閑話 ギルドマスターの仕事
この話で第2部は終わりです。
明日、もしくは明後日から第3部に入ります!
冒険者ギルドの受付カウンターの奥の部屋のさらに奥に俺の席がある。
元々は別にマスター用の部屋が用意されていたが、今では倉庫になっている。
職員たちの顔を見ながら、仕事をする方が俺は好きだ。
俺の顔のせいか、部屋に籠ると誰も近づいて来やしないからな。
部屋の入り口からタンクトップの暑苦しい男が入ってくるのが見えた。
一直線に、俺の元へやってくる。
「おう、マスター。小さな兄弟を登録してほしい。今、カウンターに行くよう仕向けたから、よろしく頼むぜ。」
珍しくリンデンから報告が上がってくる。
「なんだ、お前の知り合いか?」
「いや、違うぜ。俺んとこにオークとウルフを大量に持ちこんできたんだ。戦歴に加えてやってくれ。」
「そうか・・・いや、どうやって小さい兄弟が持ちこんでくるんだ。受付や警備からそんな話はあがってないぞ。冗談は顔だけにしてくれ。」
リンデンがガハガハと下品に笑いながら、俺の耳元に顔を近づけ、囁く。
「ここだけの話だが、アイテムボックス持ちだ。」
リンデンに囁かれた気持ち悪さより、驚きが勝っていた。
アイテムボックスと言えば、初代勇者様が使えたという奇跡の魔法だ。
稀にマジックバックという下位魔法のような魔道具がオークションに出て、話題に上がるが、とてもじゃないが買える額ではない。
アイテムボックス持ちが本当にいるならば、どれ程に貴重なことか。
「俺の目で見たんだ、間違いない。」
そう言い残し、ニカッと笑ってリンデンは戻っていった。
リンデンが特別な目を持っているのは知っている。
ギルドとしても、一ギルドマスターとしても重宝している。
どちらが使えるのかを聞き忘れてしまったが、そんなのは後で聞けばいい。
むしろ、フラットな状態で結果を聞くことができる。
小さな兄弟に実技試験を行い、実力が本物かを見極める必要がある。
実力はさておいても、冒険者ギルドとしてアイテムボックス持ちを囲っておきたい。
それに、慎重に・・・決して死ぬことのないように育てる必要がある。
「Cランクのビクターたちに声をかけろ。明日の朝、今登録している兄弟の試験を行うぞ!」
俺の一声で、冒険者ギルドの職員たちは動き出す。
本当にいい組織になったなぁと、しみじみと感じた。
登録用紙を受付嬢のキャサリンが提出しに来た。
「どれどれ・・・。」
記入された紙を見てみると、従魔までいるのか。
しかも、鬼蜘蛛だと!?
鬼蜘蛛といえば、この辺りで見かけるのは一か所しか知らない。
「この二人だけで登録に来たのか?」
冷静を装って、キャサリンと話す。
「いえ、十歳ほどの見た目の少女と一緒です。正確な年齢まではわかりませんが。」
「その少女は登録をしなかったのか?」
「はい、しませんでした。」
「・・・そうか。明日の朝、試験を行う。試験次第でオークやウルフを戦歴に加えることとする。少女が明日の試験についてきたら教えてくれ。」
「はい、わかりました。」
キャサリンが受付へと戻っていく。
久しぶりの逸材の可能性に、年を忘れて気分が高揚した。
「Cランクのビクターさんが試験官を受けてくれるそうです。」
キャサリンが再び報告にやってきた。
「そうか・・・今来ているなら、ここに呼んでくれないか?」
「はい、わかりました。少々お待ちください。」
キャサリンはそう言って戻っていく。
しばらく別の仕事を片付けていると、ビクターのやってくる気配を感じとる。
「呼び出してすまないな。ここに座ってくれ。」
俺の隣に席を用意し、ビクターを座らせる。
「何ですか、マスター。明日の試験の話ですか?」
「そうだ。まずは、試験官を受けてくれて助かった。感謝する。」
「依頼として受けてますから気にしないでください。で、わざわざ呼び出すほどのことなんでしょうね?」
「そうだな・・・正直、俺も計り知れてない。試験の内容は変えなくていい。受験者の動きや何ができるのかを、事細かに報告してほしいんだ。」
ビクターは首をかしげている。
「マスターにそこまで言わせるほどの人物なんですか?」
「うむ・・・、小さな兄弟だ。それをビクターに計ってほしいのだ。オークを倒す実力があるらしい。あと、従魔もいるぞ。」
「そうですか、それは楽しみですね。細かく報告をすればいいんですね。任せてください!」
