第38話 市場と試験
シラクモはフードの中にいる。
従魔登録をしたが、シラクモ自らフードの中へと入っていった。
市場は門から繋がる大通りをはさんで、反対側の裏通りにあった。
所狭しと露店が並んでいる。
食材だけでなく、料理も売っているので食べ歩きをしている人もいた。
「うわぁ~、向こうまでずっとおみせなの?」
ロゼが言う通り、かなりの数の店が軒を連ねている。
「ダイク君、予算は気にしないでいいわ。欲しいものを買ってね。ロゼ君も食べたいものがあったら言ってね。」
気にしなくていいと言われても、物の相場がよく分からない。
まずは見てみないことには始まらない。
「ありがとうございます。見て欲しいものがあれば相談しますね!」
そう言って、市場の中へと入っていく。
様々な野菜やお肉、ソーセージなどの加工食品が並んでいる。
「ぼくたち、お遣いかい?」
「うちは安いよ~!」
店主たちが声をかけてきて、市場は活気にあふれている。
ガヤガヤした中、店を見ていくといい匂いが漂ってくる。
「ルバークさん、あれたべたい!」
ロゼも臭いにつられて、食べたくなったようだ。
「いいわよ。おじさん、それを四本ちょうだい。」
銅貨と引き換えに、串焼きを四本受け取っている。
ルバークが買ってくれた串焼きを露店の陰で食べる。
ハーブの香りが鼻を抜け、美味しかった。
鑑定してみると、角兎の肉を串に刺して焼いているみたいだ。
シラクモも、フードから顔を出し、串焼きを頬張っている。
「おっ、お兄ちゃん、そいつはお兄ちゃんの従魔なんだよな?」
シラクモの方を見ながら、串焼き屋の店主が言う。
「そうです。さっき従魔登録もしました。」
シラクモを撫でながら、安全であることを示す。
「そうかい、珍しいから気をつけなよ。」
そう言って、店主はどこかへといなくなる。
何だか物騒なことを言われた。
ルバークたちには聞こえてなかったのか、「次は何食べよっか?」と話している。
串焼き屋の露店は、おばさんが引き継いで焼いている。
捕まえてどこかに売る勢力でもいるんだろうか。
シラクモを簡単に捕まえることなんてできないと思うけれど、警戒はしておいて損ではないだろう。
そんな考えが頭の中から消えず、市場を純粋に楽しむことができなかった。
宿に戻り、夕飯を食べて部屋に戻る。
一応、ルバークに伝えてみるが、問題はないが警戒をしようと話はまとまった。
街にいるうちは、シラクモにはフードの中で過ごしてもらうことになった。
翌朝、朝食を食べてからロゼと手を繋いで冒険者ギルドへと向かう。
もちろん、ルバークもシラクモも一緒だ。
朝早くに行けば人も少ないかと思ったが、朝からギルド内は賑わっている。
人を避けながら、一直線に受付へと出向いた。
「おはようございます!冒険者登録の試験を受けに来たんですけど・・・。」
昨日と同じ受付のお姉さんに話しかける。
「おはようございます!お待ちしておりました。登録される、ダイクさんとロゼさん。従魔のシラクモさんは私についてきてください。」
お姉さんは俺たちをカウンター脇の階段に連れていこうとする。
「わたしは、座って待っているわ。二人とも頑張ってね!」
ルバークは席につき、手を振って見送ってくれる。
「頑張ります!」
「いってくるね!」
それぞれに、ルバークの激励に答えた。
階段の前で、お姉さんは笑顔で待ってくれている。
ロゼと急いでお姉さんの元へと走る。
「こちらです。中でお待ちください。」
階段を上ってすぐの部屋に入ると、体育館のような広い空間があった。
壁際には木製の様々な形状の武器が並んでいる。
お姉さんは俺たちを案内し終わると、扉を閉めて戻っていった。
ロゼと武器を見たり、盾の確認をしていると、扉が開く音がする。
背が高い三十代前半くらいの筋肉質な男性が入ってくる。
上半身には黒光りしている鎧を纏い、腰に剣が二本ぶら下げている。
「待たせたね。ダイクとロゼだね。俺はC級冒険者のビクターだ。試験官を務めることになった。よろしく!」
