第53話 遺跡の地下道
道なりに進んでいくと、崩落した瓦礫の山で埋まっていて進めなかった。
瓦礫をアイテムボックスに入れてしまおうとしたが、更なる崩落を誘発する可能性もあるので踏みとどまった。
仕方がなく来た道を戻り、もう一方の道へと進んでいく。
しばらく進むと、ロゼが俺を腕で止める。
耳を澄ますと獣の息遣いが聞こえてくる。
先が見えないため、光の玉を前方に飛ばして様子をみる。
獣も気がついたのか、俺たちの方に走ってくるのが見えた。
「ロゼは俺が仕留められなかった奴をお願いね。」
ロゼは理解したのか、俺から一歩離れたところで剣を構えている。
一本道のため、何も考えずに風の刃を隙間なく飛ばしていく。
遠くの方で獣の悲痛な鳴き声が聞こえてきた。
「もう大丈夫だね!何も聞こえてこないよ。」
ロゼは目と耳がいい。
ロゼの言葉を信じて進んでいくと、ウルフの亡骸が転がっている。
「こんなところにウルフがいるのか。もしかして、この先にウルフの巣でもあるのかな?」
たまたま落ちてしまった穴に、ウルフがいるとは思いもしなかった。
何度かウルフに襲われるが、狭い地下道では風魔法が効果的だった。
逃げることも避けることもできずにウルフたちは破れていく。
進んだ先が二股に分かれている。
風は左の方向へと流れている。
「ダイク兄、どっちに行く?」
「左の方に風が流れてるから出口があるかもしれない。右の方は行き止まりかもしれないけど、ウルフの巣があるかもしれない。ロゼはどっちに行きたい?」
ロゼに行き先を委ねることにする。
「ん~、右に行ってから左に行こう!」
ロゼはダンジョンなんかがあれば、隈なくマッピングするタイプのようだ。
「よし、じゃあ右から見ていこうか。その前にこれ。」
アイテムボックスから唐揚げパンを取り出して、ロゼの口に入れてやる。
「まずはここで少し休憩しよう。シラクモも食べるだろ?」
唐揚げパンを差し出すと、パンに跳びついてくる。
「はいふはい、いう゛!」
ロゼがパンを咥えたまま言うので、水の玉を出してやる。
手を洗って、昼食をとった。
昼食中もウルフたちには関係ないようで、何度か襲ってくる。
そのたびにシラクモが跳びだして行き、倒してくれた。
シラクモのお陰でゆっくりと昼食をとることができた。
「ありがとう、シラクモ。俺の頭の上で休んでるといいよ。」
そう言うと、シラクモは頭に跳び移る。
「じゃ、行こっか!」
ロゼの掛け声で右手の道に進んでいく。
右手の道には、少し進むと鉄の扉があった。
扉越しに耳を立てて音を聞いてみるが、よく分からない。
「ロゼ、何か聞こえる?」
俺には聞こえないが、ロゼには聞こえているかもしれない。
「うん、ウルフがいっぱいいるね。あと、後ろからも近づいてきてるよ!」
「そうか・・・、後ろの奴らを倒してから開けようか。」
ロゼの言った通り、扉の背後からウルフが三匹襲ってきた。
ロゼが剣を振ってあっさりと撃退する。
「もう大丈夫。扉開けようか!」
少し開けて中の様子を見ようと扉を引っ張ると、カチャッという金属音が響き、ウルフたちが我先に外へ出ようと扉に押しかけてくる。
「ロゼ、手伝って!」
一気に開けて、魔法を放てばよかったと後悔した。
このまま押し負ければ扉と壁に潰されてしまう。
俺とロゼ対ウルフたち鉄の扉の押し合いになる。
身体強化を使っても、完全に閉めることができないほど、ウルフたちが扉に押し寄せる。
「う~、やばいよ。ダイク兄・・・。」
「し、シラクモ、隙間から中のウルフをお願い!」
シラクモは閉まりきらない扉の隙間から部屋の中に入っていく。
ウルフの気が逸れたのか、扉を押す力が弱まり扉が閉まる。
「ダイク兄、行こう!」
扉を一気に開けて、魔法を放ちながら突入する。
すでにシラクモが部屋の奥でウルフを引き付けながら戦ってくれている。
