第36話 寄り道
ロデオの牽く荷車は、街道を進んでいる。
荷車の中はヴィドとアルの二人がいないだけで、随分と広く感じる。
ガラガラな感じもして寂しさを感じた。
分帰路に差し掛かったところで、ロデオの足が止まる。
何か問題でもあったのかと、ルバークの方を見やる。
「ダイク君、ロゼ君、もう少し寄り道してもいいかしら?」
すっかり帰るものだと思っていたが、違うらしい。
「いいよ、ルバークさん!」
ロゼは乗り気だ。
「俺も行きます。でも、どこへ行くんですか?」
行き先を尋ねると、ルバークは荷車の空いたスペースに木箱を並べだす。
「これを売って、買い物をしに行きましょう。」
木箱の中を覗き込むと、蜘蛛たちが作っている糸や布が入っていた。
「ヴィド君たちの村で買い物できたらよかったんだけど、まだ冬も明けたばかりで余裕はなさそうなの。これから向かう街は大きいから、色々なものが揃うわよ。例えば、調味料なんかもね!」
調味料か・・・魅力的な響きだ。
ルバークから渡された材料は、食材は豊富だが調味料が圧倒的に足りない。
基本的に塩味がメインになっていた。
この世界の調味料にも興味がある。
「ダイク兄、かおが・・・ププッ、にやけてるよ!」
笑いを堪えながら、ロゼが言う。
「フフフ、ダイク君は料理が好きみたいだし、買い物を楽しみましょう!」
荷車は木箱でいっぱいになり、俺とロゼは木箱の上に座ることになった。
ルバークは御者台に戻り、分帰路を帰り道で無い方向へと進んでいく。
街道をしばらく進むと、チラホラと人の姿が見える。
「あの人たちは、なにしてるの?」
街道を少し外れて何かしている人たちを見ながら、ロゼは尋ねる。
「たぶん、冒険者の人たちよ。街道の整備をしているんだと思うわ。」
冒険者という言葉に、胸が高鳴ったが想像とはちょっと違っている。
「冒険者って、魔獣を倒したりするだけじゃないんですね。」
「そうね。いろいろな仕事があるわ。魔獣討伐も、街道の整備も。普段は農家として作物を作って、空いている時間に街道の整備をしている人もいるんじゃないかしら。」
冒険者の話で盛り上がりつつ、ロデオは進んでいく。
ロデオの進む道が土から石畳に変わると、遠くの方に街が見えてくる。
「ロゼ、危ないから座ってて。」
立ち上がり、はしゃいでいるロゼを落ち着かせて座らせる。
ルバークは、旅中ずっとヘアバンドをしているが、更にフードも被る。
「シラクモはこのままでいいですか?」
俺のフードの中にいるシラクモについて聞く。
「そのままでいいわ。指示があるまで出しちゃだめよ。シラクモ君もお願いね!」
フードの中で、もぞもぞと動いている。
ルバークの言葉を理解したんだろう。
街道を少し外れて、お昼ご飯を食べた。
ここ最近はずっと唐揚げパンだったが、ルバークとロゼは美味しそうに食べている。
美味しいが、さすがに飽きてくる。
贅沢な話ではあるが、別のものを食べたくなってくる。
「二人とも・・・いいかしら?」
ルバークが真剣な顔で、俺たちのことを見ている。
「あなた達を捨てた孤児院の話なんだけど、おそらくあの街の孤児院ではないわ。だから安心してほしいって話なんだけど・・・。」
俺とロゼは話を聞いて、顔を見合わせると少しだけ笑った。
「ルバークさん、気を使わないでください。俺たちはもう気にしてません。ルバークさんがいるので、安心して街にも入れますしね!」
ロゼが激しく頷いて、同意してくれている。
ルバークもホッとした顔で食後のお茶を飲んだ。
ロデオに乗り込み、再び街を目指して出発する。
街に近づくにつれて、馬車や街を目指して歩いている人たちが増えてくる。
「もう少しで着くわよ。」
大きな砦のような街の外壁がそびえ立っている。
「わぁー、おっきいね!」
