第46話 空間魔法
家に帰ってきてからは、今まで通りの生活を送っている。
午前は魔法の練習、午後は体力づくりに励んでいる。
体力づくりといっても、最近は筋トレだけでなく森の中を走り回っている。
マザーの呼び出しを受けたルバークの手伝いにも行った。
大きな出来事もなく、淡々と日々を過ごしている。
幸せであるのは間違いない。
ただ、何か刺激のようなものが足りない気がする。
ロゼと一緒に、家の前に畑を作った。
小さなものだが、ロゼは毎日楽しそうにお世話をしている。
植えたのはヴィドからもらったじゃが芋だ。
アイテムボックスの外でいくつか芋を放置して、芽が出たものを四等分に切って植えただけである。
こんな方法でちゃんと育つかはわからないが、今のところ順調に成長している。
成長を目の当たりにすると、段々と愛着も湧いてくる。
気がつけば、俺もお世話を楽しんでいた。
「毎日、偉いわね。」
そう言うルバークはというと、毎日魔道具の研究で部屋に引き籠っている。
久しぶりに家から出たのではないだろうか。
そう思うほどに、引き籠っている。
食事の時間になると、出てくるのでロゼに叱られることは無かった。
「ルバークさんだって、変わらないですよ。」
俺がそう言うと、ルバークは笑った。
「フフフ、それもそうね。お茶でも飲まない?」
気温もだいぶ暖かくなり、あちこちに花がきれいに咲いている。
もう少ししたら収穫できる実がでてくるらしい。
そんな日々を過ごしている。
だが、ふとした瞬間についつい思ってしまう。
サンテネラは楽しかったなぁ、と。
一瞬で行けたらいいのに・・・。
・・・そうだ、魔法があるじゃないか!!
ワープとか瞬間移動は定番じゃないか!
久しぶりにルバークを誘い出し、魔法の練習をする。
魔道具から引き離すのは大変だったが、ステータスの確認を餌に呼び出した。
「今日はどうしたの?」
ルバークは少し疲れているように見える。
「魔法を移動に使えたりしないですか?例えば、ここからロデオのところに一瞬で行ける、みたいな。」
俺の想像する魔法がどんなものかを説明する。
「聞いたことないわね。わたしは知らないわ・・・でも、面白そうね!」
目を輝かせて、俺を見つめる。
ロゼも初めのうちは聞いていたが、難しい話と思ったのか、向こうの方でシラクモと魔法の練習をしている。
「あっ、熱中する前に、まずはステータスの確認よ。これにお願いね。」
ルバークは羊皮紙とペンを用意し、俺に差し出す。
魔法の練習のためにちゃっちゃと書き出し、終わらせることにする。
【名前】 ダイク
【称号】 転生者
【職業】 冒険者
【位階】 10
【体力】 300/300
【魔力】 -
【従魔】 シラクモ
【スキル】 火魔法 風魔法 水魔法 土魔法 光魔法 無属性魔法
【固有スキル】 アイテムボックス 鑑定
職業に冒険者が追加されている。
レベルが4上がった。体力が100増えている。
【名前】 ロゼ
【称号】 -
【職業】 勇者候補生 冒険者
【位階】 12
【体力】 420/420
【魔力】 60/170
【スキル】 火魔法 無属性魔法
【固有スキル】 成長加速
職業に冒険者が追加されている。
レベルが6上がった。体力が150、魔力が50増えている。
【名前】 ルバーク
【称号】 鬼蜘蛛の森の守護者
【職業】 魔道具士
【位階】 38
【体力】 420/420
【魔力】 1550/1550
【スキル】 火魔法 風魔法 水魔法 土魔法 無属性魔法
レベルが2上がった。体力が20、魔力が50増えている。
【名前】 シラクモ
【種族】 鬼蜘蛛
【位階】 30
【体力】 550/550
【魔力】 420/500
【スキル】 風魔法 土魔法
【固有スキル】 回復魔法
レベルが1上がった。体力が50増えている。
「こんな感じですね。」
