第57話 あと二日
もう少しで家に着くというところで、リンデンの姿が見えた。
「リンデンさん、戻りました!」
「ただいま!」
湖や畑を見て回っているリンデンに声をかける。
「おう、早かったな!少し周りを見せてもらったが、いい森だな。しっかりと手入れされている。」
森を見渡しながら、リンデンはそう言った。
「リンデンさんは何してたの?」
「何って訳じゃないが、自然を感じてたんだ。サンテネラにいると、あんまり自然と触れ合えねぇからな!」
手を広げて、体全体で森を感じているリンデンに言う。
「リンデンさん、適当なところで家に戻ってくださいね。もう少しで昼ですよ。」
「おう、もう少ししたら中に戻るぜ!」
俺とロゼは、リンデンを残して家の中に戻ることにした。
「「ただいま!」」
家に戻ると、ロゼはブラシを持って裏庭へ行ってしまう。
しょうがなく一人で昼食の準備をする。
手を洗ってアイテムボックスからスープを鍋ごと取り出して、魔導コンロで温め直す。
他は唐揚げとトマトの煮込みとパンで十分だろう。
それぞれを皿に盛り付ければ準備は終わりだ。
準備が終わったところに、丁度よくリンデンが入ってきた。
「いい匂いだ。お前たちはなかなかいい生活をしてるな。」
リンデンが鼻をクンクンとさせながら言う。
「いい生活って、どこもこんな感じじゃないんですか?」
俺とロゼは普通の暮らしを知らない。
孤児院からこの森で暮らして、知っている村と街も二つしかない。
「全然、違うな。この家はなんでも魔道具だろ。庶民にはなかなか手が出ない品だ。あと、料理もうまい。」
ヴィドの家には魔道具はほとんどなかった。
サンテネラでも、あの暮らしが普通なのかもしれない。
「そうなんですか。ルバークさんが魔道具士っていうのもあるんでしょうけど、料理はほどんど街で買ってきたものですよ。」
「ガハハハッ、そうか。お前はアイテムボックス持ちだもんな。そりゃあ、普通じゃないわな。」
よく分からないが、リンデンが納得したところでロゼが戻ってくる。
昼食を食べ終わると、お茶を淹れる。
ルバークがいない生活でも、気がつけばお茶は欠かせないものになっていた。
「昨日の続きなんですけど、いいですか?」
お茶を美味しそうに啜っているリンデンに言う。
「おう、待ってたぜ。で、そんな深刻な話なのか?」
リンデンは椅子に座り直して、真剣な眼差しを向けてくる。
「・・・リンデンさんは魔獣木って知ってますか?」
「なんだか、どこかで聞いたような名前だな。どこだったっけな。」
「魔王領で魔石がなる木らしいんですけど・・・。」
「あぁ、それなら知ってるぜ。それがどうしたんだ?」
冒険者ギルドでは、まだ魔獣木は見つかっていないのだろう。
まぁ、他にも魔獣木が生えているとは思いたくもないが・・・。
「この森でもウルフが増えているって言いましたよね。俺とロゼで、ウルフがよく襲ってくる方角を調べたんですけど、そこに魔獣木が生えていたんです。」
リンデンは何が問題なんだと言いたげな顔で、頭を傾げている。
「よかったじゃねぇか。ルバークも大喜びだろうよ?違うのか?」
「魔獣木からウルフが生まれたんだよ!」
ロゼが説明してくれる。
「ロゼの言う通りです。木から実が落ちると、だんだんと大きくなって中から魔獣が生まれました。信じられないでしょうけれど、本当の話です。」
リンデンは腕を組んで何かを考えているようだった。
「・・・よし、俺をそこに連れていってくれ!見てみないことには何とも言えねぇ。」
突然立ち上がり、出かける準備を始める。
「り、リンデンさん、出掛ける必要はありません。」
家を出ようとするリンデンを引き留める。
「なんでだ?まさか、もう燃やしちまったのか!?」
「まさk「ダイク兄のアイテムボックスに入ってるからだよ!」」
ロゼが俺の話を遮って、答えた。
リンデンはそれを聞いて、目を丸くしている。
「・・・見せてもらうことはできるか?」
見せてあげたいが、この森では鬼蜘蛛が生まれてくる。
鬼蜘蛛は強いので、どうしたものかと考えていると、頭の上で大人しくしていたシラクモが俺の頭を軽く叩く。
「どうした、シラクモ?」
「シラクモは大丈夫だって言ってるよ!」
ロゼがシラクモを見て言った。
「分かりました。外に出ましょう。」
全員を引き連れて、湖のそばまで行くことにする。
「これが魔獣木です。」
アイテムボックスから取り出すと、リンデンはまじまじと見つめている。
「初めて見たぜ。これが木なのか?」
「魔王領にある木は果樹のような見た目らしいです。なんでこんな姿をしているのかは、わかりません。」
リィーーーーーーン
音を立てて、水晶のような実が一つ地面に転がり落ちた。
すぐさま魔獣木をアイテムボックスに仕舞って、リンデンを少し離れたところに誘導する。
「リンデンさんは、危ないので離れててください。」
リンデンにバレないように結界を張っておく。
一度しか守ってくれないが、無いよりはましだろう。
実はどんどんと膨らんで、乳白色に色を変える。
「ロゼ、シラクモ、そろそろ来るぞ!」
「うん、大丈夫!」
シラクモは実からすぐのところで、前足をあげていた。
「お前ら、気をつけろよ!」
リンデンの声が聞こえると同時に、鬼蜘蛛が生まれ出る。
シラクモが即座に前足を振って鬼蜘蛛は大きく飛ばされて動かなくなる。
「疑ってたわけじゃねぇが、本当に生まれてくるんだな。」
リンデンはそう言いながら、鬼蜘蛛に近づいていく。
「「リンデンさん!!」」
鬼蜘蛛が再び動き出し、リンデンに跳びかかった。
リンデンが後ろにのけ反ると、結界に阻まれて鬼蜘蛛は跳ね飛ばされた。
俺はもう一度、リンデンに結界を張る。
ロゼとシラクモは鬼蜘蛛目掛けて走り出し、とどめを刺した。
「死ぬかと思ったぜ・・・。」
尻もちをつく形で座り込んで、リンデンは言った。
「ダメだよ、リンデンさん。危ないじゃん!」
ロゼがリンデンを叱ってくれた。
「すまんな。でもなんで鬼蜘蛛が生まれるんだ?」
「元々生えていた場所ではウルフが生まれてきました。魔素の影響で生まれてくる姿が代わるみたいなんです。」
「おい、待てよ・・・。ここら一帯で魔獣が増えてる原因がこいつだって言うのか?」
「可能性はあると思います。なので、せめてあと二日、森の様子をみたいんです。」
リンデンは腕を組んで再び考え込む。
「わかった。あと二日だな。それが過ぎたら橋をどうにかして、冒険者ギルドまで来てもらうぜ。」
眼光鋭くリンデンが言う。
「わかりました。あと二日、何もなければリンデンさんに従います。」
「ボクもそれでいいと思うよ!」
各地で魔獣木が生えている可能性を知ったリンデンは、この森の現状を飲み込んでくれた。
俺もできる限り、リンデンの要望に応えようと思えた。
橋さえ通れるようになれば、森にルバークが帰ってくるだろう。
そうなれば、俺も安心してサンテネラに行くことができる。
ここから二日間は、リンデンに料理を教わったり、マザーに報告に行ったりとリンデンがいるものの普段とあまり変わらない生活を送った。
この間に、ウルフたちがマザーの縄張りに侵入してくることはなかった。
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