第45話 帰り道
宿で最後の朝食をいただくと、ルバークが会計をした。
宿泊費と料理代で金貨十枚だった。
決して安い金額ではないが、それくらいの価値のある滞在だった。
「ルバークちゃん、二人も気をつけて帰るんだよ。なんかあったらまた来なね。」
宿のおばさんは目元を拭いながら、寂しそうな顔をしている。
「やだ、おばちゃん。今回もありがとう。食事も美味しかったわ。」
ルバークもつられて目元を拭っている。
「ありがとうございました!また来ます!」
「ありがとう!おばちゃん。」
俺とロゼはお礼を言って、先に宿の外へと出た。
ルバークとおばさんの関係は計り知れないが、いい別れであってほしい。
宿の外には、ロデオがすでに待ってくれていた。
「お待ちしておりました。」
宿の人はロデオの手綱を俺に渡すと、どこかへと戻っていった。
数日しか経っていないのに、久しぶりに会った気がする。
相変わらずルバークしか目に入らないのか、俺たちのことは一瞥もくれない。
ロゼは数日ぶりのロデオに興奮している。
ちゃんと世話がされていたようで、毛艶がいい。
「ロデオ、ちゃんといい子にしてたかしら?」
ルバークが背後からロデオに声をかける。
ロデオは嘶き、まるでルバークの問いかけに答えているようだった。
「お待たせ、乗ってちょうだい。出発するわよ!」
ルバークは明るい声と笑顔をしている。
「「はい!」」
俺たちも明るく答えて、荷車へと乗り込んだ。
荷車に載っていた木箱は、売ったのでなくなり、ゆったりとロゼと並んで座った。
しかし、ロデオが動き出すと早々に、俺の膝の上に居座った。
ローブを脱いで隣に置いて、シラクモを撫でてやる。
「シラクモは疲れてないか?ほとんどローブの中だったろ?」
シラクモは体を横に振り、猫のように体を俺の手に擦り付けてくる。
従魔登録はしたものの、街の人の反応は冷たかった。
分からなくもないが、やっぱり少し悲しい。
シラクモも理解してか、人がいるところではフードの中で過ごしていた。
これからはのびのびと過ごせるだろう。
荷車に乗っていると、門まではあっという間だ。
街に入る時には門番に止められたが、出る際には何もなかった。
顔なじみの兵士もいなかったが、俺とロゼは兵士に手を振って街を後にする。
厳しい顔をしていた兵士たちも、顔を緩めて手を振り返してくれた。
まだ朝だが、門には列を作って人や馬車が並んでいる。
流れに逆らう様に、ロデオは街道を進んでいく。
行きは長く感じたが、帰りはあっという間だ。
冒険者の話や薬屋の話に花を咲かせていると、気がつけば分帰路に辿り着いた。
当然、ヴィドたちの村に寄っていく。
ルバークはロデオを操り、分帰路をゆっくりと曲がった。
「もう少しでヴィドたちの村に着くわよ!」
ルバークがわざわざ言ってくれるが、俺とロゼももちろん分かっている。
ロゼなんか俺の膝を離れて、御者台のルバークの後ろから身を乗り出して前を見ている。
「あっ、あれヴィドさんじゃない?」
ロゼがそう言うので、前方を見るが俺にはまだ見えない。
「どこ?」とやり取りをしているうちに、畑と人影が見えてくる。
「おぉ、ルバークじゃないか?どうした、忘れ物か?」
畑仕事をしていたアルが問う。
ヴィドは作業を中断して、俺たちに手を挙げてくれた。
「忘れ物と言えば忘れ物ね。鬼蜘蛛の森を出るときに倒したウルフ、渡すのを忘れたじゃない。わたしもすっかり忘れてて、サンテネラで売っちゃったのよ。」
「別にいいぜ!俺たちはオークをもらったしな。」
「そういう訳にはいかないわ。代わりに小麦粉と塩を買ってきたわ。どこに置けばいいかしら?」
「そうか。わざわざすまないな。」
ヴィドも会話に参加しだした。
「まぁ、貰えるものはありがたくいただくぜ!」
「どこに置けばいいかしら?」
「ルーナの家に。」
「わかったわ。作業中に悪かったわね。ルーナちゃんの家に置いていくわ!」
ロデオが村に向かって走り出すと、ロゼが荷車から飛び下りる。
「ボクもはたけして待ってるよ!」
そう言って、畑仕事の輪の中に入っていった。
「ダイク君はいいの?」
ルバークがにやけながら聞いてくる。