「よろしくお願いします。ダイクです。」
「ロゼです。おねがいします!」
互いに挨拶を交わすと、ビクターは辺りを見回している。
「ダイクの従魔のシラクモってのは、どこにいるんだ?」
フードを軽く開くと、シラクモが頭の上に出てくる。
「へぇ~、鬼蜘蛛だよな?珍しいな。」
ビクターは近づいてきて、シラクモをまじまじと見つめている。
「早くしけんしようよ!」
ロゼが急かすと、ビクターは咳ばらいをして武器を取りに行く。
「オークを倒したらしいが、武器は何を使うんだ?」
壁際にあった木製の剣を振りながら、尋ねてくる。
「俺は魔法と弓で、ロゼは剣をメインに使ってます。」
「じゃあ、まずはダイクからだな。ロゼはこの中から剣を選んで待っててくれ。」
弓と矢を持って、ビクターが近づいてくる。
「いいか、今から向こうに的が出てくるから、それを弓で射てくれ。」
指差された方向を見るが、今は何もない。
ビクターが壁際に移動し、魔石に軽く触ると、的が現れ動き出す。
「こんな感じだ。いいな、試験開始!」
コクリと頷き、弓に集中する。
矢を的に当てるたびに、次々に違う場所に的が現れる。
落ち着いて、一つ一つ狙いを定め、矢を射る。
十個の的に当てると、矢もなくなり的も倒れて見えなくなる。
「そこまで!次は魔法だ。得意な魔法で的を狙ってくれ。行けるか?」
「行けます!」
ビクターが魔石に触ると、再度的が現れる。
風の刃を飛ばすが、弓と違ってあっという間に的は倒れた。
「そこまで!ダイクはそっちで休んでいてくれ。」
何かを羊皮紙に書き込みながら、指示される。
「ダイク兄、どうだった?」
ロゼが暇を持て余しているのか、駆け寄ってくる。
「う~ん、いいのか悪いのか、よく分かんないな。ロゼも頑張れよ!」
頭を撫でながら、そう言った。
壁際に移動し、座ってロゼの試験を眺めていた。
ロゼの試験はビクターとの打ち合いだった。
ロゼは軽く剣を振っているが、ビクターの顔色はどんどんと悪くなっていく。
分が悪いビクターがロゼの足を引っかけて転ばせようとするが、ロゼはあっさりと躱し、ビクターの剣を飛ばして決着となった。
「ここまでだ・・・。次はダイクとシラクモ!ここへ。」
またしても、ビクターは何かを書き込んでいる。
ビクターが指示する場所に立って待つ。
なんだか、満身創痍に見えるが、試験に集中しよう。
「普段、従魔はどう戦っているんだ?」
書き物を終えたビクターが質問してくる。
「そうですね・・・、俺かロゼの頭の上にいて、危なくなると助けてくれますね。」
「そうか。数字は読めるか?この紙の指示通りにシラクモを動かしてほしいんだ。」
渡された羊皮紙を見ると、番号が散りばめられている。
「わかりました。シラクモ、できる?」
羊皮紙の上に跳んで、番号を眺めると前足を高くあげている。
「行っておいで。」
シラクモは番号通りに走り、戻ってくる。
「嘘だろ・・・。指示を出すわけじゃないのか!?」
ビクターはブツブツと独り言を続けている。
「ダイク兄、おわった~?」
座っているのに飽きたロゼが飛びついてくる。
「ビクターさん、試験は続けないんですか?」
ビクターの目の前で手を振って確認する。
「おぉ、悪かったな。これで終わりだ。一緒に下に行くぞ!」
ビクターについていき、カウンターまで戻ってくる。
ルバークは俺たちが見えると、手を振っている。
向かいには厳ついおじさんが座っている。
「お疲れさまでした。試験は問題なかったみたいですね。証明書を発行しますので、座ってお待ちください。」
「そういうことだ。お前たちは合格だ。お疲れさん。」
ビクターとお姉さんはカウンターの奥の部屋に入っていく。
「ありがとうございました!」
「ました!」
こうして、冒険者試験の幕は閉じた。
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