第71話 体調不良
サンテネラから戻って来てから、五日ほどが過ぎた。
ウルフの襲撃もほとんどなくなり、鬼蜘蛛の森で静かな生活を送っている。
魔法の練習、体力づくり、勉強、森の見回り、ロデオの世話、畑の世話・・・。
あげれば、きりがないほどにやることがある。
ルバークの様子も、特に変わったところは無い。
相変わらずに、魔道具の研究に勤しんでいた。
今日も朝食を摂るなり、部屋に戻っていってしまった。
「ダイク兄、ボーっとしてないで、早く行くよ!」
ロゼがウキウキしながら、俺の手を引っ張る。
「そんなに急がなくても、芋は逃げないよ。」
今日は待ちに待った収穫の日だ。
ロゼは昨晩から楽しみだったのか、誰よりも早く起きて急かしてくる。
どうにか朝食後にしてもらったが、もう待ちきれないみたいだ。
「ダイク兄、見てて!」
ロゼは茎をしっかりと持って、一気に引き抜いた。
いくつものじゃが芋が根っこにぶら下がっている。
「上手くできたね。その調子でどんどんやっていこう。」
「うん!ダイク兄はあっちの畑をお願いね!」
ロゼが指差す畑は、今年新しく作った畑だった。
「わかった。シラクモも手伝ってくれるか?」
俺の頭から跳び下りて、シラクモは隣の畑に行ってしまった。
シラクモが土を掘ると、サツマイモが見えてくる。
思った以上にまだ小さかった。
「収穫するには早いのかもね。もう少し日にちが経ってから収穫しようか。」
シラクモにそう伝えて、掘ってくれた土を戻す。
「サツマイモはまだ小さいから、また今度だな。今日はじゃが芋を収穫して終わりだね。」
ロゼは残念そうだが、こればっかりはどうしようもない。
黙々とじゃが芋を畝から出して、土に並べ終わると休憩にする。
「はぁ~、終わったね。いっぱい取れてよかったね!」
「確かにそうだな。今年のじゃが芋は粒も大きいし、数も多いね。ロゼが大切に育てたからかな?」
「そうなのかな?じゃあ、来年も大切に育てれば、もっと採れるかな?」
「どうだろう。ロゼは採れると思う?」
「採れるよ!もっと畑を広くしてもいいかもね!」
「そうだね。来年はもう一つ畑を増やそうか。」
話をしていると、ロゼのお腹の音が鳴った。
「なんだかお腹すいてきちゃった。」
「じゃが芋を乾かす間に、お昼を作ろっか。」
「今日のお昼は、リンデンスペシャルがいいな!」
ホットケーキのことだが、リンデンのせいで変な名前で定着してしまった。
家に戻って、リンデンに教わった方法で生地を作る。
生地を膨らませているのは重曹だった。
他の分量に対して少ししか入れないのに、しっかりと膨らんでくれる。
フィリムの市場で見つけたので一袋買ってみたが、とても使いきれるとは思えなかった。
まぁ、アイテムボックスに入れておくので、死ぬまでには使いきれるんだろうが。
具材を混ぜただけで、いい匂いがしてくる。
「ダイク兄、お腹すいたよ。もう焼いちゃおうよ!」
ロゼのお腹の音が止まらないので、昼には早いが、焼くことにする。
まずは小さいホットケーキを焼き、ロゼの腹の音を鎮める。
「味見ね。蜂蜜かける?」
「かける~!」
蜂蜜をたっぷりとかけて、ロゼの口に入れてやる。
「ん~、やっぱり、リンデンスペシャルは美味しいね!」
名前はともかく、美味しそうで何よりだ。
次々とホットケーキを焼いて、アイテムボックスに仕舞っていく。
焼き終わり、使った道具を魔法できれいにする。
「ロゼ、じゃが芋、そろそろ回収しようか!」
再び畑に行き、土の上に並べておいたじゃが芋の回収作業をする。
一つ一つ根っこからじゃが芋を丁寧に外して、木箱に詰めていく。
シラクモとクガネも手伝ってくれたので、作業自体はすぐに終わる。
木箱三箱分のじゃが芋を収穫できた。
「すごい量ができたね!」
昨年は二箱弱しかできなかった。
それと比べれば、よくできたんだろう。
「あとは軽く洗って終わりだね。今日の夜にでも食べてみようか!」
水の玉を畑の上に浮かべて、じゃが芋の土を軽く落としていく。
