第73話 治療院
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ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
冒険者タグを見せて、街の中へと入る。
ほぼ一日、走り通したロデオの息が上がってしまっている。
飲まず食わずで休むことなく、頑張ってここまで連れてきてくれた。
「すいません。ここからは歩きでいいですか?」
「いいが、どうしてだ?このまま連れていった方がいいんじゃないか?」
「ロデオは森から休まずに走ってくれたんです。先に休ませてあげたいんです。ロゼ、ロデオを宿に連れていってくれるか?」
「ダイク兄は来ないの?」
「俺は先にルバークさんを治療院に連れていくよ。」
「そう・・・わかった!」
「ルバークさん、背負いますよ。」
ぐったりとしているルバークに声をかけて、背負う。
「案内は俺がする。アルはロゼと一緒に行ってやれ。」
ヴィドがそう言って、立ち上がる。
「おう、こっちはおいらに任せとけ!ダイク、転ぶなよ!」
「わかってます。アルさん、ロゼのことお願いします。」
荷車から、なるべくルバークに負担が掛からないように、ふわりと飛び下りる。
ヴィドも続いて荷車から下りた。
手綱を操り、ロゼたちは裏路地へと入っていった。
「行くぞ。こっちだ。」
ヴィドは大通りを進んでいく。
背中からはルバークの熱が伝わってくる。
抱きしめられた時とは違って、かなりの高熱であることがわかる。
負担にならないように、出来る限り気を使って歩いた。
大通りをしばらく進んだ一角に治療院はあった。
「ここだ。入るぞ。」
ヴィドが治療院のドアを開けて、待ってくれていた。
「ありがとうございます。」
お礼を言って、ドアをくぐる。
「どうなさいましたか?」
カウンターからメイド服のようなものを着た女性が声をかけてきた。
「六日ほど前から熱が引かなくて、連れてきました。」
カウンターまで行って、状況を説明する。
「わかりました。お名前を・・・その前にベッドを持ってきますね。」
女性はカウンターから離れて、廊下から見える部屋からベッドを転がして持ってきた。
「こちらに寝かせてあげてください。」
車輪の付いたベッドに、ルバークをゆっくりと下ろす。
ヴィドも手伝ってくれて、静かに下ろすことができた。
「文字は書けますか?」
頷いて答える。
「では、こちらにこちらの女性についてお書きください。」
羊皮紙が手渡され、中には名前や年齢、病状を書くようになっていた。
病状の欄には、この六日間のことを詳細に書いておいた。
「これでお願いします。」
「ありがとうございます。では、こちらでお待ちください。」
メイド服の女性に書いたものを渡すと、ベッドを動かして廊下の奥へと消えた。
壁際にあった椅子に座って、待つことにする。
治療院の中は、消毒の臭いが漂っていた。
「大変だったな。」
ヴィドが隣に座り、頭を撫でてくる。
「ヴィドさん、案内ありがとうございました。もう戻りますか?」
「いや、アルもロゼを連れて、ここに来るだろ。それからでいい。」
「そうですか・・・。そういえば、ルーナさんは元気ですか?」
「あぁ、子供も生まれたし、元気にしてる。」
「おめでとうございます。」
「あぁ、今度ルーナに直接伝えてやってくれ。今はルバークのことで頭がいっぱいなんだろう。無理に話すことは無い。」
ヴィドに心を見透かされているようだった。
「すいません・・・。」
治療院の中は沈黙で包まれた。
「ダイク兄、ルバークさんは?」
勢いよく扉が開いて、ロゼが駆け込んでくる。
「奥に連れていかれたよ。ここで待つように言われたんだ。」
それを聞いたロゼは、俺の膝の上に座ってくる。
「ダイク、ロデオはちゃんと預けてきたぜ。宿も一部屋取っておいたから、今日はあの宿に帰れよ。」
「ありがとうございます。アルさん、ヴィドさん。」