ロゼの言う通り、すごく高い壁が街を囲う様に向こうまで繋がっている。
街道の先に大きな門があり、人々が並んで入場を待っていた。
ルバークは並んでいる列の最後尾にロデオをつける。
「結構かかりそうね。少し、休憩しましょうか。」
ティーセットを取り出し、お茶を淹れだした。
じわじわと進んではいるが、俺たちの番はまだ先だ。
ルバークの入れてくれるお茶を飲んでいると、ロゼが「トイレに行きたい。」と言い出す。
「わたしは待っているから、ダイク君、向こうの林で済ませてらっしゃい。」
ロゼを連れて、林へと急いだ。
林をかき分け、少し中へと入っていく。
「ここでいいよ、ロゼ。」
魔法で穴を掘って、中にしてもらう。
先が長そうなので、俺も一応済ませておく。
トイレが終わると、魔法できれいにして穴を戻す。
水球を出して、手を洗い、ルバークの元へと戻った。
列に戻ると、ルバークはだいぶ門の近くへと進んでいる。
「お帰りなさい。もう少しでは入れるわよ!」
俺とロゼは荷車には戻らずに、ロデオの脇で待つことにした。
外壁に圧倒されつつも、門の中を覗くと、きれいな街並みが目に映る。
ロゼも目をキラキラさせながら、周囲を見回している。
「次、この街に入る目的はなんだ。」
門番の兵士の威圧的な声で、俺たちの番が訪れる。
「商売よ。積み荷は布と糸。開けて見てもらっても構わないわ。」
ルバークが堂々と兵士と渡り合っている。
兵士は部下に命令を下し、木箱の中身を確認させている。
「問題はありません!」
若い兵士の声が響く。
「問題は無し。三名でいいか?通ってよしっ!」
俺とロゼも荷車に乗り込み、門をくぐっていく。
凱旋門のような重厚感のあるつくりをしている。
門を抜けると、馬車が余裕をもって行き来できるほどの通りがまっすぐに伸びている。
レンガ造りの四階建ての建物がきれいに並んでいる。
「うわぁ、すごいおっきい街だね!」
ロゼも興奮気味にキョロキョロしている。
「これから宿にいくわ。街の探索は明日にしましょう。」
「「はい!」」
ルバークは返事を聞くと、ロデオを進ませる。
行きつけの宿でもあるのか、迷うことなくロデオを操り裏通りへと進んでいく。
裏通りは様々な店が軒を連ねていた。
酒場やら雑貨屋やら様々な店に目を奪われた。
ロデオが止まったと思えば、宿の入り口に止まり、ルバークは宿の中へと入っていってしまった。
「たぶん、宿の空きを確認しに行ったんだよ。」
すこし不安そうなロゼを撫でながらルバークの戻りを待つ。
しばらく待つと、満面の笑みのルバークが戻ってくる。
「今日はここに泊るわ。下りてちょうだい。ロデオと荷車を預けちゃうから。」
荷車を飛び下りると、宿の人がロデオと荷車を引いていく。
ルバークが宿に入っていくので、あとを追う。
宿屋の中は酒場のようなつくりをしていて、何人かは酒を酌み交わしている。
「いらっしゃい!部屋は上だよ。」
恰幅のいいおばさんがルバークに鍵を渡している。
「ありがとう、おばさん!二人とも、行くわよ。」
ルバークは酒場の隅にある階段を上がっていく。
ロゼは俺の手を引いて、階段を上った。
部屋もシンプルにベッドが二つあるだけだった。
「はぁ~、疲れたわね。二人は大丈夫?」
ルバークはベッドに倒れこみながらそう言った。
「俺たちは座ってただけなので、大丈夫です。すいません、ルバークさんにばっかり御者をさせてしまって。」
「ボクも大丈夫だよ!」
ロゼは俺のフードからシラクモを出している。
「シラクモもお疲れ様。」
前足をあげて頷いてくれた。
この日はベッドで休んでいるうちに、いつの間にか寝てしまった。
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