第58話 仮設の橋作り
まだ、日も登らない時間に家を出発した。
前回のサンテネラ訪問には荷車があったが、今回はない。
リンデンが白馬に乗って、俺たちはその後ろを走って追いかける。
疲れたら交代で白馬に乗ることになっている。
しかし、日ごろの鍛錬のお陰か、昼休憩までに交代することはなかった。
マザーの縄張りを出ると、ウルフをちらほら見かけるが、襲ってくることはなかった。
襲ってこないのなら、こちらからすることは何もない。
夕方まで休憩を取りながら走って、何とか前回ルバークたちと野営した辺りまで来ることができた。
リンデンは簡易テントを組み立てて、俺は夕飯の準備をする。
ロゼとシラクモ、クガネは周囲の警戒をしてくれている。
クガネというのは、ロゼの従魔だ。
昨日、進化を終えて旅に同行してくれている。
小さく進化した鬼蜘蛛だが、なかなかに手ごわい魔法を持っている。
「先に食ってくれ。その後は寝てていいぞ。夜は俺が見張っている。何かあれば、起こすがな!」
リンデンも疲れた顔をしているが、そう言ってくれる。
「ありがとうございます!先にいただいて休みますね。」
俺とロゼは先に簡単な食事をとり、テントの中に入る。
着ていたローブを体にかけて目を瞑る。
ずっと走ってきたので、横になるとあっという間に夢の世界に旅立った。
目を覚ますとまだ空は真っ暗だった。
「リンデンさん、すいません。しっかり寝ちゃいました。交代します。」
リンデンの側には、数体のオークが転がっていた。
「いいってことよ。走り通しで疲れていたんだろ。このオークはシラクモが倒してくれたんだ。アイテムボックスに入れておいてくれ。」
そう言い残し、リンデンはテントへと消える。
シラクモもクガネも見張りをしてくれていたみたいだ。
「ありがとう。シラクモ、クガネ。」
オークをアイテムボックスにしまって、鬼蜘蛛たちの体を撫でて朝を待った。
朝日が昇ると、リンデンとロゼが起きてくる。
簡単に朝食を済ませて、先へと進んでいく。
途中、向こうの方から馬車が走ってくるのが見えた。
「お~い、この先は橋が崩れて渡れないぞ。魔獣が出るって看板も立ってたから引き返して来たんだ。」
遠くから手を振って、御者台に乗る人が教えてくれる。
「そうか、俺たちも一度見てから引き返すぜ。教えてくれてありがとよ!」
馬車とすれ違って、崩れた橋を目指して進む。
途中、ロゼが白馬に乗ってリンデンが走ることになった。
ロゼは楽しそうに白馬に跨っていた。
しかし、リンデンが一キロも走らないうちに、音を上げて白馬の上に戻った。
ロゼは不服そうではあるが、リンデンの顔色を見ると快く譲ってくれた。
お昼前には、橋に着くことができた。
橋には看板が立てられており、修理している人も誰もいない。
「ダイク、できそうか?」
橋の側で休憩を取っていると、リンデンが確認してくる。
「何とか、がんばります!リンデンさんは、ロゼたちと周囲の警戒をお願いします。」
十メートルほどの川幅に掛けられた橋は流されたのだろうか。
橋脚のだったと思われる残骸以外、きれいに無くなっていた。
元の橋は修理の業者が直すはずなので、すぐ隣に仮設の橋を作ることにする。
あくまでも、作るのは仮設の橋だ。
修理を請け負った人たちの仕事は奪えないし、安全も担保できない。
仮に橋ができたとしても、渡るのならば自己責任でお願いしないとな。
崩れた橋を参考に同じくらいの間隔で、橋脚を土魔法で作っていく。
橋脚を作り終えたころに、ウルフとオークの鳴き声が聞こえてくる。
「魔獣はボクたちにまかせて!ダイク兄はそのままお願いね!」
ロゼはシラクモを頭に、クガネを肩にのせて魔獣たちに向かっていく。
魔獣はロゼに任せることにして、橋に集中する。
橋脚の上にのせるように、土魔法で一枚板を向こう岸まで伸ばしていく。
出来る限り固いイメージで作ったが、どこまでの重さに耐えられるかは分からない。
