第23話 新年のお祝い
「「ただいま!」」
そう言って、家の中に入るとロゼが浄化をかけてくれる。
「ありがとう」とロゼの頭を撫でて、靴を脱いで短剣や盾などの荷下ろしをする。
短剣や盾は入り口の近くに置いていた。
アイテムボックスに入れてもいいのだが、俺に何かあって取り出せない状況を避けるため、ルバークが置き場のスペースを作ってくれた。
「ダイク兄、何だかいいにおいがするね!」
ロゼの方を見て頷くと、確かにいい匂いがする。
キッチンを見ると、鍋がコンロに並んでいた。
「ルバークさん、料理してたんですか?」
「違うわよ。食材はダイク君のアイテムボックスに移したじゃない。新年のお祝い用に買っておいたものを温めているだけよ。もう少しで焼きあがるから座って待ってて。」
新年のお祝いについてルバークに聞いてみたかったが、大人しく座って待つことにした。
ロゼもすでに席に着いて、疲れを癒していた。
シラクモも定位置を離れて、俺とロゼの間のテーブルに下りていた。
テーブルにはクロスが敷かれ、それぞれにマットとお皿、ナイフとフォークがセットされている。
普段はテーブルセットもなく、パンとスープに肉か煮込みという食事なので、スプーンとフォークさえあれば十分だった。
いつもと違うテーブルの様子に、期待が高まった。
ロゼも目を輝かせてルバークを見ていた。
「そろそろいいかしらね。」
ルバークが開けたオーブンから、トリの丸焼きがいい匂いを漂わせて出てくる。
「うわぁ~、すごいね、ルバークさん。おいしそう!」
ロゼが興奮気味に言う。
俺とロゼはルバークが分けてくれるいつものスープと煮込み料理、パンをテーブルに運んだ。
トリの丸焼きは天板にのせたまま、テーブルの中央に置かれた。
ルバークが丸焼きを真ん中から半分に切ると、中からトマトや刻まれた野菜が煮込まれたソースがドロリと流れ出る。
豪快に切り分け、ソースをかけて配ってくれる。
「じゃあ、食べましょうか。」
そんなルバークの一声で食事が始まる。
「「「いただきます!」」」
ナイフとフォークを持って、トリを一口サイズに切ってソースなしで口に運ぶ。
噛むと繊維がほどけて、口いっぱいにうまみが広がる。
ソースもペロリと舐めてみるとニンニクが効いていて、パンチのある味だった。
合わせて食べると、美味しさが倍増した。
はじめは慣れない食事に戸惑っていたロゼも、俺やルバークの食べ方を見て、真似て食べ始めた。
今では満面の笑顔で美味しそうに食事を楽しんでいた。
シラクモも食事に夢中だ。
「ルバークさん、とても美味しいです。これは何ていうトリなんですか?」
日本で食べていたトリよりもおいしく感じた。
ウルフ肉も美味しいが、日本の豚や牛に比べると劣っていた。
また手に入るならなんとしてもほしい、そう思うほど美味しかった。
「これは・・・何だったかしら?鑑定してみてちょうだい。」
鑑定してみると、ホロホロ鳥の丸焼きとなっていた。
そのことをルバークに伝えると、「そうだったわね。」と笑っていた。
「美味しいので、また食べたいなと思ったんですけど・・・。この鳥はここら辺に生息してないんですか?」
「鬼蜘蛛の森にはいないわね。マザーの縄張りを離れた森の奥に行けばいるかもしれないわね。明日、行ってみる?」
突然、ロゼが立ち上がり、「ボクも行く!」と手を挙げながら言う。
そんな反応に俺もルバークも驚いたが、明日の予定が決まった。
「そういえば、新年のお祝いって何なんですか?」
豪華な食事も終わり、食後のお茶を飲みながらルバークに聞いてみる。
「あら、二人は初めて・・・、そうね。冬が終わったころに新しい年になるでしょ。私たちの年が一つ増えることと、春の訪れを祝うのよ。」
ルバークは俺とロゼの境遇を思い出したのか、若干口ごもりながら答えてくれた。
どうやら、この世界では冬の終わりに年が増えるみたいだ。
「ボクもダイク兄と同じ年になるの?」
「ロゼ君だけじゃなく、ダイク君も年が一つ増えるのよ。だから、ダイク君が六歳。ロゼ君が五歳になったの。私の年は変わらないわ。」
フフフと笑いながらルバークは言った。