「頼んだぞ!」
ビクターの背中に平手で気合を入れる。
「マスターは馬鹿力なんだから、やめてくださいよ。」
ビクターは笑いながら、部屋を出ていった。
翌朝、冒険者ギルドで仕事をしていると、キャサリンがやってくる。
「ダイクさんとロゼさんに付き添って、いらっしゃってます。」
すぐにはピンと来なかったが、誰のことを言っているのかは分かった。
「今、行く。大人しく待っているよう見張っていてくれ。」
急いで服を整えて、怖いと言われる顔を引っ張ってほぐす。
「よしっ、いくか。」
自分で頬に気合を入れて、少女の元へ急ぐ。
「こんにちは、お嬢さん。」
自分で言っていて、変質者かと思った。
怖いと言われる顔に、この声のかけ方・・・俺がお嬢さんの立場だったら、ぶっ飛ばすだろうな。
「こんにちは。どちら様かしら?」
あっけらかんとした返事に驚いたが、年相応な話し方と態度ではなかった。
「俺は、サンテネラの冒険者ギルドマスターのジョセフだ。お嬢さんが連れてきた二人について、ちょっと聞かせてもらってもいいかな?」
「どうも、初めまして。ルバークと申します。」
「これはご丁寧に。お嬢さんたちはこの街に住んでいるわけじゃないんだよな?」
ルバークと名乗った少女は少し考えこんでいる。
「そうですね。この街には商品を売るのと、オークやらを売りに来たんです。できれば、名前で呼んでいただいてもいいかしら?」
「そうか、それは失礼した。ルバークたちはいつまでこの街にいるつもりだ?」
「そうね・・・。オークの解体次第かしら。」
「じゃあ、余裕はあるな。正直に言うと、俺は今試験をしている二人は逸材だと思っている。実力はまだわからんが、魔法を使えるんだろ?」
ルバークから返事は無かった。
しょうがなく、顔を近づけて小さな声で話す。
「アイテムボックスが使えるんだろ?」
「まぁ・・・ね。」
ルバークは再び考え込んでしまう。
「いや、どうこうしようって訳じゃないんだ。知っているのは俺とリンデンくらいだ。安心してくれ。冒険者ギルドとしては、有能な人材はいくらでも欲しいからな。」
「そう、ならいいの。下手に広めるようなら容赦しないわよ。」
満面の笑顔でルバークがそう言った。
このお嬢さん、いやルバークもなかなか戦えるんだろう。
「あの二人はまだ小さい。あんまり危険なことは避けてくれると助かる。」
「それなら、大丈夫よ。」
「ならいいんだ。しかし、最近は魔獣どもの動きがおかしいんだ。気を付けるに越したことは無い。」
「ご忠告、ありがたく受け取るわ。」
そんな話をしていると、ルバークが俺の後方に手を振った。
試験が終わったようで、話はここまでだ。
「じゃあ、またな!」
席を立ちあがり、冒険者ギルドを一度出る。
外で一度空気を吸って、裏手の入り口から自身の席へと戻った。
席で待つと、ビクターが報告にやってくる。
「マスター、これが報告書です。」
羊皮紙を受け取り、結果を確認する。
「ふむ、優秀だな。ダイクの方はすべての的に当てたのか?」
「はい、魔力量は申し分なしです。ロゼの方も、俺と渡り合える・・・いや、力だけでいえば、俺より強いです。本当に逸材でしたね。」
ビクターの人を見る目と、正当な評価は信じられる。
「はっはっはっ、本当に逸材だな。将来が楽しみだ。ありがとうビクター、これで依頼は完了だ。」
「こちらこそ、何かあればお願いしますね!」
ビクターはカウンターへと戻っていく。
俺も試験を見に行けばよかったと少し後悔をした。
ビクターはもう少しでBランクという優秀な冒険者だ。
それを上回る力を、五歳で持っているというのか。
兄の方も、魔法が使える上に的に全て当てたのか。
あの的は魔力量を計る魔道具だ。
保有する魔力量が足りないと当たらない設計になっている。
全てに当てるということは、少なくとも1500の魔力量があるということだ。
アイテムボックスの保持者は兄の方か・・・。
俺の中の判断はそう下った。
他の街のギルドマスター宛の手紙を書いた。
もちろん、優秀な二人についてだ。
アイテムボックスについてはルバークとの約束で、書かなかった。
が、すぐにわかるだろう。
特別扱いはいけないが、まだ幼いんだ。
ある程度は許されるだろう。
そんなことを思いながら、手紙をしたためる。
翌日、幼い兄弟の元に賊が襲われる話を報告されるが、その話はまたの機会にしよう。