第44話 サンテネラ最終日
ハニービーを追っていると、ところどころでウルフに出くわした。
隠れながら、魔獣たちの様子を伺う。
ハニービーはウルフを気にすることなく、フラフラと飛んでいく。
ウルフも飛んでいるからなのか、興味を示すことはなかった。
ハニービーが離れていくのを見送って、ウルフを気づかれないように処理していく。
ウルフの亡骸をアイテムボックスに入れて、急いで後を追った。
ハニービーは大きな木の前で突然、止まった。
茂みに隠れて、様子を伺うことにする。
羽の音が一層大きくなり、森の中に響いた。
すると、大木の洞からハニービーが十匹ほど出てきて群がっている。
この大木が巣で間違いなさそうだ。
ロゼと目を合わせ、今からの流れを簡単に地面に書いた。
伝わったのか、ロゼは頷いてくれる。
初手は俺の魔法だ。
ルバークを真似て、群れたハニービーの上空に鳥かごを作って、勢いよく落とす。
三匹がひらりと鳥かごを躱すが、他は捕獲することができた。
「よし、行くぞ!それぞれ一匹ずつな!」
そう言って茂みを飛び出し、ハニービーに向けて風の刃を放つ。
しかし、ふわりと風に乗るように躱されてしまった。
尾っぽの針をこちらに向けて、刺そうとしてくる。
しかし、スピード自体遅いので、難なく避けることができた。
次は、水の玉を飛ばしてみる。
ハニービーの目の前で水が膜のようにバッと広がり、包み込む。
まるで、水でできた風船が浮いているようだ。
水膜の中で、ハニービーは外に出ようと暴れている。
水膜を狭めていき、顔の付近で水の玉に戻し固定してみる。
ハニービーは呼吸ができなくなり、動くのを止めた。
ロゼの方を見ると、すでに終わっていて胴体から真っ二つにしていた。
シラクモは糸で捕まえたみたいで、蜂はまだ生きている。
どうするのか見ていると、シラクモがハニービーの頭を撫でたかと思えば、頭が体から離れて転がった。
鳥かごの中のハニービーたちは威嚇をしているのか、羽音がうるさい。
「ロゼ、シラクモ。この中の蜂たちはお願いしていいかな?」
ロゼとシラクモにお願いすると、「うん、まかせといて!」と返ってくる。
シラクモも前足をあげて、鳥かごへと向かっていく。
俺は、蜂蜜の確保だ。
この大木の中に、蜂の巣があるのは間違いないだろう。
だが、今から探して採取するには時間がかかってしまう。
大木をまるごと持って帰ることにする。
土魔法を使って、根っこ付近の土をほぐしていく。
倒したい方向の土を少しずつなくしていくと、大木はあっけなく倒れた。
大きな音を立ててしまったが、魔獣が近づいてくる気配はない。
大木をアイテムボックスに収納すると作業は終わりだ。
大木の跡地には、ぽっかりと大きな穴が残った。
「ダイク兄、終わったよ。」
ロゼの声に振り向くと、止めだけでなく、針の回収まで終わっていた。
ハニービーの亡骸はこのままじゃよくないだろう。
大木が生えていた場所に埋めることにする。
「蜂をこの穴に埋めるよ。ロゼとシラクモも手伝って!」
「うん、わかった!」
鳥かごを消し去り、亡骸を穴へと落としていく。
ハニービーは利用部位が無く、売ることができないのだ。
毒を持っているので、食べることもできないらしい。
受付のお姉さんは燃やすか埋めるかしてと、説明してくれていた。
穴に全てを落とすと、魔法で埋めなおした。
人間の都合で駆除されるハニービーに、心の中で詫びた。
ウルフやオークには感じたことのない感情だった。
「ダイク兄、もういこうよ!」
ロゼに促され、その場を離れて森の中を走った。
結局、毒消しの出番は無かった。
アイテムボックスに入れておけば、いつでも使うことができる。
もしものために、薬を買うのもいいかもしれない。
そんなことを考えていると、いつの間にか森を出ていた。
まだ、お昼にもなってないだろう。
「冒険者ギルドに報告に行って、屋台でお昼にしよっか。」
先を歩くロゼに後ろから告げる。
「いいね、くしやき食べたいな!いそごう!」
手を繋いで冒険者ギルドへと走る。
「お疲れさまでした。こちらが報酬です。」
十二体分の針が金貨一枚と銀貨二枚になった。
一針あたり、銀貨一枚となかなかに稼ぐことができた。
「ありがとうございます!薬をいくつか欲しいんですけど、どんな薬がありますか?」
受付のお姉さんに聞くと、ギルドに薬を卸している店を教えてくれた。
「こちらのお店でしたら、様々な薬を扱ってます。一度、見てみるのもいいのではないでしょうか。」
「ありがとうございます。行ってみます!」
「ます!」
お姉さんにお礼を言って、ギルドを出た。
「おなかすいたね。早くいちばにいこう!」
ロゼはお腹を押さえながら、そう言った。
「俺もお腹すいたなぁ。何食べようか?やっぱり串焼き?」
そんな話をしながら、市場へと向かう。
市場を回りながら、美味しそうなものを探すが、結局は串焼きになった。
ハーブの香りが食欲を誘うのだ。
店主のおじさんはいなかった。
「おじさんはこの前、つかまっちゃたもんね。」
ロゼが突然そんなことを言い出す。
「おじさんって誰のこと?」
「くしやきやのおじさんだよ。はじめてかったときにいたおじさん。」
「いつ捕まったの?」
「こないだの夜に、ダイク兄たちがたおして兵士さんにつかまったじゃん!」
「えっ・・・。」
どうしてわかったんだろう?