ロゼは首をかしげて、よくわからんという顔をしていた。
「ルバークさん、ロゼが混乱するようなことを言わないでください。それとも、ドワーフの血の関係ですか?」
「フフフ、ごめんなさい。私も年を取るわ。新年になるとみんな等しくね。」
これでロゼも少しは分かってくれたと思う。
お茶を啜りながら、「ふ~ん、そうなんだ。」と言っていた。
お茶を飲み終えたころ、ルバークはマジックバックから箱を取り出してテーブルの上に置いた。
何だろうと、俺とロゼは箱を見つめているとルバークが口を開く。
「これは新年のお祝いのプレゼントよ。開けてみてちょうだい。」
そう言って、優しい笑顔で箱をこちらに押し出す。
「ルバークさん、ありがとう!」とロゼはパカッと箱の蓋を外した。
中には魔石の埋め込まれた、木でできた腕輪が入っていた。
ルバークの方を見ると、コクリと頷いていた。
鑑定してみろってことかな、と腕輪をみて驚いた。
偽装の腕輪と表示されたのだ。
「頑張って作ったの。二人とも、着けてみて!」
ルバークに感謝の気持ちを伝えて、遠慮せずにいただくことにする。
ロゼは着け方が分からないのか、手に取っていろんな方向から覗いていた。
俺も手に取り、ロゼに見せながら左腕に装着した。
ロゼも付けてみているが、輪っかが大きいためすぐに外れてしまった。
ルバークがロゼの腕輪を手に取って、魔法で調整すると、ぴったりの大きさになった。
俺の腕輪も同様に調整してくれた。
「これはね、ステータスをごまかしてくれる魔道具よ。」
マジックバックから鑑定の魔道具を取り出すと、ロゼに魔石を触るように言った。
ロゼが魔石を触ると、初めて鑑定の魔道具を使ったころのようなステータスが表示された。
「今は必要がないものだけど、もう少し暖かくなったら一緒に街に行こうと思うの。私の行商のお手伝いでね。その時に、ステータスをごまかすためのものよ。この前も言った通り、鑑定の魔道具が普及しているわけではないから、お守りくらいに思ってくれて構わないわ。それでね・・・。」
鑑定の魔道具でステータスの隠蔽は確認できたが、一応、俺の魔法でもどうか試してほしいとのことだった。
鑑定で見てみると、偽装されておらず、今まで通りのステータスが見えた。
そのことをルバークに伝えると、「まだまだ工夫が足りないわね」と今にでも魔道具をいじりだしそうになっていた。
「ルバークさん、ありがとうございます。これからゆっくり研究していきましょう。今日はゆっくり休んでくださいね。まずはお風呂に入りますよ!」
茶器を片付け、裏庭の露天風呂へ向かう。
魔法がうまく使えるようになってからは、俺がお湯の準備をしていた。
ロゼは浄化をしてくれる。
すこし熱めのお湯を張り、ロゼの魔法を受けてから服を脱いで、体を浸ける。
チクチクとお湯が肌に刺さる感覚はあるが、次第になくなり、体の力が抜けていく。
ルバークも体を湯に浮かべて気持ちよさそうだ。
ロゼは相変わらず、俺の上で湯を満喫していた。
湯船の中で、ルバークがいなかった時の出来事を一生懸命にロゼが話してくれた。
はじめのうちはウンウンと相槌を打ちながら聞いてくれていた。
しばらくすると相槌が聞こえなくなり、ルバークを見ると縁に頭をのせて湯に浮かんで眠っていた。
よっぽど疲れていたのかもしれない。
「ルバークさん、寝ちゃったね。」
「このままじゃ風邪ひいちゃうから、部屋まで連れていくよ。ロゼ、手伝ってね。」
脱ぎ捨ててある服をアイテムボックスに回収して、ルバークを背に担いで裸のまま家の中に戻った。
扉の開閉をしてくれたロゼが、再び浄化で水滴を取り除いてくれる。
ロゼを先頭に、ルバークの部屋の中に入って、ベッドに寝かせてやる。
裸のまま寝かせとくのもどうなのかと思い、ロゼと協力して、服を着せてやった。
布団を被せ、静かに部屋をでる。
自分たちの部屋に戻り、服を着て、ベッドに入った。
俺の腕を抱えているロゼから、すぐに寝息が聞こえてきた。
寝息を聞いているうちに、俺もいつの間にか眠りについた。
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