「いいんです。アイテムボックスにウルフも入ってるんで、置いていきたいですし。」
シラクモもついていくかと思ったが、変わらずに隣で大人しくしている。
ルバークもそれ以上は、何も言わなかった。
シラクモを撫でて寂しさを紛らわせつつ、ルーナの家に着くのを待った。
「ダイク君、お願い。」
ルーナの家の前に着くと、ルバークはそう言った。
俺は頷くと、荷車を下りて家のドアをノックする。
しばらく待つと、ルーナが出てくる。
「あら、ルバークさんとダイク君じゃない。忘れ物?」
アルと同じようなことを言う。
「違うんです、ルーナさん・・・。」
アルとヴィドにした説明をして、小麦粉と塩、ウルフを渡す。
もちろん、小麦粉と塩は俺が家の中まで運んだ。
「こんなに・・・ありがとうございます!」
「いいのよ。美味しく食べてね!」
俺が荷車に乗り込むと、ロデオが動き出す。
村に残っていた人は、俺たちを見つけると手を振ってくれたり、頭を下げてくれたりしてくれた。
俺たちも手を振り返し、ロゼの元へと戻る。
一生懸命に開墾作業をしているロゼが目に映る。
「ロゼ君も成長しているわね・・・。」
ルバークが独り言のようにつぶやいた。
「ダイク兄、みて!」
ロゼは鍬を振って畑を耕している。
俺自身もロゼの成長を実感している。
「ロゼ君、楽しそうなところ悪いけど、もう行くわよ!」
ルバークがそう言うと、鍬をアルに預けて荷車に乗ろうとする。
俺も手を引っ張るが、ヴィドが持ち上げてくれてロゼは荷車に乗り込んだ。
「ありがとう、ヴィドさん!」
ロゼが笑顔でお礼を言うと、ヴィドは軽く手を挙げてくれる。
「アルさん、ヴィドさん。荷物はルーナさんに渡しました。あとはお願いします!」
俺がそう言うと、荷車が動き出す。
「ありがとよ!ルバーク、ダイク、ロゼー!」
アルとヴィド、開墾作業中の村の人たちが手を振ってくれる。
ルバークは後ろ手に、俺たちは荷車から身を乗り出し手を振り返した。
村を出てからは、ロゼの畑の話が止まらない。
家に帰ったら、畑をしてみるのもいいかもしれない。
ヴィドたちからもらった、じゃが芋ならば栽培できるかもと思った。
そんなことを考えていると、ロゼのほっぺが膨らんでこっちを睨んでいる。
「ごめんごめん。ちょっと考え事してたんだ。」
ロゼのほっぺを包み込むように潰しながら言う。
「も~、ダイク兄、ちゃんと聞いててよね!」
そんなくだらない話をしていると、鬼蜘蛛の森が見えてくる。
ウルフが襲ってくるかと思ったが、それは無かった。
俺たちを見つけると、逃げていくのだ。
まぁ、無駄な殺生をせずにすむのはありがたい。
マザーの縄張りに入るまで、襲われることはなかった。
「はぁ~、疲れたわね~。」
ルバークが体を伸ばしながら、御者台を下りる。
俺とロゼも荷車を下りて、ロデオを馬小屋に誘導し、餌と水を補充する。
荷車は一旦アイテムボックスに入れ、馬小屋の陰に再び出す。
「お疲れさまでした。少し休んで、お風呂に入りませんか?」
久しぶりにお風呂に入って、疲れと汚れを落としたかった。
毎日、魔法できれいにはしていたが、風呂に入った方がさっぱりとするのだ。
「いいわね。あそこでお茶にしましょう。」
ルバークは東屋へと向かう。
俺たちもルバークに続き、東屋で一息ついた。
ルバークの淹れてくれるお茶がいつにも増して、体に染み込む。
ロゼとルバークも、顔が緩んでしまっている。
ゆっくりと休んで、お風呂に入ることになった。
俺がお風呂の準備をして、服を脱ぐとルバークが裸で隣に並ぶ。
「ダイク君、大きくなったわね。」
出会った当時はルバークの肩くらいまでしかなかったが、今ではルバークの目線の高さと同じくらいになっていた。
「本当ですね!毎日一緒にいるから気づきませんでした。」
「早くはいろうよ!」
ロゼに促され、お風呂に足からゆっくりと浸かっていく。
「「「はぁ~」」」
声が出るくらいに気持ちがよかった。
ロゼは相変わらず俺の上に乗っている。
お風呂から見える空はまだ夕暮れ前だが、いつもより一層きれいに見えた。
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