第59話 ギルドマスター
厳つい顔のおじさんは俺たちを見つけると、鋭い眼光でリンデンを睨む。
「お前、まさかあそこに行ったわけじゃないよな?そこの二人とはたまたまどこかで会ったんだよな?なぁ、そうだよな?」
厳つい顔のおじさんは、扉を離れてリンデンに詰め寄る。
「おいおい、マスター。落ち着いてくれよ。」
リンデンがマスターと言った。
この厳つい顔のおじさんがギルドマスターなのか。
「どうなんだ、この解体バカッ!」
ついにはリンデンの胸倉を掴んでいる。
「行ったが、大丈夫だ。この通り生きてるじゃねぇか!まずは落ち着いて、じっくりと話す場を作ってくれ。この二人も含めてな。」
ギルドマスターを落ち着かせるように、両手をあげて言う。
「キャサリン、悪いが解体部屋にいるぞ。こいつを絞めねぇといけないようだ。二人もついて来い。」
いつの間にか席に戻っていたキャサリンも、驚いて何度も顔を上下していた。
ギルドマスターがリンデンの胸倉を掴んだまま、解体部屋へと入っていく。
俺とロゼもキャサリンにペコリと頭を下げて、二人を追いかけて解体部屋に入った。
「こっちだ。ついて来い。」
ギルドマスターはリンデンを引っ張り、更に奥の小さな部屋に入っていく。
部屋の中には長方形のローテーブルと一人掛けのソファが四つあり、まるで応接室のようだった。
「座ってくれ。俺は、サンテネラの冒険者ギルドマスターのジョセフだ。」
ジョセフとリンデンが並んで座ったため、俺とロゼは向かいに隣り合って座る。
「初めまして・・・ではないんですかね?俺はダイクです。」
「こんばんわ、ロゼです!」
この厳つい顔には見覚えがあった。
冒険者になる試験の後に、ルバークと話をしていたおじさんだ。
「あぁ、以前二人の付き添いで来ていたルバークと話をした時にチラッと会ったな。で、何の話だ。リンデン。」
俺たちには普通の顔を向けるが、リンデンに向ける顔は厳しい。
「このダイクとロゼがあの森で、魔獣が増えている原因かもしれねぇもんを見つけたんだ!」
ジョセフがこちらにも鋭い眼光を向ける。
「リンデンさん、あの森じゃないよ!」
そんなのお構いなしに、ロゼがリンデンに指摘する。
「ジョセフさんも知ってるんですよね。俺たちが鬼蜘蛛の森に住んでいること。」
「あぁ、何となくそう思ってたんだ。鬼蜘蛛を連れているしな。この解体バカが二人と一緒に戻ってきて確信した。」
「そうですか。受付のところでは誤魔化した言い方をしてくれて、ありがとうございます。できれば他言無用でお願いします。」
「それは、分かっている。で、原因ってのは何なんだ?」
リンデンの顔を見ると、お前が話せと顎で合図している。
「まずは、現状の把握をさせてください。リンデンさんが言うには、ここら一帯で魔獣が増えていると聞いています。それは間違いないですか?」
ジョセフは腕を組んで、どっしりとソファに深く座り直す。
「間違いない。」
「それは、鬼蜘蛛の森でも同じでした。」
それを聞いて、ジョセフはリンデンの頭を引っ叩いた。
「マスター、殴るのは最後までダイクの話を聞いてからにしてくれ!」
ジョセフの目がこちらを向いたので、話を続ける。
「俺の従魔の親・・・マザーと呼んでいますが、その縄張りにウルフが二、三日に一度のペースで侵入を繰り返していました。それも、特定の方角から来るんです。その方角にウルフの巣があるんじゃないかと思いまして、調べに行ったんです。」
ジョセフは何も言わずに、話を聞いてくれる。
「その方角には遺跡があって、その地下に魔獣木っていう木が生えていたんです。」
「俺も見せてもらったが、マスター、驚くぜ!」
ジョセフは再び、リンデンの頭を引っ叩く。
「お前は黙ってろ!・・・魔獣木か。どこかで聞いたことがあるな。」
ジョセフは考え込んで、黙ってしまう。
「今は見せることができませんが、それを回収してます。その木は透明で、キラキラしたきれいな木だったんです。」
