第48話 地下の部屋
翌朝、朝食をとった後、ロゼがクッキーを作り始めた。
「どうしたの、クッキーなんか作って?」
お茶を飲むルバークが尋ねる。
「おそなえものだよ。マザーのところに行くんでしょ?」
あぁ、そういえば、一度お供え物をマザーの住まう大木にしたことがあったっけ。
「そうだね。でも、そういう時は手土産とか、お土産の方がいいかな。」
ロゼの微妙な誤りを訂正しておく。
「ふ~ん、そうなんだ!じゃあ、おみやげだね。」
「一人で作れるの?ロゼ君。」
「うん、まかせといて!」
ルバークはロゼを微笑ましく見ていた。
「ルバークさんはどうしますか?」
「クッキーが焼けるまでもう少し寝てるわ。出発する前に呼んでちょうだい。」
眠たそうなルバークが茶器を片付け、階段へと向かっていく。
「わかりました。休んでてください。」
そう言って、ルバークを見送った。
「ロゼ、一人で大丈夫?手伝うことがないならロデオの世話してくるけど。」
ロゼは少し悩んで答える。
「だいじょうぶ!ロデオはダイク兄におねがいする!」
ロゼの頭を撫でて、裏庭へと向かう。
「おはよう、ロデオ。」
ロデオに挨拶をして、ロデオの世話をする。
シラクモも手伝ってくれて、ブラシ掛けまであっという間に終わった。
俺とシラクモは東屋に移動し、マザーについて聞いてみることにした。
「シラクモはマザーのところに行くのは楽しみ?」
はいともいいえとも取れない動きをシラクモはする。
「じゃあ、俺と一緒にどこかに行くのは楽しい?」
明らかに頷いている。
シラクモにとってマザーはどんな存在なのだろうか。
いまいちよく分からない。
「ダイク兄、まだここにいたの?クッキーできたよ!」
俺たちは部屋に戻って、お土産にする分のクッキーを包むことにした。
お皿に並べて、マザーの子供たちが作った布で風呂敷代わりに包みこんだ。
もちろん、アイテムボックスに入れておくので焼き立てだ。
「ルバークさんは寝たばっかりだろうから、昼食のあとに行こうか。」
「うん、しょうがないなぁ。ルバークさん。」
ロゼはしょんぼりというかがっかりした顔をしている。
シラクモがロゼの目の前で、励ますような動きをしている。
それが可笑しいのか、ロゼは吹き出して笑った。
「まだ、蜂蜜は残ってる?」
「うん。まだあるよ!」
「もう一回、一緒にクッキー焼こうか。」
もう一回くらい焼けば、昼になるだろう。
暇つぶしついでにクッキーを焼いた。
これで、当分は小腹がすいたときやお茶の時に活躍してくれるだろう。
クッキーが完成したころ、ルバークには申し訳ないが、起きてもらった。
昼食を簡単に済ませて、ようやく出発した。
ルバークの顔色は、朝よりはスッキリしている。
足取りも軽いので、少しは休めたことだろう。
ロゼの先導でマザーの大木を目指して歩いた。
ルバークに気を遣っているのか、ゆっくりと歩いて進む。
大木に到着するまで、どうやって登ればいいのかを考えた。
シラクモもさすがに、子供一人を下ろすことはできても、上げることはできないだろう。
「ダイク君は、何をそんなに考え込んでいるのかしら?」
気がつけば、ルバークが俺の顔を覗き込んでいる。
「どうやって、あの大木を登ろうかと・・・。」
「フフフ、ダイク君もまだまだね。わたしに任せなさい!」
ルバークは胸を叩き、自信満々な顔でそう言った。
「ダイク兄、ルバークさん。もうすぐつくよ!」
ロゼの言葉が聞こえてくると、目にマザーの住まう大木が映った。
「さぁ、登るわよ!」
ルバークはノリノリで魔法を使う。
大木に階段が生えていく。
「へぇ~、土魔法ですか?こんなこと出来れば、サンテネラの街壁なんてあんまり意味がないんですね。」
「そうでもないわ。魔力を結構使うからね。ここからはダイク君にお願いするわ。」
半分までも登っていないのに、ルバークは辛そうだった。
ルバークの魔法を見様見真似で引き継ぐ。
「そうよ、出来るだけ固く、人が乗っても壊れないくらいにね。」
魔法に集中して登っていると、マザーが見えてくる。
