第61話 サンテネラでの魔獣木
ビクターを先頭に、ぞろぞろと冒険者ギルドに入っていく。
カウンターまで行くと、キャサリンは俺たちを見つけるとペコリと頭を下げる。
「お待ちしていました。ギルドマスターを呼んできますね。」
そう言って、奥の部屋へと入っていく。
「お前たち、何したんだ?」
アルが振り返りながら、聞いてくる。
「アル君、私たちはまずは依頼の報告よ。こっちにいらっしゃい。」
ルバークがアルの背中を押して、隣の受付へと連れていく。
ビクターも気になるのか、チラチラとこちらを見ている。
「おう、来たか!なんだ、ビクターたちもいるのか。丁度いい。報告が終わったら、お前たちも上の試験場へ来い。いいな?」
「お二人は私がご案内しますね。ビクターさんはみなさんをお願いします。」
ジョセフの後ろから出てきたキャサリンが言う。
「お、おう。わかった。」
何のことか分からないビクターは狼狽えていた。
俺とロゼはキャサリンについていき、階段を登る。
「昨日もお会いしましたが、お久しぶりですね。私のことは覚えておりますか?」
「ボクは覚えてるよ!初めて来たときに教えてくれたお姉さんだよね!」
「俺も覚えています。またお会いできてうれしいです。」
「フフフ、お二人とも口が上手ですね。長いことギルドに来てもらえないかったので、マスターも心配していましたよ。」
「リンデンさんからも聞いています。俺たちの住んでいるところも魔獣が増えていて、なかなか外出できなかったんです。」
「そうでしたか。それは大変でしたね。」
キャサリンは優しい笑みを浮かべて、試験場の扉を開く。
「こちらです。中へお入りください。」
「「ありがとうございます!」」
中に入ると、以前とは違って武器や試験で使った的がなくなっている。
「来たな、お前たち!キャサリン、案内ありがとう。お前も見ていくか?」
「いいんですか?では、私も見学させていただきます。マスターが報告書を、私に書かせたいだけでしょうが。」
「察しがいいな。だが、見て損はないと思うぜ。な、お前たち。」
「ん~、どうでしょう。人によるんじゃないですかね?」
ルバークは喜んで見てくれるだろうが、キャサリンはどうなんだろう。
キャサリンはその返事で、少し吹き出して笑っていた。
そんな話をしていると、ビクターが三人を連れて部屋に入ってきた。
「マスター、一体何なんですか?」
ビクターは怪訝そうな表情を浮かべて、ジョセフに問う。
「まぁ、見てのお楽しみだ。だが、これから見るものは他言無用だ。守れない者は帰ってくれて構わない。」
ジョセフはそう言うが、誰も部屋から出ることはなかった。
「よしっ、始めるぞ。ダイク、例のものを出してくれ。」
「いいんですか?」
「大丈夫だ。ここで起こることは外に漏れない。安心して実力を出してくれ。」
俺はその言葉に頷いて、アイテムボックスから魔獣木を取り出してみせる。
ビクターとキャサリンは魔獣木よりも、突然木が現れたことに驚いているようだった。
その他の人は、変わった見た目の木に驚いていた。
「これは、魔獣木という木です。とある森の奥にある遺跡の地下で見つけました。本来の魔獣木は果樹のような木で、魔石がなるらしいです。でも、この木は見た目もできる実も違います・・・。」
リィーーーーーーン
水晶の実が落ちて、甲高い鈴のような音が部屋に響いた。
他にも実が落ちると厄介なので、一旦アイテムボックスにしまう。
部屋にいる人の顔を見渡すが、口を開けて驚いたまま固まっていた。
「続けますね。この実はだんだんと大きく成長して、魔獣になるんです。」
魔獣の実はゆっくりと大きくはなっているが、遺跡の時よりも遅く感じた。
「これじゃ、なかなか魔獣にはならないね、ダイク兄。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。何なんだ?何が行われているんだ?」
ビクターは混乱しているのか、取り乱している。
「ビクター、落ち着け。これが本当に魔獣になるのかを確認するために、集まってもらったんだ。」
ジョセフがビクターを宥める。
「マスターはそんな突拍子もない話を信じているんですか?」
「信じるも何もないだろう。その目で確かめてくれ。だが、リンデンも確認済みだ。」
ビクターは半信半疑という表情で、魔獣の実を見つめている。
「ロゼ君。さっき、なかなか魔獣にならないって言ったわよね?ロゼ君たちが見たときはどのくらいの速さで魔獣になったのかしら?」
