第14話 着せ替えと鬼蜘蛛たちの内職
「ふぅ、美味しかったわね。二人はどうだったかしら?」
食後のお茶を注ぎ、配りながらルバークが問いかける。
ロゼは満足気な表情で「とってもおいしかったよ!」と返していた。
「美味しかったです。この食事って、ルバークさんが作っているんですか?」
野菜スープとパン、目玉焼きとソーセージとシンプルな朝食だった。
だが、この世界での俺やロゼにとっては御馳走だった。
「わたしね、料理は苦手なの。だから、街に行ったときにね、沢山の料理を買い込んでくるのよ。」
一人の時は、適当に作ったりするんだけどねとお茶を啜りながら教えてくれる。
沢山買い込んでいるというが、どうやって?と疑問に思った。
「失礼かもしれませんが、ルバークさんって貴族様かお金持ちなんですか?」
「フフフ、違うわよ。こっちにいらっしゃい。」
立ち上がり、奥の部屋に向かって歩き出す。
ルバークの後をついていくと洗面所の向かいの部屋の扉の前で立ち止まる。
「開けてみて。」というので、ロゼを後ろ手に守りながら恐る恐る扉を開いた。
そこには不思議な光景が広がっていた。
部屋自体は他と変わりない白い壁でできた小さな空間だった。
そこで、小さな蜘蛛たちが糸を出したり紡いだり、シラクモより一回り大きな蜘蛛は機織り機のようなもので布を織っていた。
「この子たちが作ってくれる糸や布を売っているの。とても高く売れるのよ。」
部屋に足を踏み入れると、蜘蛛たちはこちらを気にも留めず、作業を続けていた。
「ダイク兄、見て!すごくきれいだね~。」
ロゼの言う通り、光沢のある糸を作っていて、織られた布はシルクのような輝きを放っていた。
「シラクモもここで働いたりしているんですか?」
「シラクモ君は見たことはないわね。ここにいる鬼蜘蛛たちは物を作るのが好きな子たちなの。勘違いしないでほしいんだけど、わたしが無理やり働かせているわけじゃないのよ。」
ここがマザーから譲り受けた家で、もともと生産体制は整っていたことを説明してくれた。
「そうだ!」
ルバークはバタバタと階段を駆け上がっていった。
俺たちは蜘蛛たちの邪魔にならないように、静かに部屋を後にした。
「シラクモもなにかできるの?」
お茶を飲みながらロゼが聞いた。
シラクモは調理場に飛んでいき、コップに器用に水を入れていた。
尾っぽから水の中に糸を入れ、俺たちに向かって混ぜるような仕草をした。
アイテムボックスから適当な木の枝を取り出し、混ぜてみた。
すると、だんだんと蜘蛛の糸が水に溶けだして乳白色の粘性の液体に変化した。
少し手に取って、指先で触ってみると接着剤のような粘り気があった。
鑑定をしてみると接着剤と表示された。
「お待たせ!」
ルバークが木箱を抱えて階段を下りてきた。
よいしょとテーブルの上に抱えていた木箱をおろすとルバークは椅子に座って一息ついていた。
「二人が着れそうな服を持ってきたわ!」
一枚一枚広げて見せてくれる。
「あの・・・暖かい家に住まわせてもらえるだけで十分です。これ以上は・・・。」
家に住むだけでなく、ご飯も分けてもらっているのにこれ以上は気が引けた。
ぼろぼろの服だが、まだ十分に着ることはできる。
そんなことを考えていると、ルバークは俺の前に来て、屈んで一気にズボンを下した。
下着を履いていないため、下半身が丸見えになり顔が赤くなるのがわかった。
「ほら、上も脱ぎなさい!ロゼ君は一人で脱げる?お兄ちゃんは脱げないみたいだから、わたしが脱がせてあげるわね。」
ルバークに、上着も脱がされた。
「ボクはひとりでできるよ~。」
体をくねらせながら、上下の服を一気に脱いだ。
「ダイク君、わたしは言ったわよね。遠慮しないでって。これから一緒に暮らすのよ・・・できることとできないことはもちろんあるけど、やりたいことは言ってほしいのよ。これはわたしがしたいこと。だから、わたしのために着替えてちょうだい。」
「わ、わかりましたっ。有難くいただきます。」
ルバークがそれぞれに服を当てがいながら、選ばれた服に着替える。
七分丈の上下から長袖長ズボンに着替えて、ベストも貰った。もちろん下着も用意されていた。
着替えながら、ルバークには遠慮するのをやめようと心に誓った。
「うん、二人とも似合っているわ。」
ルバークは満足そうな笑みを浮かべ、残っていたお茶を一気に飲み干した。
「あら、これは何かしら?」
さっきのコップを指差しながら聞いてくる。
「シラクモもなにかつくれるの?って聞いたらつくってくれたんだよ~!」
ロゼが答える。
「水にシラクモの糸を入れて混ぜたものです。接着剤のようなものができました。」
触ってみせよとすると、固まりになっていた。
あれ?乾燥しちゃったかな?とコップをひっくり返すとポトリと掌に中身が落ちてきた。
触ってみると、ゴムのような弾力があった。
鑑定してみるとゴムと表示された。
接着剤がゴムになるなんて・・・知らなかったなぁ。
この世界特有なのか、シラクモがすごいのかはわからないが、何かと役に立ちそうではあった。
フニフニと出来上がった枝付きのコップの形をしたゴムを触っていると、ロゼも触ってきた。
「やわらかくてきもちいいね~。」
「わたしもいいかしら?」というので渡す。
フニフニと触りながら、「これはなんなのかしら?」と声を漏らした。
「最初のうちは接着剤みたいにねばねばした液体だったんです。俺たちの着替えが終わったころにはこの形に固まってしまったみたいですね。ゴムだと思うんですけど・・・。」
「ゴムって何かしら?」
ルバークが聞いてくる。
この世界にはゴムはないのか?
「前に見たことがある気がするんです。」
あやふやな返事をした。
ずるい返事だと思った。
過去のことはルバークに話をしている。
わざわざ思い出させるようなことを言ってこないことは彼女の性格からわかっていた。
ルバークも「あぁ、そう・・・」と追及は諦めた。
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