ルバークに書き出した羊皮紙とペンを手渡す。
「ありがとう。後でじっくり見させてもらうわ!」
素早い動作でマジックバックに仕舞っている。
今見ると、練習そっちのけで研究したくなるからだろう。
「じゃあ、始めましょうか。でも、どうやって移動するのかしら?」
ルバークは早速、頭を傾げている。
「そうですね・・・。俺の感覚だと、魔法はイメージが大事ですよね。移動した先の場所をイメージしてみるのはどうですか?」
「そうね、まぁやってみましょうか。まずはダイク君からどうぞ。」
俺は頷いて、目を閉じてイメージを膨らませる。
ロデオの小屋の前を鮮明に思い浮かべる。
目を開けようとしたその時、離れたところからルバークの声が聞こえてくる。
「凄いじゃない!今度は戻ってきてちょうだい!!」
目の前には驚いた顔をしているロデオがいた。
こんな簡単に成功してしまった。
ルバークの声に手を振り答え、ルバークの元へとイメージを膨らませると、元の位置へ戻ることができた。
「できましたね。」
「なんでそんなに冷静なのよ!これは凄いことよ!そんな移動方法考えたこともなかったわ!」
ルバークは興奮しながら、俺の肩を掴んで揺らす。
「ルバークさんも、やってみるといいですよ。今度は俺が見てますから。」
ルバークの興奮する姿を見て、逆に冷静になってしまう。
ルバークは唸りながら魔法を発動させようと頑張っている。
しかし、その場からいなくなることは無かった。
「ロゼ君、シラクモ君もこっちに来て~!」
ロゼとシラクモにも俺が魔法で移動する姿を見せてから、それぞれ試してもらった。
だが、ロゼとシラクモもルバークと同様の結果だった。
「ルバークさん、もういい?」
ロゼがそう聞くと、ルバークは頷いた。
シラクモを連れて戻っていった。
最近、ロゼは俺たちに内緒で、何かの魔法を頑張っている。
ロゼに聞いても教えてくれないが、頑張っているところを邪魔するのも悪い。
シラクモもついているし、危険はないと判断して放置している。
「次はどうしましょっか?」
ブツブツと自分の世界に入り込んでいるルバークに声をかける。
「ん~、そうねぇ。あとはどこまで行けるのかよね。」
何となく自分を鑑定してみると、空間魔法が追加されていた。
だが、ルバークには伝えない。
伝えるとするならば、この実験のあとだ。
「鬼蜘蛛の森の外はどうですかね?一瞬で行けるなら、すごく便利ですよ!」
「そうねぇ、便利でしょうけれど・・・。」
「大丈夫ですよ。危ないと判断すれば、すぐに止めますから。」
「約束よ。で、どこに行こうとしているのかしら?」
「ヴィドさんの村か、サンテネラですかね。すぐにイメージできるのは。」
「そう・・・、じゃあ、ヴィド君の村にしておきなさい。本当ならもっと近くで試したいけど、その目じゃ言っても無駄よね。」
どんな目をしているのかは自分では分からないが、正直楽しみだ。
好きな時に好きな場所へ行ける魔法が、目の前にあるのだ。
掴まない手はない。
「じゃあ、行ってきます!すぐに戻りますので!」
目を閉じて、ヴィドの村・・・そうだな、村長の馬小屋なら目立たないだろう。
イメージをどんどん固めて、鮮明に思い描く。
発動した感覚はなんとなく感じ取れた。
しかし、途中で何かに弾かれた感覚も同時にした。
目を開けると、暗闇だった。
手足や体は動かすことができる。
失敗してどこかに埋まっているという訳ではなさそうだ。
光の玉を浮かべると、円形の空間に立っていた。
直径五メートルほどの空間で、壁際には棚が並び、本で埋め尽くされている。
中央には螺旋階段がそびえ立っている。
ここはどこなんだ?
ルバークの元に戻ろうとしても、魔法は発動しなかった。
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