第33話 対オーク
足跡を追って、雑木林まで走った。
走りながら、ルバークにオークの説明をしてもらった。
二足歩行の魔獣で、口には鋭い牙が生えており、武器を扱うことができるらしい。
個体により異なるが、基本は体格が大きくて力が強いみたいだ。
足を攻撃して膝をつかせてから、頭を攻撃するのがセオリーらしい。
雑木林の入り口に着くと、草木に隠れるように内部の様子を伺った。
オークとは、茶色の体毛が生えた猪のような魔物だった。
棍棒を持って、林をうろうろしている。
十体ほど見えるが、村人は見当たらない。
ヴィドとアルは、憤怒して震えている。
今にも中へ、飛び出してしまいそうなくらいに。
「ヴィド君、アル君、落ち着いて、冷静になりなさい。心配なのはわかるけど、助けるために聞いてちょうだい。」
ルバークは小さな声でそう言うと、俺の魔法について話し出す。
「ダイク君は色々な魔法が使えるわ。きっと役に立つはずよ。」
ルバークの一言で、俺の魔法が解禁となった。
ロゼの火魔法は燃え広がるの恐れがあるので、今まで通り禁止だ。
ルバークはどの程度魔法が使えるのか獣人たちに教えているが、アイテムボックスのことは言わなかった。
「それを踏まえて、作戦を立てるわよ。」
ルバークは俺たち一人一人の顔を見回し、作戦を考えているようだった。
「あの・・・いいですか?」
俺が考えた作戦を伝えると、あっさりと了承された。
「二人とも、武器はそれでいいのかしら?」
ヴィドとアルを見ながら、言う。
ヴィドは俺が預けた短剣二本、アルは俺の弓を持っている。
「ロゼと同じくらいの剣はないか?」
ヴィドがぼそりとつぶやく。
「おいらも、矢があれば補充しておきたいな。」
二人の意見を聞き、ルバークはマジックバックからそれぞれに剣と矢を渡す。
「ありがとう、ルバーク。」
アルは頭を下げながら言い、矢を収めた。
ヴィドは短剣をズボンに差し込み、長剣を装着する。
短剣一本は俺に返してくれる。
「ダイク君は武器はそれでいいのかしら?」
受け取った短剣ズボンの後ろに差し、「はい!」と返事をする。
こんなことになるなら、もう少し盾を作っておくんだったな。
自分の盾を見ながら後悔した。
「じゃあ、作戦通りにお願いね。」
そう言って、ルバークとアルが移動を始める。
残ったのは、俺とロゼ、シラクモとヴィドだ。
このメンバーで、雑木林にいるのオークたちの相手をする。
ルバークたちは、村人たちの捜索と救出の役目を負ってくれている。
緊張でミスをしないように、深呼吸をした。
すると、背中に手が添えられているのを感じる。
「大丈夫だ。」とヴィドが声をかけてくれた。
「ダイク兄、ルバークさんたちあいずしてるよ!」
ロゼにそう言われ、ルバークの方を確認すると、合図していた。
「じゃあ、始めます。シラクモは合図するまでフードの中で隠れてて。」
ロゼの手を握って、もう一度深呼吸をする。
バッと立ち上がり、オークたちに向けて俺とロゼで声を出す。
「「おーーーい!」」
オークが俺たちに気がつき、重たい足取りで向かってくる。
ロゼを背中に隠し、オークたちが近づくのを待つ。
「ヴィドさん、いいですか?」
ヴィドが目を伏せたのを確認して、ローブの端で顔を隠し魔法を放つ。
辺りに鋭い閃光が放たれた。
ローブ越しにも眩しさを感じる。
「ブフォォオオー!!」とオークたちの叫び声が聞こえてくる。
光が止んだのを確認して、顔を出す。
オークたちが立ち止まって、声をあげながら手で顔を覆っていた。
「ヴィドさん、ロゼ、シラクモ、行くよ!」
シラクモが頭の上に出てきたのを感じ、オークたちに向かって走り出す。
顔をおさえて棍棒を振り回しているオークもいるが、当たらない距離にまで近づいて次々に魔法を放っていく。
オークは為す術なく、俺の土魔法が作る穴へと落ちていく。
