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転生したら森の中でした。  作者: コウ
第一章 ダイク 五歳
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閑話 鬼蜘蛛の冒険

我に名前はない。

この森を縄張りとする鬼蜘蛛一族の一匹だ。

生まれた時から我を産み落としたマザーの命令を受け、生きてきた。

ルバークという人間と一緒に森の管理や、この森に入ってこようとする魔獣をやっつけたり人間を追い返したりしながら暮らしている。

ルバークは我が生まれる前から、縄張りに住み着いていて、我や兄弟によくしてくれるいい人間だ。

マザーもルバークのことは人間ながら認めているみたいだった。


ある日、マザーから二人の小さな人間が森に入ってきたことが告げられた。

この小さな人間たちは追い返さなくていいらしい。

しかも、追い返した人間達から集めたコレクションの中からいくつかの道具を与えるようにと命令が下った。

仲間たちと協力して、小さな鞄に短剣と水筒を二つずつを入れて小さな人間たちのそばに落としてやった。

ルバークの時にも、マザーの主が住んでいた家を与えたらしい。

この森に人間を受け入れるための儀式なのだろうか?

我にはマザーの考えはわからなかった。

マザーがそこまでするなら、わるい人間ではないのだろう。

だが、いい人間とも限らない。我が監視して見極めてやろうと意気込んだ。


小さな人間たちは果物を食べながら、森の中を徘徊していた。

コッソリと様子をうかがっていると、二人は兄弟だということがわかった。

仲よく手を繋ぎながら、森の奥へ奥へと進んでいく。

ついにはマザーの住まう聖樹の根元にある隙間をねぐらに住み着いた。

この小さな人間たちも聖樹の素晴らしさがわかるか。

なかなかにいい感性を持っているではないか。


見つからないようにこっそり監視をしようとねぐらの中に潜り込んだ。

しかし、小さい人間の弟にあっさりと見つかってしまった。

なかなかやるではないか、小さな人間。


しばらくは果物やきのこを採って楽しそうに暮らしていた。

食事のたびに果物やら炙ったきのこを献上してきて、我のことを家族だと言いだした。

小さな人間たちの家族ではないと前足をあげて抗議したが、わるい気はしなかった。

しょうがない、見つからないように狩りの手伝いをしてやろう。

小さな人間たちは角兎を追い回すだけで、一撃も入れられずに逃げられていた。

逃げ道に先回りして、糸を張って角兎の足をひっかけて転ばせた。

これで小さな人間たちでも角兎を簡単に仕留められるだろう。


小さな人間たちは、適当に処理した肉をおいしいおいしいと泣きながら食べていた。

血生臭くておいしくはないが、その顔を見ているだけで少し嬉しくなった。

小さな人間たちが寝静まった後は、毛皮の処理をしてやった。


そんな生活も長くは続かなかった。

森の食べ物がなくなる時期に来たのだ。

小さな人間たちはみるみる弱っていった。

なんて弱い生き物なのだ。食べ物がないくらいで。

しょうがない、我が食べ物を持ってきてやろう。


鬼蜘蛛の縄張りを離れた森で、食料を探した。

途中、何匹かのウルフが襲ってきたが、返り討ちにしてやった。

我に手を出すとは愚かな種族である。

奥に奥に進むときのこが群生している小さな水辺があった。

いくつかのきのこを前足で抱え、縄張りの森まで全速力で走った。

帰り道も何匹かのウルフがいたが、攻撃を避けてきながら縄張りまで戻ってきた。


小さな人間のねぐらに着くと、小さい人間の弟しかいなかった。

そこにマザーからの命令が下る。

ウルフの群れが入り込んできたようだ。

もしかしたら、我がウルフ共を引き連れて戻ってきてしまったのかもしれない。

撒いてくることができなかった後悔からか、きのこを前足に抱えたまま走り出していた。


走った先に、小さな人間の兄がフラフラとなりながら走っていた。

その方角はウルフの群れがいるから危険だ。

足止めをするために、近くにあった木を土魔法で根元を解し、傾けてやった。

ズシーンと大きな音を立てて倒れたが、小さな人間には当たらなかった。

小さな人間が膝をついて呆然としている隙に、小さな人間に近いうろの中に潜り込んだ。

そこから前足に抱えていたきのこを落としてやる。

小さな人間の様子はここからは見えないが、必死にきのこをかき集める手は見えた。

走り去っていく音を聞いて、ウルフの群れ退治へと走り出した。


マザーに聞いた場所に着くと、ルバークや兄弟たちがウルフと交戦していた。

我も参戦して、あっという間に駆除することができた。

そこで小さな人間の兄が、ウルフに襲われて大怪我をしていると知らせがマザーから届いた。

ルバークにも知らせが届いたのか、すぐに走り出していた。


我もルバークを追いかける形で走り出す。

あの時、離れずに家まで送り届けていれば・・・と後悔が頭をよぎった。

しかし、マザーからの命令は絶対だ。

後悔よりも、どうすれば助けることができるのかを考えながら走った。


小さな人間の兄は倒木からすぐの場所でウルフと共に倒れていた。

「ロゼが・・・きのこ・・・・・・ロゼに・・・・・・・・・。」と朦朧としながら寝言のように言っていた。

ルバークが小さな人間の肩を抱えて、歩き出した。

「君はウルフを警戒しながら先に行って、ロゼ君が無事か確認してきてちょうだい!」

ルバークの指示で先行して小さな人間たちの塒ねぐらに向かった。

小さな人間の弟・・・いや、ロゼは襲われることなく、落葉に包まり眠っていた。


しばらくすると、ルバークがダイクを抱えて帰ってきた。

大きな葉っぱを塒ねぐらの入り口付近に何枚か敷いてやった。

ルバークはそこに寝かせるようにダイクを降ろした。

朦朧としながら小さな鞄からきのこを取り出し、這うようにロゼの元に行き、千切って口に入れてやっていた。

ルバークは腰に着けていた巾着の中を覗いているが、このひどい傷に効くような薬は持っていないらしい。


この瞬間にも、ダイクの腕からだらだらと血が滴っていた。

死にかけのウルフと同じような息遣いと顔色に、我は狼狽えた。

血を止めようと小さな体で傷口を抑えた。

それでも止まらない。

顔を押し付けて止めようとするが、止まらない。


あふれ出てくる血が口の中に入り込んできた。

その瞬間、頭の中に新しい魔法の知識が流れ込んできた。


体に巻き付けていた、二列目の足を高く掲げて、魔法を唱える。

すると、ダイクの体に淡い光が宿り、傷がみるみるうちに治っていった。


安心したからか、眠気が襲ってくる。

ルバークが何か言っているが、ぼんやりとした意識のなかで聞き取れなかった。

ロゼの方に向けて、再び魔法を唱えた。

ロゼの体も淡い光を放ち、健康そうな見た目に戻ってきた。


この眠気は覚えがある。

進化の兆しだ。


ここではダメだと、眠気に耐えながら聖樹に登った。

とてもマザーの元までは戻れそうもない。

聖樹の隙間に糸で繭を作り、眠りについた。


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