閑話 ロゼの従魔
リンデンとサンテネラに向かう前日の話です。
早朝、ロゼの騒がしい声で目を覚ます。
「ロゼ、朝からうるさくしちゃ駄目だよ。」
目を擦りながら、注意する。
ぼやけた目でロゼを見ると、手の上に小さな鬼蜘蛛がいた。
「ゴメンね、ダイク兄。起こしちゃったね・・・。見て、鬼蜘蛛が目覚めたよ!」
ロゼが手を近づけて、見せてくる。
手のひらの上には金色に輝く体毛を持つ、小さな鬼蜘蛛がいた。
元はシラクモと同じくらいの体格だったはずだ。
今では手のひらに収まるサイズになっている。
「本当だね。よかったね、ロゼ。」
ひとまずロゼと喜びを分かち合い、鬼蜘蛛を鑑定してみる。
【名前】 -
【種族】 鬼蜘蛛
【位階】 15
【体力】 150/150
【魔力】 300/300
【スキル】 -
【固有スキル】 雷魔法
進化とはマザーのように、どんどんと大きくなっていくものと思っていたが、違うみたいだ。
「まだ名前は決めてないの?」
固有スキルの雷魔法も気になるが、名前について尋ねる。
「う~ん、考えてるんだけどいいのが浮かばないんだよね。ダイク兄は何がいいと思う?」
シラクモの時は、体毛の色と蜘蛛を合わせて白銀蜘蛛でシラクモと名付けた。
「金色だから・・・ゴールド、おうごん、こがね、くがねなんて別名があるね。」
自分の知りうる限りの金を絞り出した。
「クガネがかっこいいね!この子の名前はクガネにするよ!」
ロゼが名前を決めると、鑑定の名前の欄が埋まった。
「ロゼ、クガネは雷魔法が使えるみたいだ。朝食を食べたら、見せてもらおうか。クガネに。」
「クガネ、いい?」
クガネはロゼの手のひらの上で、跳びはねている。
目も覚めてしまったし、少し早いが朝食の準備をすることにした。
階段を下りるが、リンデンはまだ寝ているようだ。
「ロゼ、顔洗うよ。」
顔を洗って、早速準備に取り掛かる。
今日はクガネの進化記念を祝って少し豪華にしようか。
たまご、ミルク、はちみつでプリン液を作ってパンを浸す。
フレンチトーストを作っていると、リンデンの階段を下りてくる音が聞こえてきた。
「おはようさん、いい匂いで目が覚めちまった。」
「おはよう、見て、リンデンさん!クガネだよ!」
「おはようございます!」
リンデンは目を擦りながら、クガネを色々な方向から覗き込んでいる。
「何だ、ロゼまで鬼蜘蛛をテイムしたのか?お前らの常識はどうなってるんだ?」
リンデンはそう嘆いているが、俺は気にしない。
シラクモとクガネが望んだ血の契約だ。
リンデンにそれを教える気はないので、聞こえなかった振りをした。
「出来ましたよ!リンデンさんは早く顔を洗ってきて下さい。」
背中を押して、洗面所へと連れていく。
ロゼと協力して、料理をテーブルに並べる。
「クガネも食べるだろ?」
シラクモと同じようにクガネの分も皿を用意する。
リンデンが席に着くと食事が始まった。
「「「いただきます!」」」
この家に慣れたのか、リンデンも真似して食事前に挨拶をするようになっていた。
「リンデンさん、俺たちは裏庭で魔法の練習をしてますね!」
「おう、俺は家でゆっくりしてるぜ。明日からは移動だからな。お前たちもほどほどにな!」
ロゼとシラクモ、クガネを連れて裏庭の東屋へと向かう。
「クガネ、魔法を使ってくれる?」
ロゼが手のひらの上にいるクガネにお願いすると、クガネの体の周りに小さな稲妻が走り出す。
「へー、やっぱり雷魔法なんだね。触ってみてもいいかな?」
クガネが頷くので、触るとパチッと静電気のような痛みがあった。
ロゼは平気そうにクガネに触っていた。
「ロゼは感じないのか?」
「うん、別に何ともないよ!」
血の契約のお陰かは分からないが、ロゼにはクガネの雷魔法が無効なのかもしれない。
「クガネ、もう少し強くできるか?」
クガネは頷くと、バチバチと耳でも聞こえる電流が体の周りを駆け巡った。
ロゼはクガネを落とすこともなく、平然としている。
俺も触ってみるが、痛みもあったがしびれて動けなくなり、体が硬直して椅子から落ちてしまう。
「だ、ダイク兄、だ、だ、だ、大丈夫!?」
ロゼたちが心配そうに見つめているが、しびれ自体はすぐに無くなり、動けるようになった。
「大丈夫、ちょっとビックリはしたけど・・・。」
指先に痛みがあり、見ると火傷をしたように焼けただれていた。
「凄い威力みたいだね。シラクモ、魔法で治してくれるか?」
お願いすると、シラクモと俺の指が淡く光って傷がきれいに無くなる。
「クガネ、他には何かできる?」
クガネに聞くが、体全体を使ってできないと答えた。
「そうか・・・。」
「ダイク兄、あとはボクとクガネでどう戦うかを考えるよ!危ないから、ダイク兄は向こうで自分の魔法の練習をしてて!」
ロゼにそう言われ、シラクモと離れたところで魔法の練習をすることになった。
サクラの『中二病魔導大全』を読んで結界魔法の強化を試みるが、成果は上げられなかった。
もう少しで昼かというときにロゼから声がかかる。
「ダイク兄、見て!」
剣を振りながら、ロゼは満々の笑みを浮かべていた。
「ロゼ、人の前で剣を振っちゃダメだよ!」
「ごめん、ダイク兄。でもここ見て!」
剣の柄の部分にクガネがくっついていた。
刀身が・・・というかロゼ自身もバチバチと電気を帯びている。
「体に影響はないのか?」
ロゼに触れようとすると、パチッと静電気が邪魔をする。
「全然、大丈夫だよ!」
鑑定すると、クガネの魔力がすごい勢いで減っていた。
「そうか・・・ならいいんだ。でも、クガネの魔力もまだあまりないから、使いどころはちゃんと考えないとね。」
「うん、大事な時に使うことにする!」
クガネが魔法を止めたところで、午前の魔法の練習は終わりになった。
このままウルフの襲撃が無ければ、明日から出かけることになる。
久しぶりのサンテネラを楽しむためにも、午後は体力づくりをやめてゆっくり休むことにした。
休むといっても、明日からに備えて外で簡単に食べられるように料理に勤しむ。
好評な唐揚げパンも大量に仕込み、野菜とオーク肉で豚汁も作った。
味見をしていたリンデンにも高評価をもらって、沢山の料理を作り終えるころには日が落ち始めていた。
食事をとって、風呂に入り、ベッドに潜る。
興奮で眠れないかと思ったが、ベッドに入ると気がつけば眠っていた。
その日は、ルバークの夢を見たような気がする・・・。
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