第54話 はじまりの木
近くで見ても、何なのかが分からなかった。
背丈は俺と同じくらいで、ガラス細工のように透明で輝いている木が生えていた。
工芸品のようにも見えるが、そこに置かれているのではない。
土に根をはって、生えているのだ。
葉っぱは付いておらずに、水晶のような玉が沢山ついている。
ブラックウルフは、この木を守っていて動けなかったのだろうか。
「すごくきれいじゃない?ルバークさんのお土産にしようよ!」
ロゼは持って帰る気で満々だった。
「ちょっと待って・・・調べてみるから。」
鑑定で何なのかを見てみる。
魔獣木という木みたいで、別名 はじまりの木となっている。
それ以外は、何も書かれていなかった。
魔獣木だと物騒だが、はじまりの木だと神聖な感じがする。
「魔獣木っていう木みたいだね。せっかくだし、持って帰ろうか。まずはウルフの回収してからね。」
ブラックウルフを回収し、レッドウルフの元へと向かう。
「ボクはここでこの木を見てるよ!」
後ろからロゼの声が聞こえてくる。
「いいけど、壊れちゃうかもしれないから触らないようにね!」
「わかったー!」
そそくさとウルフの回収をして、ロゼの元に戻ろうと振り返る。
リィーーーーーーン
甲高い鈴のような音色が部屋に響いた。
「ダイク兄、大変だ!こっち来て!」
急いでロゼの元へと戻る。
「何?何の音?」
ロゼの足元に水晶の玉が転がっていた。
ロゼのことを訝しむ目で見る。
「ち、違うよ!ボクは触ってないよ!見てただけだから・・・あっ、ほら、動いてるでしょ!」
確かに水晶の玉は左右に小さく揺れていた。
「わかった、わかった。疑う目で見てごめん。少し離れて様子を見よう。」
ロゼの手を引いて、少し離れて結界を展開する。
水晶の玉を鑑定してみると、魔獣の実と表示される。
魔獣木の実だからそうだろうなとは思ったが、なんで動いてるんだろう。
「あっ、何か少し大きくなってない?」
ロゼの言う通り、少しずつ大きくなっていた。
今では木に生えている実よりも、二回りは大きくなっている。
しばらく実の様子を見守っていると、どんどんと大きくなり、色も透明から乳白色に変わった。
何だかたまごみたいに見えてくる・・・。
まさか、この実からウルフが生まれたりしないよな・・・。
さらに待つと、たまごのようなものにひびが入る。
「割れちゃうのかな?」
ロゼは興味深そうにたまごのようなものを見つめている。
「俺の予想だと・・・あれからウルフが出てくるよ。」
自分でフラグを立ててしまったと思ったが、間違いないだろう。
魔獣木からウルフが生まれたとすれば、あれだけの数がいたのも理解できる。
リィーーーーーーン
再び、甲高い鈴のような音色が部屋に響く。
それと同時にウルフがたまごを突き破って生まれ出た。
たまごの殻はキラキラと光りながら塵になり、風に乗って消えてしまった。
生まれたばかりだというのに、すでに立っていて倒してきたウルフと遜色ない。
しかも、俺たちに攻撃を加えようとしてくる。
「ダイク兄、倒しちゃっていいのかな?」
「いいよ。俺たちを攻撃してくるから。」
そんな話をしているうちに、シラクモが頭から跳んでウルフを倒す。
「ちょっと、シラクモ!ボクが倒そうと思ったのに!」
ロゼは怒ってシラクモに詰め寄っている。
シラクモはロゼの肩に跳んで、体を擦り付けている。
「わざとじゃないよ。許してあげて。助けようとしてくれたんだよな、シラクモ。」
シラクモは前足をあげている。
「も~、しょうがないなぁ。」
なんだかんだ、ロゼはシラクモに甘い。
ウルフを回収して、魔獣木に近づく。
魔獣木の根元に水晶の玉が落ちていた。
さっきの音はまた、玉が落ちた音だったみたいだ。
アイテムボックスに入れてみるが、無事に収めることができた。
これもルバークへのお土産というか、研究材料になるんだろう。
「シラクモ、土魔法で魔獣木の下の土を解すのを手伝ってくれ。」
シラクモは俺の隣で、二列目の腕を開いている。
魔法のお陰か、少しずつ魔獣木が動いている。
「倒さないように、慎重にね。」
土から離れると、アイテムボックスに入れることができた。
「少し休んだら、帰ろうか。」
襲撃が増えた原因の一つかもしれないものを見つけたし、今日は十分な成果だろう。
「ダイク兄、少しお腹すいたよ。」
ロゼのリクエストに応えて、クッキーとお茶で休憩する。
「そういえば、鬼蜘蛛は大丈夫?」
ロゼの肩にかけた鞄には鬼蜘蛛が眠っている。
結構激しい戦闘になってしまった。
「大丈夫だよ。ちゃんと鞄で眠ってるよ!」
そう言うならいいが、無事に進化してロゼを喜ばせてあげてほしい。
休憩中にふと思った。
昨夜見えた光は、魔獣木に月の光が反射したものだったのだろうか。
それ以外に光を放つものは無さそうだった。
休憩を終えると、帰る用意をする。
この部屋は天井がすっかり落ちており、空がきれいに見えている。
なぜか崩落した瓦礫は見当たらないが、元々そういう作りなのかもしれない。
壁に足場を生やして、階段を作り地上に出る。
まだ空は明るいが、急いで帰らないと暗くなるかもしれない。
「ロゼ、急いで帰ろうか。」
「うん!」
少し歩くと遺跡に戻ってきた。
また落ちるようなことは避けるため、遺跡を大きく迂回する。
帰り道は走り抜けたので、あっという間にマザーの縄張りまで戻ってこられた。
やはり、帰りも地上でウルフに遭遇することはなかった。
「暗くなってきたね、ダイク兄。」
家が見えてきた頃には、日が落ち始めていた。
「そうだね、結構かかっちゃったね。ロゼ、疲れてない?」
「うん、大丈夫だよ!ルバークさん帰ってきてるかな?」
「どうだろう?帰ってきてるといいね!」
ルバークの帰宅を願いながら、家のドアを開けるが明りは灯っておらず静かだった。
「ロデオいるか、見てくるね!」
ロゼは裏庭へと走っていってしまった。
装備を外しながらロゼを見送り、洗面所で手を洗ってから夕飯の準備に取り掛かる。
足音を響かせながら、バタバタとロゼが戻ってくる。
「ロデオもいないよ。まだ帰ってきてないみたい・・・。」
しょんぼりした顔でそう言った。
「もうすぐ帰ってくるよ。ロゼがそんな顔してるとルバークさんが心配するよ。」
ロゼを励ましながら、料理をする。
「鬼蜘蛛の入っている鞄は、どうしよっか?」
「部屋に置くか、入り口の壁掛けにかけるかかな?ロゼの好きな方でいいよ。」
「う~ん、じゃあ、部屋に置いておくね!」
ロゼは部屋へと階段を上がっていく。
「「ごちそうさまでした!」」
食事を終えて、食休みをしているとマザーからの連絡が入る。
(二人とも、侵入者だ。)
「ダイク兄!」
「ロゼ、出かける準備をするよ!」
急いで装備を整え、家を飛び出した。
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