第28話 からあげ
家の中に戻ると、ルバークの姿はなかった。
「ロゼ、そろそろお昼だから、ルバークさんを呼びに行くよ。」
「ボクも行く!」
俺の手を取り、「早く!」と促す。
階段を上がり、ルバークの部屋の扉をノックする。
しかし、返事も物音もしなかった。
ロゼと顔を見合わせ、扉を開けてみる。
鍵があるわけではないので、ノブを捻るとギィと軋む音を立てて開いていく。
部屋の中にルバークはいなかった。
机の上には、俺が書き出した羊皮紙とペンが置かれたままだ。
ロゼと手分けして、家中を探したが、いなかった。
もしかして、襲撃でもあったのかな?
それとも、マザーからの呼び出しかな?
考えても分からないので、料理でもして待っているか。
「ルバークさんがいないから、さっきのお肉でも焼いて食べようか。焼いているうちに、ルバークさんも帰ってくるかもしれないし。」
「そうだね。ルバークさん、どこいったんだろう・・・。」
寂しそうなロゼを、キッチンまで連れていく。
「ほら、ロゼも手伝って!」
料理で気を紛らわせようと、手伝ってもらうことにした。
二つのフライパンを出してコンロにのせる。
ロゼには、胸肉を焼いてもらうことにした。
アイテムボックスから胸肉を六枚取り出し、両面に塩を軽く振った。
「皮の付いている方から焼いて、パリッと焼けたらひっくり返してね。」
「ボクにまかせてっ!」
ジューっという音とともに、美味しそうな臭いが漂ってくる。
何度も焼き色を確認しながら、焼いてくれるロゼが可愛かった。
俺は唐揚げの下準備をする。
もも肉を取り出して骨を丁寧に包丁で外して一口大に切る。
骨はまとめて、今度、鶏ガラと一緒にスープでも作ろう。
手羽も、手羽先と手羽元に分けるように切った。
切り終えたもも肉と手羽をボールに入れておく。
ニンニクを細かく刻んで、適量の塩と一緒にボールに入れて揉みこむ。
あとはしばらく置いて、小麦粉をつけて揚げるだけだ。
「なんだかいい匂いがするね、ダイク兄!お肉はもうすぐ焼きおわるよ!」
フライパンを見ると、皮目がパリッと美味しそうに焼けている。
「ロゼ、上手に焼けてるよ!出来たらこの皿に入れてね。」
棚から皿を取り出し、コンロの近くに出しておく。
「もう食べる?それとももう少し待ってみる?」
ロゼの反応を待ってみた。
「もうすこし待とうよ。ルバークさんがかえってくるかもしれないしね!」
そう言うので、料理を続行する。
ロゼが焼いてくれた胸肉はアイテムボックスに入れて、温かいまま保存しておく。
「今度は油を使うから、そっちのテーブルでクッキーを作ってくれる?」
冬の間に、ロゼとクッキーを何度も作ったので、もうお手の物だ。
「うん、いいよ。どのくらい作る?」
「残ってる蜂蜜全部使っちゃおうか。もうこれしかないけど・・・。」
そう言って、小麦粉と蜂蜜、ひまわりの種を取り出す。
「わかった。もうこれしかないの・・・。」
「そうだよ。アイテムボックスにまだクッキーは入ってるから、大事に食べような。」
頭を撫でようと思ったが、肉もニンニクも触っているので、浄化を俺とロゼにかけてから、撫でてやった。
キッチンに戻り、調理器具にも魔法をかけてきれいにする。
フライパンに油を入れて、温める。
温めているうちに、肉に小麦粉をまぶした。
まぶし終わるころには、油の温度もちょうどよさそうになっていた。
一つずつ手で油の中に落としていく。
パチパチといい音を立てて、肉たちが油の中を泳いでいる。
ニンニクのいい匂いが部屋に広がっていった。
唐揚げが揚げ終わっても、ルバークは帰ってこない。
もうそろそろロゼが作ってくれたクッキーも焼きあがるころだ。
「ルバークさん、帰ってこないね・・・。」
玄関のドアを見て寂しそうにつぶやいた。
ロゼがまた寂しいモードに入ってしまった。
「もう少しで、クッキー焼けるよ。こっちおいで。」
ロゼはトボトボとオーブンを見にきた。
オーブンを開けると、こんがりと焼けている。
「ほら、うまくできたか味見してみな。」
焼き立てのクッキーをロゼに渡すと、熱々のまま口にした。
「うん、熱いけどうまくできてる。ダイク兄もたべてみて!」
食べかけのクッキーを口元に持ってくるので、そのままパクリと食べた。
うまく焼けているし、味も申し分なかった。
ロゼを褒めていると、シラクモが玄関の方に向かって跳ねた。
ルバークが帰ってきたのかもしれない。
そう思い、ロゼと靴を履いて玄関のドアを開けて、外に出る。
辺りを見回すと、いつものきれいな森が広がっている。
しかし、ルバークの姿は見当たらない。
「シラクモ、ルバークさんがかえってきたんじゃないの?」
ロゼは残念そうに、シラクモに問いかける。
シラクモはロゼの話を聞いていないかのように、湖の一点を見つめている。
俺もその方向を見てみるが、特に何もない。
「シラクモ、ルバークさんか?それとも、何かいるのか!?」
もしかしたら、魔獣でも入り込んできたんだろうか。
シラクモは湖の方に向かって、歩き出す。
警戒しながらついていくと、湖の向こうからルバークの船が見える。
「ロゼ、ルバークさんが帰ってきたよ。」
ロゼは気がつくと、「おーい!」と手を振っている。
近づいてくると、ルバークだけじゃないことに気がついた。
「ダイク君、ロゼ君、遅くなってごめんなさい。緊急だったの。とりあえず家の中に入りましょう。」
そう言って、船を下りてくる。
一緒に乗っていた人たちも下して、船を片付けて足早に家へと向かっていった。
同乗していた人たちも、こちらを見つつ、ルバークに続いていく。
俺はペコリと頭を下げて、ルバークたちを追った。
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