俺たちはシラクモとウルフを挟み込む形で葬っていった。
中は十メートル四方ほどの部屋で、鉄の扉以外に出口はない。
「何でここにウルフがあんなにいたんだろうね?」
ロゼの疑問はもっともだ。
部屋を探っていると、天井にマンホールほどの穴があり、茂った草の隙間から空が見えた。
「ここにいたウルフたちはあそこから落ちて、出られなかったんだろうな。」
「本当だ!間違って落ちちゃったんだね。」
部屋にはほかに何もなかった。
ウルフたちを回収して、来た道を戻っていく。
先ほどの別れ道を左へ曲がる。
崩落している場所もあるが、俺たちが通れそうなスペースがある。
瓦礫を乗り越えながら進んでいく。
その間もウルフが襲ってくるが、撃退する。
いつの間にか、ウルフに対する恐怖心を感じることは無くなっていた。
「ダイク兄。やっぱりここ、ウルフがすごく多いね。」とロゼが言う。
「本当だな。なんでこんな地下にいるんだろうね。」
ウルフを撃退しながら、そんな話をした。
進んだ道の先に、再び鉄の扉が現れた。
「ロゼ、今度は一気に開くよ。」
「わかってる!やっぱりこの先にもウルフがいるよ。」
扉越しに聞き耳を立てていたロゼが言う。
「行くよ!」
力を込めて一気に開くと、中にはウルフが大量にいた。
即座に魔法を放って、中に入っていく。
この部屋にはウルフだけでなく、レッドウルフが数匹と、もう一匹初めて見る個体がいた。
レッドウルフよりも大きい個体で鑑定で見てみると、ブラックウルフという名前らしい。
見た目だけなら大きくなったウルフって感じだ。
「ロゼ、ブラックウルフっていう初めて見る個体がいるぞ!まずは周りのウルフに専念して、奴らが襲ってくるようなら対処しよう!」
「うん。分かった!」
魔法を飛ばしながら、剣を振るいながら会話する。
ウルフをかなりの数倒し、あともう少しというところでレッドウルフが火を吹いた。
生きているウルフたちも巻き込んで、炎がこちらに向かってくる。
「ダイク兄、お願い!」
それを見たロゼは、俺の元に物凄いスピードで走ってきて抱き着いてくる。
俺は結界魔法を発動する。
俺の周りに円形の結界が包み込むように張られて、炎から守ってくれる。
結界の中に、炎の熱さが伝わることはなかった。
「ダイク兄、シラクモはどこ行ったの?」
そう言えば、頭の上にいない。
「あれっ、いつからいないんだ!?」
頭の上にも背中にもいない。
レッドウルフが交互に炎を吐いているのか、結界はずっと炎に包まれている。
どうしようかと考えていると、炎が止まり、魔獣の叫び声が響く。
レッドウルフの元にシラクモが見えた。
「あんなところに・・・。ロゼ、突っ込むぞ!」
「うん!いま行くよ、シラクモ!」
身体強化を使って、レッドウルフたちとの距離を詰める。
ロゼに結界をかけて土魔法でレッドウルフに足枷をつけて動けなくする。
引きちぎろうと暴れているが、構わずに力を込めて風の刃を飛ばす。
それぞれが一匹ずつ倒して、レッドウルフは破れた。
「あとは、あいつだけだね。」
ロゼはそう言って、ブラックウルフ目掛けて走り出す。
ブラックウルフは部屋の隅から一歩も動いていない。
「ロゼ、何してくるか分からないから気を付けろよ!シラクモもロゼを頼んだ!」
ロゼの頭の上にいるシラクモにも声をかける。
俺はブラックウルフの動きを観察して、サポートに徹する。
ロゼが切りかかると、抵抗することなくあっさりと倒れてしまった。
「えっ・・・。」
あまりの最後に何とも言えない声が出た。
周りのウルフを回収していると、ロゼから呼ばれる。
「ダイク兄、これ見て!」
ロゼの元に走ると、ブラックウルフの後ろにキラキラと何かが光っている。
「なんだ、これ?」
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