第52話 遺跡
すいません。
昨晩に一部だけ公開されていたみたいなので、改めて上げ直します。
眠っていると、風を感じて目を覚ました。
いつも窓とドアを閉めて寝ているので、風なんて感じることは無い。
体を起こして目を擦りながら窓の方を見ると、やっぱり開いている。
寝ぼけながらロゼとシラクモを探す。
ロゼは隣で布団を被ってぐっすりと眠っている。
シラクモは・・・ベッドにいない。
起き上がって、窓の外を覗いてみると外壁にシラクモはくっついていた。
「まだ夜だよ。何してるの?」
シラクモの前足が上がり、ある方向を指差している。
指された方向を見てみると、薄っすらと光っている場所がある。
「何だ、あれ?」
あの方角には遺跡があるとマザーは言っていた。
炎の揺らぎのようなものもなく、魔石が光る時のような一定の光に見える。
「シラクモはあれが何か知ってる?」
シラクモは体全体で左右に動いている。
まだ、空には星々がきれいに瞬いている。
危険な感じはしないので、もう一度ベッドに戻ることにする。
「シラクモ、中に入るよ。もう少し休もう。」
そう言うと、シラクモは外壁から俺の腕に跳び移る。
窓を閉めて一緒にベッドに戻った。
あの光のことが気になったが、眠気に勝つことはできなかった。
再び目を覚ますと、すっかり日が差し込んでいた。
ロゼは変わらずに隣でぐっすり眠っている。
「ロゼ、朝だよ。起きて、準備して出かけるよ。」
布団を剥いで、無理やりで悪いが起きてもらう。
「ほら、窓の外見てみなよ。寝過ごしちゃってるから起きて!」
寝ぼけているロゼの体を起こしてやる。
「あ~、もう朝か。まだ眠いな~。」
眠そうなロゼを洗面所まで引っ張って連れていく。
「ほら、顔を洗って。早く準備しないと!」
先に顔を洗って、朝食の準備に取り掛かる。
準備といってもアイテムボックスから出すだけだ。
パンとトマト味の煮物とスープの簡単な朝食で済ませる。
目の覚めたロゼとシラクモとちゃっちゃと食事を済ませて、出かける準備を整える。
テーブルにはルバーク宛の置手紙をのせた。
「忘れ物はないね?」
「うん、大丈夫!」
シラクモも頭の上にいる。
「よし、行こう!いってきます。」
「いってきます!」
誰もいない家に挨拶をして、森の中へと入っていく。
昨日の襲撃ポイントまでは、迷うことなくすんなりと来られた。
「もう少し先でマザーの縄張りの外だから、慎重にね。」
ウルフに後れを取るとは思わないが、数の暴力には敵わないだろう。
なるべく戦闘を避けて、体力を温存したまま遺跡まで行きたい。
「分かってるよ、ダイク兄。シラクモも大丈夫?」
シラクモが頭の上で前足をあげているのを感じる。
縄張りの境目辺りに着くと、警備している鬼蜘蛛が目の前に下りてきた。
鬼蜘蛛は糸を切ると俺たちの前を歩いていく。
「もしかして、案内してくれるのか?」
鬼蜘蛛はその場で飛び跳ねている。
「ダイク兄、着いていこう!」
ロゼに頷いて返し、鬼蜘蛛の後を身を隠しながら慎重についていく。
しばらく歩くと、どんどんと足場が悪くなっていく。
倒木や岩があちこちに転がっていて、水捌けが悪いのか所々に水たまりがある。
水たまりを避けてアイテムボックスに回収しながら、鬼蜘蛛の後を追う。
しかし、妙だ。
二、三日に一回のペースで襲ってくるウルフの姿が全く見えない。
警戒しながら進んではいるが、今まで一匹も見つかっていない。
「ロゼ、何かおかしくないか?ウルフが一匹もいないんだけど・・・。」
「ウルフだけじゃないよ。角兎もいないよ。鳥の声は聞こえるけど。」
ロゼのいう通り、鳥の鳴き声は森に響いている。
「とにかく、警戒しながら進もう。危ないと思ったら全力でマザーの縄張りに戻ることにしよう。いいね、ロゼ。」
「うん、分かった。シラクモも鬼蜘蛛さんもいい?」
