったんだ。それで許してくれとは言わない。お前たちの冒険者ランクを上げてやる。それで手を打ってくれないか?頼む。」
ジョセフは座りながら頭を深く下げた。
「ジョセフさん、頭を下げる必要はありません。俺はそれでいいですよ。」
「ボクもそれでいいよ!」
冒険者のランクが上がると聞いて、ロゼは大喜びだ。
ルバークは納得してくれるかはわからないが、この話はもう終わりにしたい。
お金に困ってる訳でもないし、何より面倒だった。
今日も簡単な依頼を受けて、宿に帰るはずだったのに・・・。
ハッとした。
気がつけば、自分の中にマイナスな感情があふれていた。
最近はルバークの心配と世話、強硬旅程で疲れでも溜まっているんだろうか。
昨日も心配からか、寝ても何度も夜中に目を覚ました。
「ジョセフさん、今日はここまででいいですか。何だか、疲れてしまって。」
回答も聞かずに立ち上がる。
「そうか。・・・いいぞ。」
「ロゼ、行こうか。」
「ダイク兄、これ忘れてるよ。」
振り返ると、ロゼが金貨の入った小さな袋を持っていた。
「ロゼが持ってていいよ。」
「ううん、ボクはいらないよ。ダイク兄、持ってて!」
俺の手に握らせてくるので、アイテムボックスに放り込む。
「じゃ、失礼しますね。」
「あぁ・・・。」
話が中途半端なまま、退室して宿へと戻った。
「ダイク兄、大丈夫?」
宿に戻るなり、部屋へと駆け込みベッドに潜った。
「大丈夫。疲れてるだけだと思うよ。お腹もすかないから、夕飯はいらないっておばさんに伝えてくれるか。」
「・・・わかった。」
俺が目を瞑ると、ロゼは静かには部屋を出ていった。
シラクモは隣で静かに俺を見つめている。
「シラクモ、ちょっと疲れたんだ。ロゼのことを頼むよ。」
そう言い終わると、眠気に襲われて意識を失う様に眠った。
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