第64話 新たな街へ
翌朝、ルバークとロゼを連れて、冒険者ギルドへ向かった。
ルバークも冒険者ギルドに登録したので、一緒に依頼を受けようとなったためだ。
掲示板を見るが、Dランクまでの依頼で面白そうなものが見つからずに、悩んでいた。
ルバークはなんでもいいと言ってくれるが、ロゼは討伐の依頼がいいと言う。
しかし、討伐の依頼で俺たちが受けられるものは無かった。
「ロゼ君、残念だけどどうする?」
「何が残念なんだ?」
背後からビクターが話しかけてきた。
「魔獣討伐の依頼を受けたかったんですけど、ランク制限で受けられないんです。」
「あ~、なるほどな。」
掲示板の依頼をビクターは一通り見渡す。
「なら、俺もついてくぞ。それならBランクまで受けられるだろ。」
「いいの?ビクターさん!」
「あぁ、お前たちの実力は知ってるからな。これでいいか?」
ビクターが取った依頼は、サラマンダーという魔獣討伐の依頼だった。
「これ、Bランクですよ。俺たちで討伐できるんですか?」
「大丈夫だ。俺も一度、パーティを組んで討伐したことがある。お前たちとなら問題は無い。」
「ボクはこの依頼でいいよ!」
「ビクター君、本当に大丈夫なんでしょうね?」
「あぁ、俺を信用しろよ。昨日まで一緒に依頼をこなしただろ!」
ビクターはそう言って、依頼書をカウンターに持って行ってしまう。
「ほら、お前たちもタグを持ってこっち来い!」
ビクターがカウンターで俺たちを呼ぶ。
本当に大丈夫だろうか。
ランクだけで考えれば、俺とロゼはDランク、ルバークはFランクだ。
実力とランクは必ずしも一致しないが、不安が残る。
「ダイク君、そんな難しい顔してないで行きましょうか。」
ルバークは平然と言った。
「ルバークさんは不安じゃないんですか?」
「ビクター君が嘘を言ってるとも思えないわ。ダメなら逃げ帰ればいいじゃない。」
「そうだよ!ダイク兄は心配性だなぁ。」
ロゼが俺の手を引いて、カウンターまで連れていく。
「ビクターさん、まさか、そちらの御三方と依頼を受けるんですか?」
キャサリンも心配そうに言った。
「そうだ、キャサリン。こいつらは下手をすれば、俺よりも強いから大丈夫だ。」
「・・・そうですか。ですが、危険なことに変わりはありません。危ないと思えば、撤退も視野に入れつつ、慎重な行動をお願いしますね。」
「わかってる。場所は俺が分かるから説明はいらない。登録を頼む。」
ビクターは俺たちのタグを集めて、依頼の登録を済ませる。
「みなさん、本当に気を付けて、無事にお戻りください。」
キャサリンは最後まで心配そうな顔をしていた。
ビクターに続いて、冒険者ギルドを出る。
「貸馬と荷車を借りに行くぞ!」
「ロデオじゃダメなの?」
「そうね、ビクター君。わたしの愛馬で行きましょう。お願いしてくるから、宿の入り口で待っててちょうだい。」
ルバークは宿に向かって走っていってしまった。
ロゼはロデオに久しぶりに会えることに、目を輝かせている。
「俺たちも宿の入り口に行きましょうか。」
ビクターを伴って、近くの宿まで歩いた。
「無理やり誘って悪かったな。」
「いえ、ロゼも討伐の依頼を望んでいたので、ありがたいです。」
「ボクも嬉しいよ!みんなで出かけられるの!」
話をしていると、ロデオが荷車を装着して宿の前に停まる。
「さぁ、乗って。行きましょう!」
ビクターの指示で、別の門からサンテネラを出る。
鬼蜘蛛の森から離れるように、整備された街道を進んでいく。
「見えてきたぞ!あの山の中腹にサラマンダーの巣があるんだ。今日はあの山の麓の街に泊るぞ!」
ビクターが差す方向には、遠くの方に山がいくつも並んでいた。
日帰りだと思っていたが、泊りがけの依頼みたいだ。
広い街道が整備されていて、道中は所々で冒険者や兵士がテントを張って警備をしていた。
「全然、魔物いないね。」
