第50話 サクラの遺産
ついに50話です!
ここまで続けて読んでくれた方、ありがとうございます!
マザーの元に戻ると、マザーの方から声をかけてくる。
(サクラの望みを継いでくれ。ダイク、頼んだぞ。)
「今は正直、自信がありません。でも、サクラさんの思いは受け取りました。また、地下の本を読みに来ますね!」
(そうか、今はそれでいい。ここにはいつでも来るがよい。)
「ありがとうございます。今日はもう帰りますね!」
マザーの側にいたシラクモが、俺の頭の上に戻ってくる。
マザーからの返事は無かったが、いつでも来てもいいと言われた。
ここには知りたい知識が詰まっている。
ちょくちょく来て、サクラの話を聞くのもいいだろう。
ルバークは水晶を貰えたみたいで、機嫌がいい。
俺たちはマザーに挨拶をして、家へと帰った。
あの部屋で何があったのか、ロゼとルバークから質問されることはなかった。
マザーから何か聞いているのかもしれないが、俺からはまだ話せなかった。
一旦、心の整理が必要だった。
会話も少なく、家路を急いだ。
家に着く頃には、空が夕日に照らされて真っ赤になっていた。
日に日に、日が伸びているのを感じる。
家に入るとすぐに夕飯となり、食べ終えたルバークは部屋に籠ってしまった。
よっぽど水晶のことが気になっていたんだろう。
「ロゼ、二人でお風呂に入ろうか?」
ルバークは魔法で済ませるつもりだろうから、誘わない。
「うん、いいね!」
ロゼと頭にシラクモを乗せ、裏庭の風呂に向かう。
お湯を張っている間に、ロゼはロデオと遊んでいた。
ロゼからの一方的なちょっかいだが、ロデオも嫌がる素振りは見せない。
何だかんだ、ロデオは俺たちに冷たいが嫌いではないんだろう。
「ロゼ、準備できたよ!」
湯の温かさを確認しながら、ロゼに声をかける。
「ありがとう!いま行くよ、ダイク兄!」
ロゼは服を脱ぎながら走ってきて、魔法できれいにしてくれる。
湯に浸かりながらも、今日の出来事を考えてしまう。
「ダイク兄、どうかした?」
俺の上に乗っているロゼが、顔を覗き込んでいた。
「なぁ・・・、ロゼは勇者になりたいと思うか?」
軽い気持ちで聞いてみた。
これからどんな心境の変化があるのかは分からないが、今のロゼの意思を知っておきたい。
「ゆうしゃってなんなんだっけ?」
「ルバークさんは、魔王を倒すことができる人って言ってたよね。」
「まおうはわるい人じゃないって言ってなかったっけ?だから、なりたくないな。」
そうなんだよなぁ。
何のために、ロゼにそんな役割が降りかかろうとしているのかがわからない。
魔王が暴走した時のための制御機能のようなものなのだろうか。
「ごめん、そうだよな。」
シラクモはプカプカと気持ちよさそうに湯に浮いている。
ルバークのいない風呂を、ゆっくりと浸かり満喫した。
部屋に戻り、ベッドに入るとロゼはすぐに寝てしまった。
一人でアイテムボックスのウィンドウを見ながら考え込む。
サクラの遺産には、『中二病魔導大全』なる魔導書が入っていた。
ロゼの睡眠の邪魔にならない程度の光の玉で読んでみるが、サクラの使うことができた魔法が書かれていた。
サクラもアイテムボックスを使えたみたいで、あとは結界魔法の使い方が書かれている。
裏庭の結界はサクラの魔法によるものなのかな。
これは、魔法の勉強の時間に役に立ってもらうことにする。
他には、料理のレシピに醤油や味噌が大量に入っている。
レシピには醤油と味噌の作り方まで書かれていた。
試行錯誤した跡が読み取れ、それほどまでに故郷の味を求めていたんだろう。
ありがたく使わせてもらうことにする。
問題はここからだ。
大量の武器が送り込まれていて、その中に聖剣や魔剣が含まれていたのだ。
なんでこんなものをサクラが持っていたのかは分からない。
当面は俺だけの秘密にしておこう。
これを持ったことで、ロゼが候補生から正式に勇者になってしまうかもしれない。
平穏な日々に、必要のないものだ。
使うことなく、次代に引き継ごうと心に誓う。
一息つくと、眠気が襲ってくる。
隣のロゼとシラクモを見ると、寝息を立てて幸せそうな顔をしている。
重くなる瞼に逆らうことなく閉じると、夢の世界に旅立った。
夢の中で、大人の女性が笑っていた。
とても幸福感に満ちた笑顔だ。
俺の想像が作り出したサクラだと思う。
夢の中でも、はっきりと意識があった。
口元が動いている。
声は聞こえてこないが、俺には伝わった。
遠くの方で、ロゼの声が聞こえてくる。
「ダイク兄、あさだよ!」
ロゼが俺の体を揺らして起こしてくれていた。
「おはよう、ロゼ。もう起きたよ。」
「おはよう、ダイク兄。なみだがでてるよ。わるいゆめでもみたの?」
目元を拭うと、確かに濡れていた。
「そんなことは無かったと思うんだけど・・・。もう覚えてないな。」
辛い夢ではなかったが、もう思い出せない。
「そう?ならいいんだ!かお洗いにいこう!」
ロゼは朝から元気だ。
ルバークは部屋からまだ出てきていなかった。
顔を洗って、味噌汁を作った。
出汁がないので、代わりに野菜をたっぷり入れて。
「もう少しで出来るから、ルバークさん起こしてきて!」
それを聞いたロゼは、階段を駆け上がっていく。
味噌をスープに溶かすと、懐かしい匂いが部屋に漂う。
「いい匂いね。楽しみだわ!おはよう、ダイク君。」
ルバークの顔色は悪いが、元気そうだ。
「おはようございます。これは、昨日サクラさんから頂いたものの一部です。」
ルバークには何のことかが、すぐに分かったみたいだった。
「俺の故郷の味です。完璧に再現はできてませんが、美味しいですよ。」
深めの皿に分けて、配りながら言う。
「いいにおいだね。おいしそう!」
テーブルの上は食事の用意が整った。
「じゃあ、食べましょうか!」
「「「いただきます!」」」
故郷の味は好評で、二人とシラクモは何度もお代わりをしていた。
俺も久しぶりの味に涙が流れそうになるが、上を向いて堪える。
魔法の練習、体力づくり、この世界の勉強、料理・・・。
魔王を倒す暇もないほどに、忙しい日々が始まった。
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