第72話 再び、サンテネラへ
ルバークの体調は、悪くなっていく一方だった。
熱消しを飲むと少しは楽になるみたいだが、すぐに熱がぶり返す。
じゃが芋を収穫してから五日経ったが、一向に回復する兆しが見えない。
「ねぇ、ダイク兄。ルバークさんこのままじゃ・・・。」
ロゼが不吉なことを口走りそうになる。
「ロゼ、それ以上はダメだ。“言霊”って言って、言葉には魂が宿るんだ。こういう時は、なるべくいいことを考えるんだ。ルバークさんが治ったらこんなことしたい、とかね。」
フラグとも言えるが、そんなものは立てさせないし、立ってもへし折ってやる。
「でも・・・。」
ルバークが体調を崩してから、ロゼはずっと元気がなかった。
どこかの治療院に連れていきたいのだが、ルバークが拒否をしている。
シラクモの回復魔法もかけてはみたが、体調は回復しなかった。
正直、もう俺たちには打つ手がない。
何とかルバークを説得して、治療院へ連れて行かなければならない。
「ロゼ、ルバークさんをサンテネラの治療院へ連れて行こう。もう、俺たちに出来ることはない。治療院でなら治してくれるかもしれないんだ。」
「でも、ルバークさんは嫌だって・・・。」
「説得をお願いしてもいいか。俺はマザーに出かけることを報告してくる。戻ってきたらすぐに出発しよう。」
「うん・・・。頑張ってみる!」
ルバークのことをお願いして、俺は家を出た。
身体強化を使って、森の中を猛スピードで駆け抜ける。
シラクモはルバークに何かあった時のために、そばに付いてもらっている。
頭がいつもより軽く、少し寂しさを感じた。
マザーの住まう大木を登っていく。
「マザー!急で悪いんですけど、出掛けてきますね。ルバークさんをサンテネラの治療院に連れていかないといけないんです。ここ最近、体調を崩してまして・・・。」
(そうか。森のことは気にすることは無い。連れていくといい。)
マザーは呆気なく了承してくれた。
あとは、ルバークを説得するだけだ。
ロゼがうまいことやれていればいいが・・・。
「ありがとうございます。急ぐので、これで失礼します!」
マザーの返事も待たずに、大木を下る。
(気を付けて、行きなさい。)
マザーの返事が頭に響いた。
「行ってきます!!」
大木の下で、マザーに届く様に大声で返した。
再度、身体強化を使って家へと急ぐ。
家に入ると、ロゼの姿はまだ見えない。
ルバークの説得に手こずっているんだろう。
階段を上がって、ルバークの部屋に入っていく。
「ダイク兄、お帰り・・・。」
ロゼがルバークの手を握って、説得している最中だった。
「ダイク君、わたしは・・・フゥ、大丈夫よ。このまま寝てれば・・・フゥ、よくなるわ。」
息苦しいのか、言葉が途切れ途切れにしかしゃべれないようだ。
「ルバークさん、治療院に行きましょう。もう、マザーには出掛けることを伝えました。」
ロゼとは反対のベッドの脇に行って、ルバークの手を握る。
「お願いします、ルバークさん。一度でいいので、診てもらいましょう。こんなに辛そうなルバークさんを、このままにしておけないんです。」
「お願い、治療院に行こうよ。ルバークさん。」
「・・・。」
ルバークは目を閉じたまま、返事は無い。
「畑のじゃが芋も採ったんだよ。早く良くなって、一緒に食べようよ。」
「・・・。」
「このままじゃ、魔道具の研究もできませんよ。いいんですか?」
「・・・。」
「わかりました。この手は使いたくなかったんですが・・・。シラクモ、ルバークさんを糸で縛ってくれるか?」
「ま、待って。フゥ、行くわよ。フゥ・・・。」
諦めにも近い言葉が、ルバークの口から漏れ出た。
「ありがとうございます。準備をしてくるので、少し休んでてください。」
ロゼを連れて部屋を出る。
「ロゼは先に裏庭に行って、ロデオの準備を頼むよ!」
それを聞いて、ロゼは短い返事をして階段を下っていった。
俺は客室へと入り、寝具一式をアイテムボックスに入れる。
一応、予備として自室の寝具一式も持っていくことにする。
裏庭へと行くと、ロゼがロデオに荷車を取り付けていた。
魔法で荷車をきれいにして、寝具をのせて再び魔法できれいにする。
「ロデオ、これからルバークさんを治療院に連れていくんだ。走ってくれるか?」
願いを込めて、ロデオに話しかける。
いつもなら微動だにしない、ロデオの顔がこちらを向いた。
わかってくれたんだろうか。
「ダイク兄、準備できたよ!」
荷車を繋ぎ終えたロゼが言った。
「ルバークさんを連れてくるから、ロデオと待ってて!」
そう言い残して、ルバークの元に急ぐ。
「ルバークさん、行きますよ。立てますか?」
腕を支えて立たせてみるが、フラリとベッドに座り込んでしまう。
「ちょっと、失礼しますね。」
ルバークの手を肩に回して、背負う。
あまり食事を摂らないので、痩せてしまったことを背中越しに感じた。
「行きますよ。シラクモも行くよ。」
シラクモはルバークがいるからか、後ろをついてきた。
負担にならないように、ゆっくりと階段を下りて裏庭へと抜ける。
身体強化を使って、荷車に一跳びで乗り込む。
ルバークを寝具の上にそっと下ろし、掛け布団を肩までかけてやる。
「寒くないですか?」
コクリと頷いたので、出発することにする。
「ロゼ、行こう。」
御者台に座っているロゼに合図を送る。
「わかった。行くよ、ロデオ。」
ロゼが手綱を引くと、ロデオは走り出した。
最悪の場合、背負って走ることも考えていた。
しかし、ロデオもルバークのことを思ってか、ゆっくりと進んでくれている。
少しの揺れはあるが、ルバークは寝てくれた。
「シラクモ、ルバークさんに付いててくれてありがとうな。」
額のタオルを取り換えながら、シラクモに気持ちを伝える。
お礼を言われたのが嬉しかったのか、前足をあげてクルクルと回っていた。
暗くなってきても、ロデオは止まらない。
シラクモがロデオに回復魔法をかけてあげていた。
俺とロゼは、御者を交代しながら休みを取ったが、ロデオは止まらない。
夜が明けても止まらない。
シラクモが何度か魔法をかけていたが、ロデオのことも心配になってくる。
ついには、仮設の橋が見えてきた。
橋を越えた先の分帰路で、俺たちを呼ぶ声が聞こえてきた。
「お~い!ダイク!ロゼ!」
走りながら近づいてきて、荷車の空いたスペースに乗ってきた。
「どうしたんだ、こんなところで?帰ったんじゃなかったのか?」
「アルさん!ヴィドさん!」
「ルバークさんが病気なんです。ここ数日ずっと体調が悪くって、治療院に連れて行くところです。」
病気と聞くなり、アルの声は小さくなる。
「そういえば、ビクターの奴も体調を崩してるって言ってなかったか?」
「あぁ。」
ビクターも体調を崩しているのか。
「お二人は何をしてたんですか?」
「おいらたちは、定期的に村の様子を見に行ってるんだ。今もその帰りだな。」
ヴィドたちはまだ村に帰れていないのだろう。
話しぶりからそんなことを感じ取った。
「そうでしたか。治療院の場所って知ってますか?わかるなら案内をお願いしたいんですけど・・・。」
「あぁ、知ってるぜ!おいらたちに任せとけって。」
新たにアルとヴィドを乗せて、サンテネラに辿り着く。
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