第67話 地底湖
風の吹いてくる横穴を少し進むと、洞窟に抜け出た。
今まで通ってきた道は、円の下部を削ぎ落した板蒲鉾状の道だった。
ビクターが言うには、サラマンダーが掘ってこの形をしているとのことだ。
目の前には鍾乳洞のように、つららのような石が天井と地面を埋め尽くしていた。
「ここをサラマンダーが通っていったのね。」
ルバークの言う通り、地面のつららは一部が崩れており、何かが通った跡が残っていた。
洞窟内の広さは十分だが、足場が悪い。
段差や鍾乳石の残骸を避けながら、跡を辿って洞窟を進んでいく。
シラクモとクガネはそんなのお構いなしに、側面の壁を伝って先を行く。
天井の鍾乳石から、水滴がポタリと垂れてくる。
鑑定してみるが、特に害は無さそうだ。
だが、日が入らないせいか空気が冷たい。
服が水滴で濡れると、余計に寒く感じた。
しばらく進むと、ビクターの足が止まった。
「これ以上は無理か・・・。」
諦めるかのように、ビクターはポツリと呟いた。
サラマンダーの跡は、地底湖へと繋がっていた。
天井の鍾乳石も完全に水中に潜ってしまっている。
泳ぐことができなければ、サラマンダーの跡は追うことはできない。
光の玉を近づけると、湖底が見えるほどの透明度で、小さな魚が泳いでいるのが見えた。
鑑定してみて、水を少し舐めてみるが水質に問題は無さそうだ。
「ボートでも行けそうにないですね・・・。なので、俺が泳いで先を見てきますよ。サラマンダーの足跡は続いてますしね。」
アイテムボックスから蔓を取り出し、端っこをロゼに渡す。
「ダイク兄、大丈夫なの?」
俺以外の三人は心配そうに俺を見ている。
「心配しなくていいよ。この透明度だから、何かあれば見えるからね。ロゼが危ないと感じたら、蔦を引っ張ってくれるか?」
装備を外して服を脱いでパンツのみになり、蔓を体に巻き付けて結ぶ。
「わかった!危なくなったら、引けばいいんだね!」
「うん、お願い。シラクモはみんなと待っててくれ。」
そう言うと、シラクモは俺の頭に跳び乗り、離れようとしない。
「シラクモ君は大丈夫よ。お風呂も一緒に入るくらいだもの。シラクモ君、ダイク君をお願いね。」
それを聞くと、シラクモは俺の頭から離れて地底湖へと飛び込み、潜っていった。
俺も足から静かに入水する。
水は冷たいが、我慢して一気に頭まで潜る。
目を開けてみるが、問題なくはっきりと見えている。
向こうの方には日差しが入ってきている場所も見える。
「プハッ。・・・じゃあ、行ってきます!」
みんなに声をかけて、シラクモを追うように潜水する。
先を行くシラクモは、六本の足を器用に使って泳いでいた。
湖底には小さな穴が開いており、そこからシラクモを餌と勘違いした大きな魚が出てきた。
しかし、シラクモが水中でも関係なく、素早く足を使って倒していく。
倒された魚を回収しつつ進むと、キラキラと輝いている水面が見える。
だんだんと苦しくなってきたので、水面を目指して泳ぐ。
水面から顔を出すと、大きな蜥蜴が目の前に倒れていた。
驚きの余り、少し水を飲んでしまい噎せ返ってしまう。
よく見れば、大蜥蜴の上にシラクモが立っていた。
「ゴホゴホッ、シラクモが倒したのか・・・。ゴホッ、お、驚いたよ。」
シラクモは大蜥蜴の上で前足をあげている。
鑑定すると、この恐竜のような大蜥蜴がサラマンダーだとわかった。
天井は吹き抜けて日差しが降り注ぎ、鱗が鈍く光っている。
洞窟は水から出た小さなスペースで途切れていて、先にはサラマンダーが掘った穴が続いている。
「シラクモ、ここでサラマンダーが来ないか見ててくれるか?俺はみんなを連れてくるよ。」
