第42話 ストレス発散
「以上となります。ご協力いただき、感謝します。」
兵士が丁寧に頭を下げてお礼を言ってくる。
俺たちが最後で、野次馬も宿の客もすでにいない。
「お疲れさまでした。」
ルバークは疲れた笑みを浮かべて、兵士を労う。
「おばちゃん、わたしたちの部屋の状況はもう見たかしら?」
カウンターに向かって声をかけると、奥の方から声が返ってくる。
「まだ見てないよ。あたしも行くわ!」
宿屋のおばさんを引き連れて、部屋へと戻る。
「何なんだい、こりゃ・・・。扉も窓もボロボロじゃないかい!?」
おばさんは部屋の惨状に愕然とし、嘆いている。
「あいつ等から修理代をたんまりと貰えばいいわ。おばちゃん、別の部屋って・・・空いているかしら?」
「ごめんよ。今は満室なんだよ。幸い奥の部屋だし、ルバークちゃんの魔法で一時的にどうにかなんないかい?」
おばさんは申し訳なさそうにルバークの手を握り、頼みこむ。
「そう・・・わかったわ。今は休みたいし、それしかないわね。おばちゃんもお疲れ様。」
「すまないね、ルバークちゃんたちもゆっくり休むんだよ。ごはんは昼でいいかい?」
「ええ、そうしてくれると嬉しいわ。ありがとう。」
おばさんは俺たちの頭をポンと叩いて部屋を出ていった。
部屋のガラス片や土魔法の残骸はきれいに片付けられている。
兵士が掃除してくれたのかもしれない。
「ロゼ君、部屋全体に浄化をお願いできる?」
半分寝かけているロゼの反応が悪い。
「俺がしますよ。」
そう言って、部屋全体に浄化をかけてきれいにする。
ルバークは壊れた窓とドアを土魔法で塞いでいた。
「さぁ、もう少し休みましょう。限界だわ。」
ルバークがベッドにダイブすると、すぐに寝息が聞こえてくる。
ロゼも立ったまま寝ているようなものだった。
抱えてベッドに寝かせてやると目が開く。
「ダイク兄も・・・はや・・・くねよ・・・う。」
寝ぼけながらも俺の心配をしているようだ。
「シラクモ、出ておいで。一緒に寝よう。」
フードから姿を見せると、枕元に蹲る。
俺もベッドに入ると、すぐに夢の世界へと旅立った。
階下の食堂の騒がしさで目を覚ます。
美味しそうな臭いが部屋にも漂っている。
「お腹すいたわね。」
ぼそりとルバークがつぶやいた。
「起きてたんですね。おはようございます。」
挨拶を交わしているうちに、ロゼも目を覚ました。
「おはよう。おなかすいたね、ダイク兄。」
みんな空腹に耐えきれず、起きたみたいだ。
「顔を洗って、ご飯に行きましょうか。」
ルバークは笑いながらそう言った。
昼時で酒場は混み合っていた。
「おはよう!休めたかい?」
おばさんはテキパキと元気に働いている。
テーブル席は満席で、カウンターに座ることにした。
ロゼのお腹の音が聞こえたと思えば、俺のお腹も音を立てる。
「待たせたね!お腹減っただろ。いっぱいお食べよ!」
出された食事をペロリと食べきり、混雑している宿を出た。
「今日も美味しかったですね。料理はここでも買ってるんですか?」
先を歩くルバークに聞いてみる。
「よくわかったわね。美味しいから、お願いして沢山作ってもらっているの。もちろん、ちゃんとお金を払ってね!」
食べなれた味の正体が判明した。
ルバークのマジックバックから出てくる料理だったからか。
「これからなにするの?」
ロゼが問うと、ルバークは立ち止まる。
俺たちの方に振り返り、怪しげな笑みを浮かべている。
「フフフ、買い物に行くわよ!こういう色々あったときはパーッと買いたいものを買う。これに限るわ!」
ルバークの目が輝いている。
「金額なんて、気にしなくていいわ。欲しいものを買う。それだけよ。」
ルバークの変なテンションに付き合いながら、市場へと向かった。
食材、衣服、武器、工具と様々なものを買い込んでいる。
「すごいかうね、ダイク兄。」
ロゼが心配そうな顔で俺を見てくる。
「色々あって疲れてるんだよ。ルバークさんの好きにさせてあげよう。」
そんな会話をルバークに聞こえないくらいの声量で交わす。
ルバークは本当に金額を聞きもせずに、買い物を楽しんでいる。
一体、いくら持っているんだと疑いたくなるほどだ。
食材については口を出すが、衣服については着せ替え人形に徹した。
市場だけでなく、ギルドや宿のある通りでも買い物は続いた。
日が沈みかけるまで買い物はずっと続いた。
「はぁ~、大満足!二人とも、付き合ってくれてありがとうね。」
ルバークは満足そうな笑みを浮かべて、足取りも軽い。
「ルバークさんが幸せそうでよかったです。満足ついでに冒険者ギルドに行きませんか?」
「あら、すっかり忘れてたわ。オークの清算があるんだったわね。」
ロゼは冒険者ギルドの名前を聞くと、目を輝かせた。
俺とルバークの手を引っ張り、冒険者ギルドへと向かう。
「おう、待ってたぜ!」
解体部屋を覗くと、リンデンがカウンターで待ち受けていた。
「これがオークの残りとウルフの買取金だ。詳細はこいつを見てくれ。」
カウンターに袋と羊皮紙を載せた。
「確認するから、待っててちょうだい。」
ルバークは袋の中身を確認しだす。
「聞いたぜ、お前たち。大変だったみたいだな。」
ガハハと笑いながら、他人事みたいに言ってくる。
「本当に大変でしたよ。夜中に襲われて、朝まで事情聴取ですからね。」
「ねむくてたいへんだったよね。」
ロゼは少しずれた回答をしているが、大変だったことに変わりはない。
「お疲れさん。ギルドのカウンターに行ってみな。いいことあるぜ!」
リンデンは行って来いと手で合図している。
「ルバークさん、ギルドのカウンターに行ってますね。」
硬貨を数えているルバークに声をかけていく。
「わかったわ。行ってらっしゃい。」
ギルドのカウンターにはいつものお姉さんはいなかった。
「すいません。リンデンさんにカウンターに行けって言われたんですけど・・・。」
カウンターで暇そうにしているおじさんに声をかける。
「タグを出してくれ。」
面倒臭そうだが、対応してくれる。
タグを出すと、魔石の上に置いて何かを確認している。
「お前たち、宿で襲撃を受けて返り討ちにしたんだな。褒賞金が出てるぞ。よかったな。ちょっと待っててくれ。」
おじさんはカウンターの奥の部屋に入っていく。
「ほうしょうきんってなに?」
ロゼは頭を傾げながら聞いてくる。
「ん~、悪い人を捕まえてくれてありがとうっていうお礼のお金かな。」
「ふ~ん。」とあまり興味はなさそうだ。
そんな話をしていると、おじさんが戻ってくる。
「これが、褒賞金だ。持って帰ってくれ。以上。」
目の前には金貨五枚が置かれている。
「ありがとうございます。」
「ございます!」
金貨をもらって、ルバークの元に戻る。
「あら、もう済んだの?わたしも終わったから、宿に帰りましょうか。」
ちょうどルバークの確認も終わったようで、リンデンにお礼を言い、宿へと戻った。
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