登りきると、ルバークは俺たちの背中を押すようにマザーの元に向かう。
「こうやって会うのは久しぶりね、マザー。お邪魔するわ。」
「はじめまして、ロゼです!」
「こんにちは、マザー。地下の部屋を見せてもらいに来ました!」
それぞれに挨拶を交わすが、マザーから返事はなかった。
「わたしたちも入ってもいいのよね?」
ルバークはマザーに問いかける。
「そう、行きましょう。入り口はどこかしら?」
返事があったのかは分からないが、地下の入り口を開いた。
「へぇ~、ぜんぜんとびらがあるなんてわからなかったね。」
「本当ね。これは見つけられないわね。」
それぞれに扉の感想を述べているうちに、光の玉を浮かべて階段を下りる。
後ろから続く様に二人も下りてくる。
「ここは武器庫だと思います。マザーの主の武器だと思われます。」
ロゼは興味津々に武器を眺めている。
ルバークも「壁のは綺麗ね。」とあまり興味がなさそうだ。
ロゼのために光の玉を武器庫に一つ置いていく。
「ロゼ、下に行くよ。興味があるなら、見ててもいいけど。」
「ボクも行くよ!」とすぐに戻ってくる。
ロゼに腕を組まれたまま、下の階へとおりていく。
「ここは書庫ですかね。中身はまだ見てないのでわかりません。」
こちらはルバークが興味津々で、ロゼはあんまりだ。
その反応が面白くて、少し笑ってしまう。
ルバークは何冊か手に取り、読んでいるようだ。
「駄目ね。わたしの知らない言葉で書かれているわ。」
開かれた本を見てみると、俺は目を見張った。
「これ、日本語で・・・俺の前の世界の言葉で書かれています!」
ルバークから本を受け取り、最初から読んでいく。
「ダイク君、何が書かれているの?説明してちょうだい。」
ルバークが急かすように、俺の肩を揺らしてくる。
「この本は、この著者・・・つまり、サクラという人の日記で、マザーの主は転生ではなく転移でこの世界に来てしまったと書かれています。」
「それは、どう違うの?」
「俺は、日本で原因不明の最後を迎えて、こちらの世界に記憶を残したまま生まれました。サクラさんは日本で生きたままで、気がつけばこの世界にいたみたいです。」
ルバークは手を顎に当てて、考え込む。
言葉も分からず、読むこともできずに苦労したことが書かれている。
俺はその部分では困ることが無かった。
サクラは神に導かれて、この世界に来た訳ではないのかもしれない。
日記の初めの方は、辛い言葉しか書かれていない。
しかし、マザーと出会ってからは、楽し気に日記が書かれている。
細かい経緯までは書かれていないが、血の契約をマザーと結んだらしい。
「ルバークさん、血の契約って何ですか?」
「初めて聞いたわね。どういう文脈で書かれているの?」
ルバークに書かれていることを説明する。
「そう、テイムに関することのようね・・・。そう言えば、シラクモ君もあの時・・・。」
「何ですか?」
「ダイク君はシラクモ君を、テイムした記憶はないって言ってたわよね?」
「そうですね・・・。一緒に住んではいましたが、特別に何かした記憶はありません。」
「ダイク君が、大怪我をした時、シラクモ君は血だらけの腕に、しがみ付いて魔法を使ったの。その時に血の契約がなされたとすれば・・・。」
「シラクモ、そうなのか?」
シラクモを見ると、激しく頷いている。
「そうだったのか。シラクモは俺でよかったのか?」
激しく頷いてくれる。
「そうか・・・。ありがとう、シラクモ。これからもずっと一緒だ。」
シラクモを捕まえて、抱きしめる。
「サクラさんの生きていた頃は、一般的に血の契約が行われていたのかしら?」
「まだ、そこまではわかりません。でも、これだけの本があるんです。もしかしたら、書かれているかもしれないですね。」
ルバークの目が輝いているのが分かった。
周りを見渡すが、ロゼがいない。
「ロゼはどこに行きました?上の階ですかね?」
「あら、いつの間に?気がつかなかったわ。」
ルバークも周りを見渡しながらそう言った。
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