第1話 目覚め
俺の名前は大沢 工治。
IT系の会社で働く、至って普通の男である。
新卒で入社し、3年目の25歳。
夢は会社を早期にリタイヤして田舎でスローライフ。
仕事を終え、先輩社員と飲みに行くところだ。
会社から近くの繁華街に来ている。
「工治、このビルでいいか?行きつけがあるんだ。」
「先輩のおすすめですか?いいですよ!」
入口の自動ドアを通ると右手にエレベータが見える。
「ずいぶん古いエレベータですね。初めて見ました、このタイプ。」
映画のワンシーンで出てくるような、蛇腹の手動扉、扉の上には半円のメータの様なものがエレベータのいる階数を示していた。
「なかなかお洒落だろ。外見だけで中は最新のものだから安心してくれ。ほら、来たぞ。」
扉をガラガラと開け、エレベータに乗り込み、四階へと向かう。
先輩の言う通り、中は新しいきれいなエレベータだった。
チーンと古めかしい到着音がなり、扉を開ける。
左手にバー、右手にスナックがあった。
「こっちだよ、工治。」とバーに向かう。
「いらっしゃいませ。二名様でよろしいですか?」
執事のような恰好をした店員が扉を開けてエスコートしてくれる。
「そうです。カウンターいいですか?」
「畏まりました。ご案内いたします。」
カウンター席に着き、飲み物とおつまみを注文したところで目の前が歪んだ。
目の前にあった灯りが消え、先輩の方に手を伸ばすが空をきった。
「工治さん、大丈夫ですか?」
椅子に座っている俺を揺さぶる女の人がいた。
「少し・・・気持ち悪いかなぁ。あなたは?」
目頭を押さえながら答えた。
「私は神です。工治さんを私の世界に連れていくためにここにお呼びしました。」
「はぁ、、、お呼びしましたって・・・ここはどこですか?先輩はどこに?」
周りには何もない。椅子に座っているのはわかるがその椅子も見えない。
「色々と聞きたいことはあるでしょうが、時間がないので聞いてください。異世界転生って言えばわかりますか?最近日本で流行ってますよね?魔獣のいる剣と魔法の世界です。そこで・・・えっもう・・・・・・たす・・・・・・・・・」
神様が何か大事なことを言っていた気がする。
しかし、眠りに落ちるように意識が遠のいて聞こえなくなった。
目が覚めると、知らない天井が映った。
落葉に包まれて眠っていたようだ。
体を起こそうとすると、右腕に違和感を感じる。
隣には見知らぬ少年が俺の腕に抱きつくように寝息を立てていた。
少年の腕を外しながら考えた。
これは自称神様が言っていた異世界転生なのだろうか?
夢では無さそうだ。触れる落葉や臭いは、やけにリアルだ。
転生って赤ん坊から始まるのが定番じゃないの?
手を見つめると、元の世界の自分でないことがはっきりとわかる。
地球にいた俺はどうなったのだろうか。テンプレをなぞるなら死んだか魂が連れてこられたか。
自称神様の話も中途半端というか全然聞けなかったに等しい。
「まぁ、細かいことを考えてもしょうがないか。前向きに楽しもう。」
落葉をかき分け起き上がると、ひんやりとした空気が肌に刺さる。
ん~、と体を伸ばした刹那、少年の生きてきた記憶が蘇った。
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