第68話 急転直下
ルバークは目の前で戦闘を繰り広げているロゼの心配はしていない。
すでに、その先を見据えているようだ。
「ロゼ、疲れてないか?シラクモもお疲れ様。」
襲い掛かってくるサラマンダーを、ロゼはシラクモと協力してほとんどを倒した。
アイテムボックスには百六体もの亡骸が入っている。
「全然、大丈夫だよ!早く先に進もうよ!」
ロゼの目はキラキラと輝いて、まだまだ元気そうだ。
「いや、少し休憩しよう。先に進むにしても、ロゼの力は万全であってほしい。シラクモも休んでくれ。ルバークはお茶でもロゼに振舞ってくれ。その間、俺とダイクでサラマンダーを相手する。」
ビクターはそう言って、先へと進んでいった。
「そういうことみたい。ロゼはしっかり休むんだよ!」
ロゼに声をかけてビクターを追う。
ビクターと偵察がてら先へと進むと、急な上り坂になっていて道の先から光が見えた。
サラマンダーの襲撃を警戒しながら登っていくと、光が目に染みる。
目が慣れてくると、そこにはエメラルドグリーンの湖が広がっていた。
「やっぱり・・・あったな、魔獣木。」
湖の中央に小さな島が浮いており、そこに魔獣木が生えていた。
「ここは火口湖ですかね?いつの間にか、山を登ってたんですね。」
サラマンダーが見えないせいか、きれいな景色に目を奪われた。
「なんだ、火口湖って?」
「すいません。気にしないでください。それにしても、サラマンダー、いないですね。」
話を逸らすが、ビクターは俺を訝しむ目で見ている。
「まぁ、いい。ルバークたちが来たら、魔獣木を回収してさっさと帰ろうぜ。もう疲れたぜ、いろいろと。」
ビクターはその場に座り込む。
俺も隣に座って、景色を楽しみながらロゼたちを待った。
「なんで戻ってこないのよ。心配するじゃない。」
背後にはロゼとルバークが立っていた。
「すまんな。だが、見てくれ。魔獣木だ。やっぱりあったな。」
「ほんとだ!きれいな景色だね!」
「まぁ、あるでしょうね。あれだけのサラマンダーがいたんだもの。新たに生まれてくる前に、回収して帰りましょう。」
ルバークの言葉で俺とビクターは立ち上がり、火口湖に向かって歩き出す。
鑑定で見てみたが、毒性のガスなんかの危険は無さそうだった。
エメラルドグリーンの湖は透明度が低く、水中の様子は全く見えなかった。
手を入れてみるが、すぐに見えなくなるほど濁っている。
「まさか、泳ぐわけじゃないよな!?」
ビクターはたじろいだ。
「大丈夫よ。小さいけど、船ならあるわ。」
ルバークはマジックバックからの小船を出して、湖に浮かべる。
「久しぶりだね!この船!」
「全員乗れますかね?」
「大丈夫じゃないかしら。乗ってみましょう。」
ビクターを先頭に俺とロゼ、船尾にルバークという並びで乗り込む。
「大丈夫そうね。わたしは向こう岸まで動かすから、何か出てきたらお願いね。」
そう言って、ルバークは櫓についた魔石を触ると船が動き出す。
結界を張って進むが、三匹のサラマンダーに襲われた。
しかし、どのサラマンダーも襲う直前に湖から体を見せて爪で攻撃しようとしてくる。
弱点の腹は丸見えなので、俺とビクターでも問題なく倒すことができた。
魔獣木が近づいてくるが、小島の中央にポツンと生えている。
ブラックウルフのように守っている個体もなかった。
ルバークの操る小船は、小島へと到着する。
「あっ、実が落ちるよ!」
ロゼが今にも落ちそうになっている実を指差していた。
魔獣の実は鈴のような音を響かせながら、転がって湖に落ちていく。
成長する様子は見えないが、すぐに一匹のサラマンダーが襲ってきた。
シラクモが跳び、足一振りでサラマンダーは倒れてしまう。
「もう一つ落ちるの見てもいいかしら?」
ルバークの言いたいことはみんなにも分かって、全員が頷いた。
しばらく待つと、魔獣木は再び実を落とした。
同じように湖に転がっていき、すぐにサラマンダーが襲ってくる。