シラクモが手を振ってくれる。
体に巻いた蔦を、サラマンダーに結びつけて、再び水中へと潜る。
変な水生生物がいないため、問題なく戻ることができた。
「プハッ。先にまだ道が続いてます。サラマンダーも確認できました。蔦を辿れば問題なく向こうへ行けます。」
陸に上がりながら、説明する。
「お疲れ様。怪我も無いようね。」
ルバークは俺の体を、頭からつま先まで確認する。
「ボクは行くよ!」
ロゼはそう言って、服を脱ぎ捨て湖に飛び込んでいく。
「わたしも行くわ。」
ルバークも肌着以外を脱ぎ捨て、行ってしまう。
「お、俺・・・泳げないんだが・・・。」
「わかりました。蔦を体に巻いてください。俺が向こうから引っ張ります。息は止めて、障害物に当たらないようにしてくださいね!」
「お、おう。」
心配そうな顔をしながらも、ビクターは服を脱ぐ。
ビクターの服をアイテムボックスにしまって、再び向こう側へ潜っていく。
水中を抜けると、さらにサラマンダーの死体が増えていた。
「やっぱり、こっちにはサラマンダーがいるわね。・・・あれっ?ビクター君は?」
服を着ながらルバークが尋ねてくる。
「泳げないみたいで、こっちから引っ張ることになりました。」
「そうなんだ!ボクもサラマンダー倒したよ!ダイク兄とルバークさんは、ビクターさんを引っ張ってあげてね!ボクはシラクモとクガネで来る奴を倒すよ!」
ここはロゼに任せて、ビクターをこっちに引っ張ることに集中する。
「よし、引っ張りましょうか!」
服を着たルバークが蔦を持つ。
俺も蔦を持ち、蔦を引っ張った。
しばらく引っ張ると、ビクターの姿が見えてくる。
どこかで擦ったのか、腕から血が流れている。
「ゴパッ、ガハゴホ、だ、助かった・・・。ゴホゴハっ。」
ビクターの顔からは、水なのか分からない水分が垂れている。
「大丈夫よ。落ち着いて呼吸を整えて。」
ルバークはビクターの背中をさすってあげている。
「少し休んでてください。シラクモ、こっちに来て!」
洞窟の先まで進んでいるシラクモに声をかけると、すごいスピードでこちらに来てくれた。
「ビクターさんの腕の怪我をお願いできるか?」
シラクモはコクリと頷き、ビクターの腕と共に淡く光り出す。
「おい、お前ら・・・マジか。」
それ以上、ビクターは何も言わなかった。
「これ、ビクターさんの服です。服を着て、少し休憩しててください。俺はロゼの加勢に行きます。」
ルバークにビクターの服を渡して、ロゼの元へと走る。
もちろん、アイテムボックスにサラマンダーを回収しながら。
ロゼの元に辿り着くまでに、十体以上のサラマンダーを回収している。
「ダイク兄、すごい数だよ!」
ロゼは嬉しそうに迫りくるサラマンダーをバサバサと切り伏せている。
外皮は固いと言われていたことが嘘のように、ロゼの一振りでサラマンダーは倒れていく。
そこにシラクモも頭から離れて参戦するものだから、俺の出番はなかった。
戦闘の邪魔にならないように、サラマンダーをロゼの背後で回収する。
「フフフ、凄まじいわね。」
ルバークは笑っているが、ビクターの口はあんぐりと開いたままだ。
「ビクターさん、もう平気ですか?」
体調やもろもろを込めて質問する。
「あぁ、もう大丈夫だ。だが、本当にお前たちはどうなってるんだ・・・。」
ビクターは頭を抱えてブツブツと何かを言っている。
「気にしたらダメよ。そんなことより、この先が気になるわね。これだけのサラマンダーがいるのよ。やっぱり、あるのかしらね・・・魔獣木。」
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