体が半分ほど埋まるくらいに穴を掘っている。
後ろから来る、ヴィドとロゼが止めを刺してくれる。
オークの目が回復するまでに、見える範囲にいたオークを穴に落とすことができた。
シラクモも俺の頭から跳んで、オークを始末してくれている。
ヴィドは怒りを込めて、力尽くで頭に剣を振るっている。
ロゼはオークに近づいて素早く剣を薙いだ。
すると、オークの頭がコロンと転がった。
ロゼの剣の上達があまりにも・・・。
いや、今は止めておこう。
俺も風魔法を使って、オークに止めを刺していく。
オークを倒し終えたころ、「キャーッ!」と悲鳴が聞こえてきた。
ヴィドはそれを聞いて、走り出してしまった。
もしかしたら、ヴィドの妹の声だったのかもしれない。
声がした方を見てみるが、オークの姿は見えない。
あちらにも、俺たちが見えていない可能性がある。
そう考えてヴィドを追わずに、別の方向から回り込むようにロゼとシラクモを連れて、隠れながらも素早く向かった。
声がした辺りに着いて、隠れて状況を見てみるが、困惑した。
ルバークとアルが捕らわれた村人を守りながら、複数体のオークと戦っている。
ヴィドは、黒い毛並みの大きなオークの上位個体と対峙している。
鑑定してみると、ジェネラルオークとなっていた。
そのジェネラルオークは左手に棍棒、右手で女性の髪の毛をつかんでいる。
狐の獣人かはわからないが、獣人の女性だった。
別の方向には農具を持った村人が十数人いて、オークと対峙している。
「ロゼ、まずは髪の毛をつかまれている女性を助けるよ。」
隠れながら、ジェネラルオークの背中側の死角に移動する。
ロゼに作戦を伝えて、覚悟を決めた。
「シラクモ、何かあったときはサポート頼むよ。」
ロゼとシラクモを撫でる。
一発勝負だが、やるしかない。
「行こう!」
ロゼと足音に気をつけながら、ジェネラルオークの背中に向けて走る。
ヴィドは気がついてくれて、今までにない雄叫びをあげる。
ジェネラルオークの背中までもう少しというところで、ロゼがこちらを向いて合図した。
高く飛んだロゼの下に入り込み、踏ん張って盾でロゼの足場となる。
重みを感じると、ジェネラルオークの右腕目掛けて、両手で力いっぱい押し出してやった。
クルクルと回転しながらロゼは、一直線に飛んでいく。
回転しながらも、右腕付近で剣を振っているのを確認する。
ジェネラルオークの悲鳴が、雑木林に響き渡る。
あまりの音量に耳を押さえながら、土魔法を発動させる。
ジェネラルオークの左足の下に、大きな穴が開く。
突然、空いた穴に踏ん張りがきかなくなり、バランスを崩して後ろに倒れてくる。
危うく潰されそうになるが、何とか避けられた。
それと同時に、俺を掠めるように棍棒が飛んでいく。
風圧で少しよろめいたが、何とか堪えた。
「ヴィドさん、女性を!!」
ジェネラルオークの体でヴィドは見えないが、声をかける。
右腕は付け根からなくなっている。
ロゼは上手くやったみたいだ。
俺は、ジェネラルに止めを刺すために、頭部付近へ急ぐ。
立ち上がろうとしているが、右腕がなくなったことで手こずっている。
いつもより強いイメージで、風の刃を飛ばす。
地面を抉りながら、大きな風の刃がジェネラルの首をはねる。
それからはあっという間だった。
ジェネラルを失ったオークたちは、統率が取れなくなり、逃げだそうとする個体もあった。
逃げる個体に魔法を飛ばし、倒す。
ルバークの元へ走ると、ロゼが農具を持つ村人たちに加勢しているのが見えた。
ヴィドは女性を抱えている。
ルバークたちに集っているオークも挟み込んで処理する。
こうして、オークの討伐は完了した。
評価とブックマーク、ありがとうございます!
まだの方は是非、お願いします!
モチベーションになります!