作業が終わるころには、昼ころになっていた。
土っぽい体をロゼが魔法できれいにしてくれる。
「ルバークさん呼んで、昼食にしようか。」
「そうだね!じゃが芋がうまくできたことも教えてあげなきゃね!」
ロゼがスキップとも言えない、変なステップを踏んで家へと戻っていく。
じゃが芋をアイテムボックスに入れて、俺もロゼに続く。
「ほら、ダイク兄、行くよ!」
階段の下で、俺のことを待っていた。
「ロゼに任せるよ。俺は昼食の準備をしてるからさ。」
それを聞くと、ロゼは階段を登っていく。
魔導コンロでスープを温めながら、テーブルに皿を並べていく。
クガネの分が増えたので、テーブルが少し窮屈だ。
新しく作ってみるのもいいかもしれないな。
そんなことを考えていると、ロゼが階段をトボトボと一人で下ってきた。
「どうしたの、ロゼ?ルバークさんは?」
ロゼの顔は、今にも泣きだしそうに見える。
「ルバークさん、いらないって。少し具合が悪いみたい。」
断られたことが悲しいというよりは、心配の方で泣きそうになっていたのか。
「そうなんだ。で、どんな感じだったの?ベッドで寝てたとか?」
「少し顔色が悪かったかも。寝てた感じでもなかったよ。」
具合が悪いのに魔道具でも作っていたんだろうか。
「じゃあ、先に昼食を食べて、パン粥でも作ろうか。ルバークさんのために。」
その言葉で、ロゼに少し元気が戻った気がする。
のどを詰まらせるんじゃないかと思うほどに、急いで食べだした。
昼食を終えると、ロゼとパン粥を作った。
「ルバークさん、開けるよ。」
ルバークの部屋の前で、ロゼはそう言って扉を開けた。
部屋には魔道具をいじっているルバークがいた。
「ルバークさん、具合悪いって聞きましたけど・・・。」
確かに、少し顔色が悪いな。
「お昼作ってくれたのにごめんなさいね。寝るってほどじゃないんだけど・・・風邪かしらね?」
パン粥を机の上に置いて、ルバークの額を触る。
やはり、少し熱を持っている。
「ルバークさん、熱がありますよ。パン粥を作ってきたので、今日はこれを食べて寝てください。」
「ほんとだ!ルバークさん、おでこ熱いよ!」
ロゼも俺の真似をして、ルバークの額を触って確認した。
「今、研究がいいところだったのよ・・・。」
そんなことを言うルバークを、俺とロゼは何も返さずにじっと見つめた。
「わ、分かったわ。今日は大人しく寝てるわね。」
ルバークは立ち上がると、フラリとよろめいて机に寄りかかっている。
「ルバークさん、掴まって。」
ロゼがルバークに肩を貸して、ベッドまで運んでくれる。
「ありがとう、ロゼ。ルバークさんはこれを食べてください。」
トレーごと膝の上に置いて、少しでもいいので食べてもらう。
「美味しかったわ。ありがとうね、二人とも。」
アイテムボックスから熱消しを取り出して、ルバークに渡す。
「サンテネラで買ったものです。熱を下げる効果があるみたいなので、飲んでください。」
「これ、高かったんじゃないの?」
「今は値段なんか気にしてる場合じゃないですよ。一錠飲んで、今日はゆっくり寝ててくださいね。魔道具の研究は禁止ですからね。」
「禁止だからね!早く元気になってね。」
「フフフ、分かったわ。今日は休んでいるわね。」
そう言って、ルバークは錠剤を飲み込んだ。
「じゃあ、もう寝てください。」
ルバークを横に寝かせて、額に濡れタオルをのせる。
「はーい。じゃあ、あとはお願いね。」
目を閉じたのを確認して、ロゼを連れて部屋を出た。
「大丈夫かな、ルバークさん・・・。」
ロゼはまだ心配そうな顔をしている。
「大丈夫だよ。高かった薬も飲んでくれたし、明日には元気になってるよ。」
階段を下りながら、そんな話をした。
この日から、ルバークの体調が悪化していくことも知らずに・・・。
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