第123話 小屋とモーカウ
「ご苦労だったね。まさか、こんなに早く終わるとは思ってなかったよ。」
マティがそう言って柵を乗り越えて俺たちに近づいてくる。
「待ってください!まだ、ここらには魔獣木の影響が残ってる可能性があります。」
魔獣木が生えていた一帯を魔法できれいにするが、魔熱病に罹る可能性はゼロではない。
せっかく作ってある柵はそのままに、草木が生えてくるくらいまで立ち入り禁止にしてはどうだろう。
そう思い立ち、マティに相談をする。
「う~ん、そうだね。いい案だと思うよ。わかった。あとの処理はギルドに任せてくれ。」
「よろしくお願いします。」
少し離れたところで、ロゼとガンドが冒険者たちに囲まれている。
「使ってた武器を見せてくれ!」
「こんな細腕のどこに、あんな力があるんだ!?」
「お前たち、王城に招かれてるんだろ!?羨ましいぜ~!」
ロゼもガンドも一つ一つ丁寧に答えているようだが、質問が止むことなく続くので少し困ったような表情を見せている。
「はい。君たち、話は後にして帰る準備をしなさいね。小屋に忘れ物をしても、私は知らないからね。魔獣の素材も今ならダイクが持って帰ってくれるかもしれないよ。」
パチンと手を叩いて、ロゼたちを囲んでいる冒険者たちに言う。
冒険者たちは即座に話を止めて、一斉に小屋へと向かって走り出す。
「あっちに小屋があるんですか?・・・ていうか、俺が持って帰るんですね。魔物の素材。」
訝し気な目線を送ると、マティはハハハと笑いだす。
「勝手にごめんね。でもね、君たちはもう有名人なんだ。少しでも彼らに恩を売っておくといいよ。私たちも小屋へと行ってみようか。」
冒険者たちを追うように、小屋へと向かって歩き出す。
魔獣木の生えていた場所から百メートルほど離れた場所に、小屋が三棟あった。
冒険者たちは忙しなく中から魔獣の素材やら生活道具、私物を小屋の外へと出している。
「ちなみに、ここで生まれてくる魔獣は何だったんですか?」
冒険者たちが持ってくる素材だけでは、魔獣を特定できなかった。
毛皮と牙のようなものがあることから獣であることは間違いない。
「モーカウっていう魔獣だよ。黒い長い毛皮に覆われていてね、牙と角が厄介な魔獣だね。君たちには簡単に倒せるかもだけど、対応するならCランクは欲しいところだね。あっ、あと、お肉が美味しいんだよ。」
「えっ、お肉が美味しいの!?」
魔獣の説明は適当に聞き流していたロゼは、お肉と聞くと目が輝きだす。
「そうだよ。美味しいんだ。食べたいかい?」
「えっ、食べれるの~?」
食べられると分かると、ガンドの目も輝きを見せる。
マティが近くにいた冒険者に何かを言うと、俺たちを小屋へと手招きをする。
「中に残ってるのはダイクに片付けてもらっていいかな?それと、少し分けてもらってもいいかな?報酬に上乗せしておくからさ。」
小屋に入り、マティは冒険者に声を掛ける。
「いいですぜ!どうせ、全部は持って帰れねぇしよ!ほかの棟にも、まだ残ってるだろうからお願いしますぜ!」
冒険者が床に敷いてあった絨毯を捲ると、床下へと続く扉が現れる。
扉を開けると、ひんやりとした空気が小屋の中を駆け巡る。
「床下に氷室を作っておるんじゃな。これは楽しみじゃな!」
ガンドは我先にと床下へと梯子を下りていく。
「私は寒いのが苦手だから、ここで待っているよ。下にある肉を回収してもらえるかい?」
マティは両手を擦り合わせながら、体を震わせている。
「おーい、ダイク!早く降りてこんか!」
地下で反響しているのか、ガンドの声がいつもより大きく聞こえてくる。
「待って!ボクも行くよ!」
ロゼを先に下ろして、俺も梯子を慎重に下りていく。
地下は真っ暗で、部屋の奥にある小さなランタンが今にも消えそうな灯を揺らしている。
魔法で光の玉を浮かべると、部屋の全貌が見えてくる。
六畳程の部屋で、両脇に木製の棚が置かれていて、奥には壁一面に雪が融けずにブロック状に積まれている。