ロゼは退屈そうに、俺の膝の上に座っている。
「あの人たちのお陰で、こんなにスムーズに進んでるんだよ。ビクターさん、あの人たちも依頼されて警備してるんですよね?掲示板にありましたっけ?」
「警備の仕事は、領主から依頼があるんだ。長い契約で縛られるから、俺は受けたことがないな。でも、人気があるからすぐに募集は終わるんだ。」
「へぇ~、そうなんですね。」
休憩を挟みながら、麓の街を目指してロデオは走る。
魔獣に襲われることも無く、夕方前までに街に辿り着いた。
街はレンガの壁で囲われていて、要塞のような雰囲気がある。
サンテネラと比べると小さな街だが、通りには多くの人が見える。
街の奥には、大きな山々が聳え立っていた。
「フィリムへようこそ。何用でこの街に?」
街の入り口に立つ兵士が、ロデオの前に立ち塞がり聞いてくる。
「サンテネラの冒険者ギルドから来た。サラマンダーの討伐依頼だ。」
ビクターは門番に冒険者タグを見せる。
俺たちもそれに倣って、タグを兵士に見せる。
「そうでしたか。どうぞお通りください。」
兵士はロデオの脇に避けて、俺たちを通してくれる。
「人がいっぱいいるね!」
人だけでなく、店も沢山並んでいる。
「ここは何か有名なものでもあるんですか?」
「鉱石が有名だな。あの山で取れたものだな。あとは、フィリムの街を抜けて山を越えると王都があるんだ。ここは中継地として栄えているんだ。」
王都か・・・いつかは見てみたい。
「そう言えば、この国の名前って何ていうんですか?」
「なんだ、知らないのか?ベルカイム王国っていうんだ。」
「王国ってことは王様がいるんですよね?」
「そりゃ、そうだろ。ルバークに教えてもらってないのか?」
一般的な教養は教えてもらったが、国やどこに何があるのかは教えてもらっていない。
「そういえば、忘れてたわね。」
「まぁ、お前たちはまだ小さい。ゆっくり学べばいいさ。あっ、ルバーク、停まってくれ。今日はここに泊るぞ。」
ビクターは荷車から下りて、宿へと入っていく。
「地図って売ってたりしませんかね?」
雑貨屋などでも見たことがないので、聞いてみる。
「チズって何かしら?」
ルバークと地図について問答するが、知らないみたいだった。
サクラの残した本にも地図は無かった。
「ルバーク、ロデオは宿の裏に厩舎があるから、そこに連れて行ってくれ。」
ビクターが宿から顔を覗かせていった。
「わかったわ。二人は先に宿の中で待っててちょうだい。」
そう言われ、俺とロゼは荷車から下りる。
下りたのを確認すると、ルバークはロデオを走らせ通りの角を曲がっていった。
「お前たち、中で待ってようぜ。」
ビクターが扉を開けて、俺たちを手招く。
中に入ると、サンテネラの宿とは違い酒場は無かった。
「食事はどこでとるんですか?」
「ここの宿に食事はつかない。外に食いに行こうぜ!」
「いいね!そろそろお腹すいたよ、ボク。」
「じゃあ、ルバークが来て部屋に荷物を置いたら食いに行くか!」
そんな話をしていると、ルバークが宿の裏口から入ってきた。
ビクターに案内され、部屋を見に行く。
俺たちも大した荷物が無いが、ビクターもほとんど持っていない。
「ビクターさんは泊まりなのに、なんでそんなに荷物が少ないんですか?」
ビクターは何を言ってるんだという顔をする。
「俺も浄化くらいは唱えられるんだぞ。そんなに大荷物がいるか?」
そうか・・・俺はビクターのことを何も知らない。
武器は腰に差している剣を使うんだろうが、魔法はどうなんだろう。
「ビクターさんは魔法は何が使えるんです?」
「そんなことは、飯でも食って話そうぜ!ほら、行くぞ!」
俺とロゼは部屋から出ていったビクターを追いかける。
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