第49話 サクラからの手紙
ルバークと一緒に上の階の武器庫を探すが、ロゼはいなかった。
「マザーのところにでもいるのかしら?」
俺たちは階段を駆け上がり、マザーの元へと急いだ。
もう少しで扉の外というところで、ルバークが急に立ち止まる。
「どうし・・・。」
ルバークに口を手で塞がれる。
ルバークの手に導かれ、ゆっくりと階段を上がり、外の様子を見てみる。
先ほどは応答がなかったマザーとロゼが、何かを話しているようだった。
声までは聞こえないが、確実にロゼは何かを言っている。
(隠れているのは分かっている。出てきなさい。)
頭の中に、マザーの声が響く。
ルバークには聞こえなかったのか、反応を見せない。
「マザーが出てこいって言ってますよ。ルバークさん。」
ルバークは驚いた顔を浮かべるが、すぐに顔を引き締めて階段を上がりきる。
「ロゼ君!マザーのところに行くなら、ちゃんと言ってからにしてちょうだい。心配するじゃない!」
少し怒っているような心配しているような声だった。
「ごめんなさい。でも、言ったんだよ、ボク。」
「そうだったのか。俺たちが集中してて聞こえなかったみたいだね。ごめんな。」
「そうね、少し声を荒げちゃったわ。わたしもごめんなさい。ロゼ君。」
ロゼは満面の笑みで、「いいよ!」と返してくれる。
「ダイク兄、おみやげ出して!」
ロゼに言われた通り、包みを渡してやる。
「ありがと!」
そう言うと、お土産を持って、マザーの元へ走っていく。
いつの間にマザーと仲良しになったんだ。
向こうで包みを開いて、お土産を食べさせていた。
「シラクモも、マザーとロゼのところに行ってきたら?」
頭の上のシラクモに声をかけると、跳び下りてロゼたちの元へと走っていく。
「わたしはここで待ってるわ。ダイク君はもう少し読んできたら?」
ルバークはちょうどいい高さの幹に座りながら言う。
「ありがとうございます。もう少しだけ、読んできますね。」
ロゼのことはルバークに任せて、再び階段を下りていく。
サクラはマメな人だったようで、日記が全部で五冊あった。
五冊目の最後の方はほとんど解読できないほどのミミズ文字で、死に際まで日記を書いていたことが分かる。
そのほかの本は、この世界の歴史や文化を日本語でまとめたものだった。
この手の話はルバークも疎く、ありがたい気持ちでいっぱいだ。
本を次々に開いて、タイトルと数ページをパラパラと読んでいると、一枚の紙が本から落ちる。
拾って読んでみると、サクラからのメッセージが書かれていた。
“これを読めるということは、あなたも私と同じ日本人なのでしょうか。
ここまで来られたということは、私の相棒が許可をした人物なのでしょう。
私の可愛い相棒は元気にしているでしょうか。それだけが心残りです。
私と同じ苦労を重ねないように、この書庫と武器をあなたに送ります。
私が生きた証を、できるならば日本へと持って帰ってください。”
短い文だが、サクラの無念を感じられて、少し胸が痛んだ。
やっぱり日本に帰りたかったのかな・・・。
読み終わると、手紙が淡い光と纏い、どこかへと飛んでいく。
同時に、部屋が地震でも起きたかのように揺れている。
立っていられないほどの揺れだが、本棚も本も倒れたりはしなかった。
揺れが収まると、ロゼとルバークのことが心配になり、階段を駆け上がった。
「ロゼ、ルバークさん!大丈夫でしたか?」
ロゼたちには何の変化もなかった。
「どうしたの、ダイク君。そんなに慌てて。」
「ここは揺れませんでしたか?手紙を読んだら、部屋が揺れ出して・・・。」
「わたしには分からなかったわ。ロゼ君はどう?」
向こうのロゼに問いかける。
「ボクもだいじょうぶだったよ!」
(手紙を読んだか。下りてすぐの階を探るといい。すぐにわかる。)
マザーの声が、頭の中に響く。
「手紙って何のことかしら?」
ルバークにも聞こえたのか、質問が飛んでくる。
「マザーの主の手紙があったんです。それを読み終えたら光って、揺れて・・・。下の階って、武器庫ですよね。ちょっと見てきますね。」
二人の反応も見ずに、階段を下りた。
壁の一部に、手紙が張り付き、淡く光っている。
触ろうとすると、ルバークの声が背後から聞こえてくる。
「ダイク君、何だっていうのよ?いったん落ち着きなさい。」
呼吸を整え、ルバークを見る。
「ふー、・・・落ち着きました。もう、大丈夫です。」
「そう、ならいいの。わたしとロゼ君もついて行くわ。」
ルバークの後ろからひょっこりとロゼが顔を出す。
「わかりました。じゃあ、触りますよ。」
光っている部分に指先が触ると、手紙が落ちて、壁が音を立てて開いていく。
開いた場所は、魔法の光が届かずに真っ暗だ。
手紙を拾って、恐る恐る中に足を踏み入れると、壁が淡く光って部屋を照らした。
何もない空間の中央にポツンと水晶のようなものが浮かんでいる。
近づいてみるが、透き通ったきれいな水晶だ。
「これは何なのかしら?」
ルバークも水晶をまじまじと眺めている。
「きれいな玉だね、ダイク兄!」
ロゼも目を輝かせて、水晶を覗いている。
「これって魔道具の一種ではないんですか?」
「ん~、触ってみないと分からないわ。こんな形のものは見たことないもの。」
ルバークは触ってみろと、俺に促す。
サクラの残したもので、危険なことはないだろう。
ゆっくりと手を伸ばし、触れてみる。
すると、アイテムボックスのウィンドウが現れ、勝手にものが増えていく。
「な、なんだこれ!?」
水晶から手を放そうとするが、接着剤でも付いているかのように離すことができない。
「だ、だ、ダ、ダイク兄、だいじょうぶ!?」
俺の焦りが伝わったのか、ロゼも動揺して言葉に焦りがみられた。
ロゼの方を見ているうちに、水晶は手から離れ、床にキーンと甲高い音が響いた。
驚きの余り、尻もちをついてしまう。
ルバークは水晶を大事そうに拾いながら、俺に心配の顔を向けた。
「大丈夫、ダイク君?」
そうは言ってくれるが、ルバークの目が研究モードになってしまっている。
それを見ると、一気に醒めた・・・いや、落ち着きを取り戻すことができた。
「大丈夫です。今日はいったん帰りましょうか。もうすぐ暗くなっちゃいますし。」
サクラが何を思って、これらを残してくれたのか。
一人で考える時間が欲しかった。
「・・・そう。そうね。今日は帰りましょうか。」
ルバークは大事そうに水晶を抱えて同意してくれる。
持って帰る気だろうか。
「マザーにちゃんと相談してくださいね。その水晶は。」
「いやだわ。わたしのことを何だと思っているのかしら。ちゃんと相談するわ。大丈夫よ!」
「じゃあ、かえろっか!」
ロゼの明るい声に促され、部屋を出てマザーの元へと戻る。
部屋は俺たちが出ると、自動で閉まってしまった。
サクラの願いの届け先が俺でよかったのかは、わからない。
でも、俺もサクラの願いを紡ぐ一人になりたい、そう思った。
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