第124話 すき焼き風サンドと帰宅方法
パンの切れ目にレタスとすき焼き風の味付けをした肉を詰め込んで完成だ。
詰める作業はロゼとガンドに任せて、俺はアイテムボックスからスープを取り出して温め直す。
「本当にいい匂いだ。食べるのが楽しみだね。そのスープはダイクが作ったのかい?」
気がつけばマティが背後に立っていた。
「これはサンテネラの宿屋でお願いして作ってもらったものです。ルバークさんが惚れ込むくらいに美味しいですよ。・・・あっ、そんなに器が無いな。」
アイテムボックスのリストを確認するが、スープを入れる容器類は必要最低限しか持ち合わせていない。
「大丈夫だよ。見てごらん。」
振り返って冒険者たちのいる方を見ると、それぞれの前に平皿とスープ用の皿がテーブルの上に用意されていた。
「ダイク兄、出来たよ!配ってくるね!」
出来上がったパンの載った大皿を抱えてロゼは冒険者たちに配りだす。
「スープも、もうええじゃろう。わしが持っておくから、ダイクは分けてくれるかのう?」
大鍋を抱えてガンドが歩き出す。
「はい、どーぞ!はい、どーぞ!」
ロゼが配った後を追って、スープを器に注いでいく。
「早くこっちにも配ってくれ!」
「お~い、こっちもだ!」
今にも涎が垂れそうな緩い口元を見せて、まだ配膳されていない冒険者たちが騒ぐ。
マティの手のひらから乾いた音が響くと、冒険者たちは椅子に座り直して大人しくなる。
「ダイク兄、それで冒険者の人たちの分は終わりだよ!あとはボクたちとマティさんだね!」
調理場から近いテーブルが俺たち用に空けてある。
器もすでに用意されているので、スープを注ぎ終わると食事が始まる。
「皆さん、お待たせしました。どうぞ、召し上がりください。」
席に着く前に声を掛けると、歓声とともに冒険者たちは食事に齧り付く。
「じゃあ、ボクたちも食べようか!はぁ~、お腹すいた。いただきま~す!」
ロゼの挨拶に続き、俺とガンドも「いただきます!」と言ってパンを手に取る。
シラクモとクガネもテーブルの上に下りてきて、パンを体を揺すって美味しそうに食べている。
「ハハハ、報告されていた通りなんだね。じゃあ、私もいただきます。」
食事前の挨拶のことだろうかと、気にすることなくパンを口に運ぶ。
久しぶりのすき焼きに近い味付けに、シャキッと歯ごたえのあるレタス。
充分に美味しいが、もう少しコクがあってもいいと思う。
次に作る時には蜂蜜を入れてもいいかもしれない。
「ダイク、何を考え込んでおるんじゃ?もう食べないならわしが食べるぞい?」
すでにガンドの前の皿は空になっている。
冒険者たちも残念そうな顔で空になった皿を眺めていた。
「スープのお替わりは自分でよそってくださいね。パンも肉なしでよければどうぞ。」
調理用のテーブルの上にパンを置いて食事に戻る。
冒険者たちは我先にと大鍋に群がり、結局スープもパンも綺麗に無くなった。
「美味しかったね。王都にいても、なかなかこんなに美味しい食事にはありつけないよ。」
使い終わった食器を片していると、マティがしみじみと言う。
「そうなんだよ!ダイク兄の料理は美味しいんだよ!屋台とか宿の料理も美味しかったけど、やっぱりダイク兄の作ってくれる料理が一番美味しいよ!」
嬉しいことを言ってくれるが、あまりの力説に気恥ずかしくなってしまう。
「ハハハ、ロゼは幸運だね。こんな素敵なお兄ちゃんを持って。大事にするんだよ。」
俺が恥ずかしがっているのを分かって、マティはさらに追い打ちをかけてくる。
「はいはい、ありがとう。早く片づけして帰るよ。これで依頼は終わりなんですよね?」
「なんじゃ、ダイク。照れておるのか?褒められたら素直に受け取ればいいんじゃぞ?」
「ハハハ、ゴメンね。面白くて乗っちゃったよ。でも、言ったことに嘘は無いからね。依頼はこれで終わりだ。片付けたら帰ろうか。」
食器と鍋をまとめて魔法で綺麗にして、アイテムボックスへと収納する。
「ギルマス!こっちも片し終わったぜ!ギルマスたちは馬車で帰るんだよな?俺たちとはここでお別れか?」
テーブルと椅子の上に何もないことを確認して、土へと戻す。
「そうだね・・・。ダイク。彼らを一緒に連れていくことはできるかい?」