「ここは魔素が濃いのね。こんなに早く成長するなんて・・・。」
「そうですね。早いところ回収して帰りましょう!」
「じゃあ、俺とロゼとクガネは周囲を警戒だな。」
「そうだね、ビクターさん!ボクはあっち側見てるよ!」
ロゼはクガネを連れて、魔獣木を挟んでビクターの反対側へと走っていった。
シラクモ、ルバークと協力して魔獣木の周りを土魔法で掘り起こす。
「こんなもんですかね?」
根っこがだいたい出てきたところでアイテムボックスに収納してみると、問題なく入った。
倒したサラマンダーも回収して、小船に乗り込んで対岸へと進む。
行きに襲ってきたサラマンダーは魔獣木から生まれたばかりのものだったのか、帰りは襲ってくることは無かった。
「さて、帰りましょうか。」
ルバークは小船を片付けながら言った。
「また、潜らなきゃいけないのか・・・。」
ビクターにはもう、うんざりだと顔に書いてあった。
「それなんですけど、せっかく外に出てるんだし、このまま帰りませんか?」
「そうしたいところだけど、さすがにこの坂は上れないわ。」
ルバークの言う通り、火口湖の周りは切り立った崖が聳え立っている。
「これに乗ってください。」
平べったい鳥かごを作って、足元には車輪を四つ作る。
「おい、こんなんで登れるわけないだろ!」
「ボクは乗るよ!ビクターさんは歩いて帰るの?」
ビクターとロゼが言い争いをしているが、気にせずに鳥かごの中に座席を作る。
「ダイク君、大丈夫なのよね?」
「乗ってみないと何とも言えませんが、頑張ります。」
「そう・・・。」
ルバークはロゼの手を引いて、鳥かごに乗り込む。
「ほら、ビクターさんも乗るんだよ!」
「ビクターさん、大丈夫とは言いませんが、早く帰れますよ!」
「フォローになってないぞ!はぁ~、分かったよ。」
ビクターが乗り込んだところで、それぞれに座席と体を固定する。
「おい、体が動かないぞ!」
「もしものためです。諦めてください。」
俺も席に着いて、鳥かごを軽く動かしてみる。
イメージ通りに動いてくれた。
「じゃ、出発しますね。怖ければ目を瞑っててください。」
一応、みんなに結界魔法を施す。
もし、この鳥籠車に何かあっても一撃は防ぐことができる。
イメージを膨らませて、坂をゆっくりと上っていく。
もちろん、車体が地面から剥がれることの無いようにもイメージする。
ビクターの叫び声が聞こえてくるが、無視する。
ロゼもジェットコースターにでも乗ってるかのようなテンションで、一人で盛り上がっていた。
山頂に差し掛かると、鳥籠車は急に前のめりに猛スピードで走り出す。
ブレーキを掛けるが、勢いは完全に殺せない。
「ロゼ、中腹にあった休憩所は見えるか!?」
「もっと左側だよ!!」
登りは植物は生えておらずに問題なかった。
下りは植物に車輪を取られて滑るし、至る所に木が生えている。
車輪をドリフトさせながら、すれすれに木を避ける。
なだらかな斜面に降り立ったころには、ビクターはすっかりと伸びてしまっていた。
「すごい楽しかったね!またやろうね、ダイク兄!!」
ロゼには大好評だった。
「かなり無茶したけど、ここまでくればあとは楽ね。ありがとう、ダイク君。」
「あっ、あの~、それは魔法か何かですか!?」
鳥籠車の近くには尻もちをついた冒険者が一人いた。
危うく引いてしまうところだったのかと思うと、動揺からか鳥籠車は塵となり消えてしまった。
「いでっ!」
座席に固定されていた俺たちも、尻もちをつく様に地面に落ちる。
その痛みでビクターも目を覚ましたようだ。
「すいませんでした。怪我はないですか?」
尻もちをついた冒険者に走って寄り添い、聞く。
「あぁ、こちらこそすいません。驚いただけなんです。」
そう言い残して、森の奥の方へと走っていってしまった。
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