第18話 勇者候補生と料理
ロゼは魔力酔いにより、部屋のベッドで眠っている。
シラクモはロゼについていてくれた。
俺とルバークも家に戻って、椅子に隣り合って座っていた。
ルバークはお茶を淹れてくれた。
「ルバークさんはお茶好きですね。」
「そうねぇ。暇さえあれば飲んでいるかもしれないわ。ダイク君は嫌かしら?」
「いえ、美味しいです。」
そんな、当たり障りのない会話をして、本題に切り込む。
「ルバークさん、勇者ってどんな存在なんですか?」
「わたしも詳しくないわよ。勇者・・・魔王を倒せる唯一の存在って言われているわ。」
「魔王がいるんですか?」
コクリと頷き、ルバークはお茶を啜った。
本当にゲームのような世界だな、と思った。
ロゼは、そんな世界の重要なピースに当てはめられそうになっている。
ロゼが好んで勇者をやりたいなら、俺だって喜んで応援する。
やりたくない場合は、どうにか逃れることはできるのだろうか?
救いは、候補生ってことと、鑑定をされない限り分からないってことだ。
ルバークは、鑑定の魔法も魔道具も珍しいものだと言っていた。
「あの~、ダイク君。考え込んでいるところ悪いわね。魔王を倒せるっていったけれど、別に倒さなくていいのよ。魔王が悪い人だって話、聞いたことないもの。」
「えっ、そうなんですか?世界征服とか企んでいないんですか?」
「フフフ、そんなことないわよ。だから心配しないで。二人は伸び伸びと学んで、食べて大きくなればいいわ。」
ルバークに頭を撫でられながら、思った。
「ルバークさんは・・・その・・・嫌じゃないんですか?俺、転生者で別の世界で二十数年生きていた記憶があるんですけど・・・。」
「ダイク君はダイク君よ。この世界ではまだ五歳でしょ。それとも、撫でられるのが嫌だったかしら?」
「そういう訳じゃないんですけど・・・。」
「じゃあ、今までと変わらないわね。この話はおわりね。」
今までと変わらないとハッキリと言われ、なんだかすごく安心した。
「・・・夕飯までまだ時間がありますけど、何か手伝うことはありますか?」
「特にないわよ。」
「じゃあ、お皿を借りてもいいですか?」
「この家にあるものは好きに使っていいわよ。」と許可をくれる。
キッチンに行き、戸棚の中を確認する。
まな板や包丁、鍋やフライパン、中華鍋まであった。
食材はルバークのマジックバックに入っているのか、無かったが、お皿や調理器具は充実していた。
その中から、深さのある皿を借りて席に戻った。
アイテムボックスから蜂の巣を取り出すと、階段を下りる音が聞こえてきた。
「ロゼ君、体調はどうかしら?」とルバークが聞く。
「すこし寝たらよくなったよ~。もう元気!」と元気にロゼは答えた。
ロゼの頭の上でシラクモも元気に前足をあげていた。
短剣で巣蜜を丁寧に切りだして、皿に並べていく。
全部で五層分の巣蜜が入っていた。
巣の底に溜まっていた蜂蜜もひっくり返して皿に流す。
ロゼが食べたそうにキラキラした目をこちらに向けるので、巣蜜を一口サイズに切って、手で口に入れてやった。
「ん~、おいしいね~!ダイク兄、はちみつのおにく食べたいなぁ~。」
「蜂蜜のお肉って何かしら?ダイク君、わたしにもそれちょうだい!」
ルバークはそういうと、口を開けて待っていた。
しょうがないので、口に巣蜜を入れてやる。
シラクモにも小さく切った巣蜜をあげると、喜んで食べていた。
「今日の夕飯は一品、俺が作ってもいいですか?ウルフの肉を蜂蜜に漬けて焼くだけなんですけど・・・。」
「ぜひ、お願いするわ!」
巣蜜のお皿をキッチンに持っていき、手と短剣を洗い、短剣はアイテムボックスにしまった。
「ルバークさん、小麦粉と油ってあったりしますか?」
「あるわよ。」とマジックバックから出してくれる。
「ありがとうございます!ロゼとシラクモはこれお願いしてもいい?」
アイテムボックスから枯れたひまわりをすべてテーブルに載せる。
「いいよ~。たねだけ取ればいいんだよね~!」というので、お願いした。
キッチンに戻り、まな板と包丁、大きめの皿を準備する。
アイテムボックスから残りのウルフ肉を取り出して、すべて一口サイズに切り、皿にのせて蜂蜜をかけて揉みこんでしばらく置いておく。
後ろから覗き込んでいるルバークに、まな板と包丁と俺の手を魔法できれいにしてもらう。
次は簡単なクッキーを作った。
ボウルに小麦粉をコップ二杯入れて、蜂蜜と油もコップの三分の一ほど入れて混ぜるだけの簡単なものだ。
伸ばし棒はなかったので、生地を筒状にして、適当な大きさに包丁で切る。
一口サイズの円形に整えてオーブンの天板に並べていく。
ロゼたちからひまわりの種をいくつか貰い、殻を剥いて、中身をクッキーの上にのせた。
オーブンに予熱を入れているうちに、蜂蜜漬けのウルフ肉も天板に並べた。
フライパンで焼いてもいいが、オーブンを使うなら一度に焼いてしまおうという魂胆だ。
天板にのりきらない分は、皿ごとアイテムボックスに戻した。
ある程度オーブンが温まったところで、天板を入れてやる。
オーブン内部は三段に分かれていて、中段にクッキー、下段にウルフ肉を入れ、様子を見た。
蜂蜜のいい匂いが漂ってくる。
作業を終えたロゼとシラクモも、後ろから覗き込んでいた。
「ルバークさん、あとは焼きあがるのを待つだけなので、ほかの準備をお願いします。」
「わかったわ。いい匂いでお腹すいたわね。」
ルバークが夕飯の準備を始めた。
「ロゼ、テーブルを片付けよっか?」
テーブルの上には、空になった蜂の巣と、種の抜かれた枯れたひまわり、ひまわりの種があった。
それぞれ、アイテムボックスにいれて、夕飯のスペースを確保する。
「いいにおいだねぇ~!」
クンクンとロゼの鼻が動く。
「もう少しでできるから、手を洗ってルバークさんの手伝いをしよっか。」
キッチンで手を洗って、オーブンの中を確認すると、こんがりと焼きあがっていた。
二枚の天板を取り出し、ウルフ肉を皿に盛りつける。
「いい匂いね。早く座って食べましょうか!」
「「「いただきます!」」」
今日の夕食は蜂蜜漬けのウルフ肉とパン、野菜スープが食卓にあがった。
スープを一口飲むと、野菜のうまみが溶けだした塩味で美味しかった。
ウルフ肉もほどよく柔らかく、優しい甘みを感じられ、満足な仕上がりだ。
ロゼとルバークも美味しいと皿が空になるまで食べてくれた。
もちろん、シラクモも満足そうだった。
食後、ルバークが淹れるお茶と、一枚ずつクッキーを食べてみたが、サクッとした口当たりが好評だった。
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