「・・・たぶん出来ますよ。」
マティは報告を受けて知っているのだ。
フィリムでのサラマンダー討伐帰りに山を魔法で下ったことを。
冒険者たちは何を言ってるんだという顔をしてこちらを見ている。
王都までは歩けば一日も掛からないだろうが、この場で冬を越した冒険者たちを置いていくことはできない。
少し歩いた先の開けたスペースで、イメージを浮かべて魔法を発動させる。
メキメキと音を立てて、俺のイメージが作られていく。
冒険者たちは騒ぎ立てているが、気にすることなく集中する。
「ふぅ、こんなところかな?」
前回の鳥籠に車輪を付けたものとは違い、細部まで忠実に再現できていて満足する出来だ。
「ダイク兄、これは何なの?」
「バスだよ。これならかなりの人数を乗せて動けるんだ。マティさん、俺はこれを運転しないといけないので、帰りはこれに乗って帰りますね。」
呆然としているマティに声を掛ける。
「そ、そうなんだね。報告とは形がだいぶ違うみたいだけど、これもダイクの魔力で動かすのかい?」
「そうですね。作ってしまえば誰でも動かせるとは思いますけど・・・。」
そう言うと、マティがバスに乗り込み俺を呼ぶ。
「どうやって動かすんだい?私がやってみるよ。」
マティを運転席に座らせて、ハンドルを持たせてアクセルペダルを踏むと動くことを伝える。
しかし、マティはハンドルを一瞬触っただけで動かすことは無かった。
「私には無理みたいだ。馬鹿みたいに魔力が吸われていくよ。ダイクは本当にこれを動かせるのかい?」
まだ試運転すらしていないので、自分でもよく分からない。
運転席を交代してもらって、ハンドルを握ってアクセルをゆっくりと踏み込む。
エンジンを積んでいる訳では無いので、音もなくスーッとバスは動き出す。
「大丈夫みたいです。問題なく動きますね。」
振り返るとマティは複雑な表情を浮かべて立っていた。
「・・・そうかい。私もこれに乗って帰ることにするよ。御者に伝えてくるから皆を乗せて、待っていてくれるかい?」
そう言って、バスを降りて馬車へと歩いて行ってしまう。
「ボクもこっちに乗って帰るよ!ガンドさんはどうする?」
「わしもこっちの方が楽しそうじゃ!こいつに乗って帰るぞい!」
当たり前のように乗り込み、運転席の斜め後ろの席に二人は座る。
「皆さんも乗ってください。マティさんが来たら、出発します!」
土魔法のバスは、座席がフカフカでシートベルトまで再現されている。
どういう理屈なのかは分からないが、カチンコチンの座席じゃなくてよかった。
マティが戻るまでにシートベルトの着用の仕方を教えて、バスの中は遠足にでも行くかのように騒がしい。
初めて見るものに興奮している人や、すっかりと青ざめて神に祈っている人までいる。
ロゼとガンドは楽しそうに「早く動かないかなぁ」なんてウキウキだ。
「あんまり活躍する機会が無くてごめんな。」
膝の上にシラクモを下ろして、撫でながら謝る。
気にするなと言わんばかりに前足をあげて、体を横に振ってくれる。
しばらく待つと、前方に停まっていた馬車が動き出してマティが戻ってくる。
「やっぱり、君たちもこっちに乗るよね。馬車には先を行ってもらうことにしたから、後を追ってくれるかい?」
呆れたような、納得したような複雑な表情でロゼとガンドをマティは見る。
「ハハハ、分かりました。ロゼ、マティさんにシートベルトの付け方を教えてもらえる?それが終わったら出発だ。」
「うん、分かった!マティさん、こっちに座ってね!」
運転席の後ろの席がマティ用に空けられており、ロゼはマティを座らせるとシートベルトを付けてくれる。
「これは何なんだい?」
シートベルトを引っ張っりながらマティが聞いてくる。
「安全対策です。急に止まった時に席から落ちないようになってます。」
マティは不思議そうに眺めているが、ロゼが座ってシートベルトをしたのを確認する。
「じゃあ、出発しますよ。」
ハンドルを軽く握り、アクセルをゆっくりと踏み込んでいく。
バスはゆっくりと動き出して、馬車の後を追っていく。
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