「ブラックウルフだっけ?それがその木を守ってたんだよ!」
ロゼが補足してくれる。
頭を撫でてやりながら、話を続ける。
「その木には水晶のような実がなっていて、実が地面に落ちると段々と大きくなって、ウルフになったんです。」
自分で話していても突拍子のない話だなと思った。
ジョセフはこんな話を信じてくれるのだろうか。
「ちょっと待ってくれ。ルバークはこの街にいたぞ。お前たち二人だけで巣に行ったのか?」
目を見開いたジョセフの顔は鬼のような形相だった。
「違うよ!シラクモとクガネが一緒だったよ!」
ロゼがそう言うと、フードからシラクモとクガネがテーブルの上に跳び出てくる。
「そうか、従魔がいたんだったな・・・。だが、登録はシラクモの方だけじゃなかったか?」
「クガネは遺跡に行ったときに、ロゼの従魔になりました。」
「そうか・・・。帰りか明日にでも登録してくれ。」
ジョセフはすっかりと頭を抱え込んでしまった。
「魔獣木を回収して、帰ってきた日にリンデンさんが森に来たんです。」
「鬼蜘蛛に捕まって、ぐるぐる巻きにされてたんだよ!」
ロゼが少し笑いながらジョセフに報告する。
「おい、ロゼ!そんなことはマスターにいう必要はねぇ!」
ジョセフはさらに二発続けて、リンデンを引っ叩く。
「お前たちは馬鹿なのか?リンデンもそうだが、お前たち二人もだぞ!もっと慎重に行動してくれ。そんなんじゃ、いつ死んだっておかしくないぞ!」
リンデンだけでなく、俺たちまで叱られてしまった。
「で、橋はどうしたんだ。リンデンが街を出た後に崩壊した報告が上がっているが。」
ジョセフが鋭い眼光を俺たち三人に向ける。
リンデンが話すのかと黙っているが、リンデンの顎は俺に話せと言っている。
「俺が仮設の橋を作って、通ってきました。」
「ボクはその時に、魔獣をやっつけたよ!」
ロゼにはジョセフの睨みが効いていないみたいだ。
「ふぅ~、そうか。それはご苦労だったな。」
ジョセフは大きなため息を吐いて、背もたれに体を預けて、体を伸ばした。
「今日はここまででいいだろう。明日は魔獣木を見せてもらうぞ。」
その言葉を聞き、リンデンが勢いよく立ち上がる。
「じゃあ、マスター。また明日な!俺は二人をルバークのところに連れて行かにゃならん。」
そういえば、ギルド職員の人にルバークを呼びに行ってもらってたんだっけ。
「また、明日来ます。失礼します!」
「来ます!」
シラクモとクガネはフードの中へと戻っていく。
ジョセフから返事は無かったが、部屋を出る。
受付まで戻るが、ルバークの姿は無く、呼びに行った職員はカウンターに戻っていた。
「ルバークはどうだった?」
リンデンが呼びに行ってくれた職員に聞く。
「まだ、戻られてないようです。」
「あの、私からよろしいでしょうか?」
キャサリンが言葉を挟む。
リンデンと俺たちがキャサリンの方を向くと、話し始めた。
「現在、ルバークさんには護衛の依頼に参加していただいてます。この街に避難してきた人たちの荷物を取りに、近くの村まで同行しているようです。この時間に戻られないのなら、帰りは明日の早朝になると思われます。」
キャサリンは丁寧に説明してくれる。
「でも、ルバークさんは冒険者ギルドに登録してないですよね?なんで依頼を受けているんですか?」
ロゼも隣で頷いている。
「俺が頼んだんだ。橋の崩落を聞いたころにたまたま会ったんだ。帰れないなら、手伝ってくれってな。思ってた以上に優秀だったがな。」
解体部屋から出てきたジョセフが教えてくれた。
そういえば、先ほどの話し合いの時にルバークがこの街にいることを知ってたな。
そうだったのか。
帰るに帰れず、ルバークも大変だったみたいだ。
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