「おう。俺たちはもう行くが、お前たち、顔が暗いぞ。ルバークに会うときは、明るい顔を見せてやれよ!」
それを聞いて、ヴィドが立ち上がる。
「大丈夫だ。ルバークは強い。病気になんか負けるもんか。」
俺とロゼの頭を交互に撫でながら、ヴィドが言う。
「そうだよね。ありがとう、ヴィドさん。アルさんも!」
ロゼの顔に笑顔が戻ってくる。
ヴィドとアルを見送ると、メイド服の女性が戻ってきた。
「お待たせしました。こちらへお越しください。」
先導するように、メイド服の女性は歩いていく。
いくつかの部屋を通り過ぎるが、中からは苦しそうな声が聞こえてくる。
それを聞いたロゼは、俺の手をギュッと握ってくる。
ルバークは一番奥の部屋に寝かされていた。
聴診器をつけた医師が、ベッドの脇に座っている。
「先生、お連れしました。こちらの方々です。」
俺たちを医師に紹介すると、メイド服の女性は戻っていった。
「お前さんたちか。この女性・・・ルバークじゃったな。連れてきたのは。」
立派な髭を蓄えた老年の医師は確認を求める。
「そうです。先生、ルバークさんは大丈夫でしょうか。もう六日も熱が下がったり上がったりを繰り返しているんです。」
「まぁ、そう焦りなさんな。今は薬が効いて、寝ておる。だが、静かに頼むよ。ほかの部屋にも寝ておる病人がおるもんでな。」
「すいません・・・。」
「ルバークは魔熱病に罹っておる。聞いたことはあるか?」
「は、はい。」
「ルバークには、魔熱病の既往歴がある。簡単に言えば、前にもこの病気に罹っておる。額の角がその証拠じゃな。二、三十年前に一度流行った病気だが、ここ最近にもまた患者が増えておる。」
医師はルバークのヘアバンドを捲って、角を見せてくる。
「ルバークさんは・・・治るの?」
「あれから特効薬が開発されてな。薬をしっかり飲めば、じきに良くなるだろう。」
「そうですか・・・はぁ~、よかったな。ロゼ。」
「ほんとだね。何だか疲れちゃったね。」
「今日のところは、帰って休みなさい。ここにおってもできることは無いからのう。」
「先生、ルバークさんのこと、よろしくお願いします!」
「お願いします!」
深く頭を下げて、ルバークのことを頼む。
「わかっておる。安心せい。さぁ、今日は帰りなさい。」
医師は立ち上がり、俺たちの背中を押して病室から追い出された。
廊下を歩いて出口に向かう。
メイド服の女性にペコリと頭を下げて、治療院を後にする。
「連れてきてよかったね、ダイク兄!」
余程嬉しかったのか、俺の手を握ったまま変なステップを踏んでいる。
「そうだな。先生も治るって言ってたし、もう安心だな。」
手を繋いだまま、宿へと歩く。
あまりご飯も食べずにここまで来たので、安心したらお腹が鳴りだす。
治療院でどのくらいの金額がかかるのかを聞き忘れたが、問題は無いだろう。
それなりの金貨が、アイテムボックスには入っている。
ルバークの命が助かるのならば、すべてを差し出しても構わない。
そんなことを考えていると、宿に着いていた。
「二人とも、大丈夫だったかい!?」
宿のおばさんは俺たちを見つけるなり、駆け寄り、力強く抱きしめてくる。
「おばさん、落ち着いてください。ルバークさんは大丈夫です。薬を飲めば、治るって治療院の先生が言ってくれました。」
そう言っても、おばさんの手は緩まない。
鼻をすする音が聞こえているので、泣いているところを見られたくないのかもしれない。
「そうかい。それは、よかった。本当によかったよ。」
グスッと鼻をすするおばさんの目は、真っ赤になっていた。
「おばさん、ボクお腹すいちゃった。」
「ハハハ、そうだね。あたしも安心したからか、お腹がすいてきたよ。すぐに作るから、座って待ってなよ!」
豪快に笑いながら、おばさんは厨房へと行ってしまう。
空きっ腹におばさんの作る食事は、とても美味しかった。
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