「ルバークさん、あのね、ウルフの時は少し待ったけど、鬼蜘蛛の時はすぐだったよ!」
ルバークが俺の方を見てくる。
「空気中の魔素を吸収して成長するって言ってました。ここは他と比べて、魔素が薄いんだと思います。成長する姿も魔素による影響を受けているんだと考えています。」
「あの、よろしいでしょうか?言っていたっていのはどなたが、でしょうか?」
キャサリンが俺の方を見て質問するが、何と答えていいのか分からなかった。
「キャサリン、それは今はいい。聞いた通り、ここでは何の魔獣が生まれてくるかわからん。そこで、お前たちの出番っていう訳だ。お前たちはキャサリンを何があっても守れよ。」
それを聞いたキャサリンは、一歩下がって観察することにしたみたいだ。
それにしても、ジョセフは俺たちのことをどこまで知っているのだろうか。
確証はなくとも、俺たちが鬼蜘蛛の森にいると当たりをつけていた。
もしかしたら、マザーのことも・・・。
「ダイク兄、そろそろだよ!」
魔獣の実を見ると、大きく膨らんで乳白色に色づいていた。
「みなさん、そろそろ生まれそうです。準備をしてください!」
その声で、戦えるものは武器を手に取る。
こっそりと部屋にいる一人一人に、結界魔法を施す。
魔獣の実に亀裂が走り、一気に突き破るように大きな魔獣が生まれ出た。
すぐに風の刃を飛ばすが、魔獣の毛皮に阻まれ形を失った。
ロゼも長剣を振り下ろすが、二つに折れて剣先が転がっていく。
殻がキラキラと煌めいて、細かく砕けて塵になりどこかに消えた。
「グゥル゛ル゛ルァァアーーーー!!」
雄叫びをあげながら魔獣は動き出し、両手で地面を抉って礫を飛ばしてくる。
「キャーーー!」
キャサリンの叫び声が室内に響く。
結界を張っていたため、礫は弾かれ誰一人として怪我はしていない。
魔獣の動きを見ながらもう一度、結界を張り直す。
「ダイク兄、なんか武器ちょうだい!!」
魔獣の奥からロゼの声が聞こえてきた。
アイテムボックスから適当な剣を選んで、ロゼの方に地面を滑らせるように投げる。
魔獣はルバークたちの方を目掛けて、ものすごいスピードで走り出す。
「ルバークさん!!」
ルバークは両手を前に突き出すと、地面から土の壁が現れ、魔獣はスピードを緩めた。
しかし、止まることはなかった。
土の壁にぶつかり、瓦礫に埋もれながらも前に進もうとあがいている。
俺は魔獣の足に土魔法で枷をつけて、動けないようにする。
「クガネ、行くよ!!」
ロゼの声が聞こえてくると、バチバチという音も聞こえてくる。
ロゼの方を見ると、全身に稲妻を纏って長剣が真っ赤に鈍く光っていた。
魔獣の側面から一振りすると、あんなに硬かった魔獣の毛皮を胴体から真っ二つに切断する。
魔獣は何度か痙攣を起こし、動くのを止める。
「ロゼ、大丈夫か!?」
ロゼに駆け寄り、怪我がないかを確認する。
「ダイク兄、大丈夫だよ!今までで見た魔獣の中で、一番強かったね!」
ロゼはどこか嬉しそうだが、周囲はそうではなかった。
ルバークは動けたが、ビクター、アル、ヴィドは武器を構えたまま固まって、動かない。
「すごい魔獣だったわね。」
ルバークは俺たちに近づいて、俺たちを抱きしめる。
その手は、少し震えていた。
サンテネラで生まれた魔獣はクマの魔獣だった。
全身が黒色の剛毛に覆われて、上半身はゴリラかと思うほどに筋肉の発達したクマだった。
大きさは生まれたばかりだというのに、大人のジョセフとそう変わらない大きさだった。
爪と牙も鋭く、長い。
鑑定してみると、ムーンベアーと表示された。
ムーン・・・、胸元には三日月の形の白い毛が生えていた。
「お、お前たち。しっかりと目に焼き付けたか?この木が原因で魔獣が増えている可能性がある。しかし、ここで起こったことは他言無用だ。無用なパニックは避けなければならん。俺たちは下に戻って魔獣の多い地域を割り出す。キャサリン、行くぞ!」
ジョセフはキャサリンを引き連れて部屋を出ていく。
「ビクターさんたちは大丈夫ですか?」
固まったままのビクターに声をかける。
「あ、あぁ。大丈夫だ。だが・・・、いや、少し考えさせてくれ。」
ビクターもそう言い残し、部屋を出ていく。
「お前ら、すごいものを見つけたな!これが原因なら、おいらたちの村に帰れる日も遠くないな!」
アルの目には希望の光が宿っているように見えた。
「そうだな。」
ヴィドもぼそりと同意する。
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