シラクモと鬼蜘蛛は並んで前足をあげてくれる。
周囲に気を配りながら歩くが、遺跡に着くまでウルフに遭遇することはなかった。
近くの茂みから、遺跡の様子を伺う。
しかし、ウルフの気配はない。
「どういうことだ?こっちの方角からウルフが襲ってくることが多いよね?」
ロゼに確認を求める。
「うん、ボクもこっちに何かあると思ったけど違うのかなぁ。もしかしたら、もっと奥の方から来てるのかもね!」
ロゼの言う通りかもしれない。
「今日は遺跡を少し見て回って、帰ろうか。」
「うん、そうだね。ダイク兄。」
ロゼの返事を聞いて、茂みを離れて遺跡に向かう。
遺跡は森に浸食されており、所々に残っている建物もほとんどが崩れている。
崩れていない建物もあるが、植物と苔に覆われてしまっている。
建物自体は石を積み上げて作られていて、表面には様々な模様が刻まれている。
「すごい、きれいな所だね。ダイク兄!」
ロゼは俺の先を歩いて、遺跡を見ている。
鬼蜘蛛を頭に乗せて楽しそうだ。
「そうだね、きれいだ。」
朽ちてはいるが、自然と融合した感じが美しさを際立たせていた。
「見て、あそこ!」
ロゼが何かを見つけて、走り出す。
追いかけると、そこには外壁のようなものがあり、絵が描かれている。
抽象的な絵で何を表しているのかは分からない。
「ロゼ、危ないから走っちゃダ・・・。」
ロゼに近づこうとすると、踏みしめるはずだった地面が沈んだ。
「うわっ!」
地下が空洞だったのか、俺とロゼは辺りにあった地面と共に落ちていく。
落ちるのは一瞬だった。
「いたたた・・・。ロゼ、大丈夫か?」
薄暗い中、光の玉を浮かべてロゼを探す。
「だ、大丈夫だよ。びっくりしただけ。結構落ちちゃったね。」
上空を見ると、かなりの高さから落ちてきたことがわかる。
「シラクモたちは大丈夫か?」
シラクモは前足をあげて応えるが、もう一匹の鬼蜘蛛がいない。
光の玉を周囲に動かし、探すとロゼの肘にしがみ付いていた。
「何だ、無事だったのか。心配させないでくれよ・・・。」
よく見ると、ロゼの肘から血が流れていて、それを飲んでいるように見えた。
「お前、まさか・・・。」
鑑定をしてみると、ロゼのステータスにテイムの欄が追加されている。
「一人でどうしたの?ダイク兄。」
「その鬼蜘蛛は、たぶんロゼと血の契約を結んだんだ。ロゼにテイムされていることになってる。」
「えっ、本当に!?やったー!!」
ロゼの声が空洞に響く。
「ダイク兄、鞄ちょうだい!」
「何に使うの・・・あぁ、そうか。はい、鞄。」
ロゼは鬼蜘蛛を鞄に入れてあげた。
ルバークの考察では、血の契約を結ぶと進化の眠りにつくと言っていた。
実際、鬼蜘蛛はロゼの腕を離れてフラフラしていた。
鞄の中を覗くと、糸を張って繭のようになっていた。
「本当に進化するんだな。ルバークさんが聞いたら喜ぶぞ、これ。」
「そうだね、早く帰らないとね!」
そうだった。
余りの出来事に、穴に落ちたどころではなかった。
「シラクモ、ロゼの怪我を治してくれるか?」
シラクモは頷くと、ロゼに回復魔法をかけてくれる。
「ふぁ~、回復魔法ってこんな感じなのか。ありがとう、シラクモ!」
ロゼの頭に跳び乗り、前足でロゼの頭を撫でているようだった。
「どっちに行こうか、ロゼ。」
俺たちが落ちた穴は一本道の途中なのか、前後にトンネル状の道が続いている。
「う~んとね・・・こっち!」
ロゼが適当に指差す方角へ進んでみることにする。
魔法で階段を作って上に出てもいいが、せっかくだし探検してから戻っても遅くないだろう。
トンネル状の道は、人工物だ。
触ってみると、レンガのようなものでできている。
崩れてくる可能性もあるので、結界魔法を使って先へと進んでいく。
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