小さなランタンは木の枝に引っ掛けられて、雪のブロックに挟まるように立てられていた。
「ダイク兄、見て見て!お肉がいっぱいあるよ~!うわぁ~、美味しそうだね!」
左手の棚は空だったが、右側の棚には様々な部位の肉が乱雑に置かれている。
名前から察してはいたが、断面は完全にさしの入った牛肉だ。
「とりあえず、アイテムボックスに入れるよ。マティさん、ランタンと棚はどうしますか?」
肉を収納しながらマティに問いかける。
「棚はそのままでいいよ。お肉とランタンだけ、持ってきてくれ。それ以外は無いよね?」
「ふむ、無さそうじゃぞい。肉も、それで最後じゃな。」
ランタンの淡い光で魔法の光が届かないところまでガンドが確認をしてくれる。
「ありがとうございます。じゃあ、戻りましょうか。」
ロゼ、ガンド、俺の順番で梯子を上って小屋の一階へと戻る。
冒険者たちによって家にあったものは粗方運び出されていて、随分とすっきりしていた。
「ご苦労様。向こうの小屋の氷室も頼むよ。」
マティはにっこりと笑って二棟の小屋の方向を指差した。
小屋の外では冒険者たちが魔獣の素材を数えている。
その様子を脇目に見ながら、残り二棟の肉を回収して周る。
回収が終わる頃には数え終わっており、羊皮紙にアイテムボックスに入れて欲しいもののリストが俺に渡される。
「これを入れればいいんですね。分かりました。」
小屋の前にまとめられた素材を一気にアイテムボックスへと入れてしまう。
それだけのことで、冒険者たちからは「おぉ~。」と歓声が上がる。
「ダイク兄、お腹すいたよ~!早くお肉食べようよ~!」
冒険者たちの反応なんて無かったかのように、服の裾を引っ張りながらロゼは言う。
「分かったよ。マティさん、ここでお昼にしませんか?冒険者の皆さんも食べますよね?」
冒険者たちもお腹が空いているのか、懇願するような目でマティを見つめている。
「わ、わかった。いいよ。お昼にしよう。でも、肉くらいしか無いんじゃないの?」
全員からの視線に圧倒されながらも、マティは冷静さを保つように腕を組む。
「大丈夫だよ!ダイク兄が用意してくれるから!お願いね、ダイク兄!」
上目遣いで両手を合わせて頼むロゼ。
「・・・仕方がないなぁ。ロゼも手伝ってよ。」
この場にいる人数を確認して、土魔法を使ってテーブルと椅子を作り出す。
「うん、任せといて!」
テーブルと椅子とは別に調理台も作り、氷室から持ってきた肉の塊をのせる。
「ロゼ、この肉を薄く切ってくれる?皆さんは座って待っててください。急いで作りますから。」
調理場に集まりつつあった冒険者たちを椅子に座らせておく。
フライパンを二つ用意して、合わせ調味料を作る。
醤油、魚の骨からとった出汁、砂糖を味を見ながら合わせて、隠し味に味噌を少し入れておく。
少し濃いめだが、すき焼きの様なタレができた。
「わしも何か手伝うぞい?」
後ろからひょっこりとガンドの顔が現れ、驚きの余り作ったタレを溢しそうになってしまう。
「あ、ありがとうございます。ガンドさんはパンに切れ目を入れておいてもらえますか?唐揚げみたいに挟もうと思ってます。」
調理場の空いたスペースに人数分のパンとナイフを取り出す。
「おお、任せてくれ!」
レタスを魔法で洗って千切っていると、ロゼの作業が終わった。
「ダイク兄、切り終わったよ!これでいい!?」
「ありがとう。じゃ、次は焼くのを手伝ってもらうよ。フライパンで肉を炒めて、このタレを絡めるんだ。まずはやってみるから、見ててね。」
フライパンにロゼの切ってくれた薄切りの肉を適当に並べて、魔法の火にかける。
解しながら大体の肉の色が変わってきたら、タレを注いでしっかりと火を通していく。
タレが肉の油と混ざり合い、辺りに甘辛いすき焼き風の匂いが立ち込める。
「うわぁ~、いい匂い~。お腹が鳴っちゃうよ。」
冗談交じりにロゼは言うが、本当にお腹から音も聞こえてきた。
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