侵入者たちは、仮面を被ってローブを羽織っていた。
今、店主のおじさんを思い出そうとしても、ぼやけた姿くらいしか浮かばない。
そのくらい特徴のある人ではなかった。
「なんでおじさんだって分かったの?」
ロゼに聞くが「何となくだよ!」と答えが返ってきた。
何となく・・・怪しげではあったが、何となく・・・か。
「そうか、わかった。ロゼは凄いな。」
とりあえず、ロゼを褒めて心を落ち着かせた。
今は、サンテネラ最終日を楽しむんだ。
おじさんのことは忘れよう。
ロゼと手を繋いで、受付のお姉さんに教えてもらった薬屋へと向かう。
市場の路地を一本抜けた先にある店で、独特の雰囲気を放っており、すぐに見つかった。
店の中は薄暗く、さまざまな瓶が棚に並んでいる。
店の奥には店主であろうか、ローブを被った魔女のようなお婆さんがいた。
「おチビさんたち、何が欲しいんだい?」
「ん~、そうですね。一般的に使われる薬が欲しいんですけど、どんなものがありますか?」
「ほぅ、一般的ねぇ。これとこれと・・・。」
お婆さんは次々とカウンターに瓶を置く。
「こいつが熱消し。毒消し。麻痺消し。傷消し。腹痛消し・・・。」
どんどんと説明してくれるが、覚えきれない。
鑑定で見てみると、説明してくれた効果はありそうだ。
「ありがとうございます。一ついくらですか?」
「そうだねぇ。熱消しが金貨一枚、それ以外は銅貨三枚でどうだい?」
「えっ、金貨ですか?」
「そうだよ。こいつは錠剤なんだ。五十回は使えるからこれでも安いよ。」
確かに、一粒当たり銅貨二枚か・・・安いのかな。
「では、熱消しを一本と、麻痺と傷と腹痛を十本お願いします。」
「毒消しはいいのかい?」
「はい。冒険者ギルドで買ったので、大丈夫です。」
「そうかい。金貨一枚と銀貨九枚だよ。」
鞄からお金を取り出し、お婆さんに手渡す。
お婆さんはお金を数え終わると、商品を麻袋に入れてくれた。
「ありがとよ。袋はサービスだよ。」
「ありがとうございます!」
「ありがとう!」
後ろに隠れていたロゼも、お礼を言った。
店の外に出ると、空気が澄んでいる気がした。
店の中は雰囲気もあるが、窓のカーテンが閉められていて少し息苦しかった。
それからは、市場をもう一回りしてから宿に戻った。
あまりに美味しかったので、串焼きを五十本ほど買い込んだりもした。
もちろんアイテムボックスに入れて、少しずつ鬼蜘蛛の森で食べるために。
冒険者ギルドの面々に挨拶はしなかった。
されても迷惑かなとの思いもあったが、また来るからだ。
決まっているわけではないが、また来たいと思える街だった。
願望ではあるが、お願いすればルバークはいつでも連れてきてくれるだろう。
街灯に暖かみのある光が灯るころ、宿に到着してサンテネラの滞在は終わりを迎えた。
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