「リンデンさん、仮設ですが橋はできました。」
隣で作業を見守っていたリンデンに声をかける。
「さすがだ、よくやった!」
リンデンは橋を歩いて、耐久性を確認しながらそう言った。
「仮設の橋を渡って怪我をされても、俺には責任を持てません。新しく看板を追加してもいいですか?」
一応、リンデンに確認をとる。
「そうだな、看板はいいな。俺が作ってやる。少し休んでおけ!」
アイテムボックスから木材と必要な道具を取り出し、リンデンに渡す。
地べたに座って、リンデンの作業を見守った。
「これでいいだろう。文字はダイクが書いてくれ。」
リンデンが作った二つの看板を俺の前に並べてくる。
この橋が仮設であることと、何があっても自己責任だと強調して書いておいた。
「ありがとよ。俺が看板を立てておくぜ!」
リンデンがそういうので、任せることにした。
俺はロゼたちが倒したオークとウルフを回収することにする。
ロゼたちがいないなと思っていると、すでに向こう岸でウルフと戦っていた。
「よし、行くか!」
俺たちも仮設の橋を渡って、倒した魔獣を回収する。
リンデンはサンテネラ側にも看板を立ててくれた。
準備が整うと、再びサンテネラに向けて走り出した。
日の沈んだ頃に、ようやくサンテネラが見えてくる。
鬼蜘蛛たちには無用なトラブルを避けるため、それぞれのフードの中に入ってもらう。
「前に来た時よりも人が少ないね、ダイク兄。」
冒険者らしき人たちはいるが、馬車の出入りは無かった。
「たぶん、橋が壊れちゃったからじゃないかな?」
「あとは魔獣が増えてるから街の外に出ないんだろうな。」
リンデンが補足してくれる。
並んでいる人もおらず門で止められることもなく、すんなりと街に入ることができた。
白馬は門を抜けてすぐの店にリンデンが返していた。
ロゼは別れが惜しそうだが、リンデンは構わずに先に進んでいく。
「まずはギルドに行くぞ!宿もこっちで用意する。もちろんタダだから気にするな!」
ロゼの手を引いて、リンデンの後を追う。
リンデンは脇目も振らずに冒険者ギルドへと進んでいく。
「ルバークさんを探したいんだけど・・・。」
ロゼが小さな声で言った。
「すまんな。ギルド職員に頼むから、まずはギルドだ。」
向かう途中に前回泊った宿が見えてくるが、扉が閉まっていて中は見えなかった。
「おう、戻ったぞ!」
受付のお姉さんに、粗雑な帰りの報告をする。
「リンデンさん、どうやって戻ってこられたんですか?橋は崩れていると報告があったきり、修理された報告もまだありませんが・・・。」
受付のお姉さんは丁寧に現状把握に努めていた。
「キャサリン、今はそれどころじゃねぇんだ。マスターはいるか?」
受付のお姉さんはキャサリンという名前なのか。
「はい、ご自身の席にいらっしゃると思いますよ。」
「報告がある。こいつらも連れていくから、許可をもらってきてくれ。」
「わかりました。少々お待ちください。」
キャサリンは小走りで奥の部屋に入っていった。
「お前たち、ルバークはどこに泊ってるかわかるか?」
リンデンは振り返り、俺たちに質問する。
「多分、前と同じ宿だと思います。ここから近くの宿で下が酒場のところです。」
「さっき宿の前を通ったよ!」
リンデンは頭の中で宿の検索をかけているのか、静かに考え込んだ。
「すぐそこの飯の美味いところか?」
「そうだよ!」
どこの宿か分かったのか、もう一人の職員にルバークを呼びに行かせていた。
「ダイクとロゼが迎えに来たって言えばすぐに来るから、頼むぜ!」
職員も頷くと小走りで、冒険者ギルドを出ていった。
その様子を黙って見ていると、受付の方向から扉の開く音がした。
「騒がしいと思えば、お前かリンデン。」
厳つい顔のおじさんが、扉から顔を覗かせていた。
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