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転生したら森の中でした。  作者: コウ
第四章 ダイク 八歳
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第122話 王都の魔獣木

「やぁ、おはよう。待っていたよ。」

冒険者ギルドへ行こうと男三人で豪邸を出ると、正門前に豪華な馬車が停まっていた。

ガンドの作ってくれた木製の馬車とはまた違う豪華さで、黒光りした車体の窓からグランドマスターが顔を覗かせていた。

「お、おはようございます。今からギルドに行こうと思ってたんです。どこかに行かれるんですか?」

マティが乗っているとは思わずにたじろいでしまう。

「君たちを迎えに来たんだ。話は乗ってからにしよう。」

馬車の扉が開くと、御者の男性が小さな階段を入り口前に用意してくれる。

「ありがとう、おじさん!おはよう、マティさん!」

ロゼはそんな小さなことを気にすることなく、平気な顔で豪華な馬車へと乗り込む。

「ほれ、乗るぞ、ダイク!」

ガンドも俺の尻を叩いて馬車へと上がり込んだ。

「・・・わかりましたよ。」

ロゼとガンドは奥に座ったため、必然的にマティの向かいの席に座る。

御者の男性が階段をしまうと扉が閉められて馬車が動き出す。


「やっぱり、ルバークは来られなかったんだね。」

やれやれといった表情でマティは言う。

「そうだよ!朝までお酒を飲んでたんだって!でも、やっぱりってどういうこと?」

「私も経験があるんだ。親方を王都に迎えた時にね。親方と飲むときはなかなか帰れないから注意した方が・・・、君たちにはまだ関係ない話だったね。ガンドは注意してね。」

「わしが親方と酒を酌み交わすことは無いじゃろうから問題なしじゃ。それにしても、マティさん。わしらは一体、どこに連れて行かれるんじゃ?冒険者ギルドは過ぎたようじゃが?」

「君たち三人には、この依頼をこなしてもらうよ。悪いけど、これは断れないからね。」

マティは座席の脇に丸めて置いてあった羊皮紙を広げて、俺に差し出す。

依頼内容は魔獣木の回収のようだ。

他には、いつもは書かれていない依頼者の名前が記されている。

「こ、これって・・・。」

隣から覗き込んでいたガンドも同様に驚いて声を失っている。

「ミシェル・ド・ベルカイムって・・・、誰なの?」

ロゼは首を傾げながら、マティに質問する。

「ハハハ、二人は気がついたようだね。ロゼ、この名前はこの国の王の名前だよ。」

依頼という名の命令書を読むが、特に俺たちがやることはほとんどない。

魔獣木を回収するだけが俺たちの仕事となっていた。

「生まれてくる魔獣はどうするんですか?」

「それは他の冒険者が対応してくれるよ。君たちは送り届けた先で魔獣木を回収するだけ。本当にそれだけだよ。君たちの報告があがってきてから、常に冒険者が魔獣木の周りを囲んで魔獣を処理しているんだ。ルバークの住んでいた村・・・ナザレの二の舞を踏まないようにね。」

「病気は大丈夫なの?近づくと危ないんだよね?ダイク兄?」

コクリと頷いて、マティの返事を待つ。

「そう、近づかなければいいんだ。魔獣木からはある程度の距離を保てれば、魔熱病に罹ることがないことが分かったんだ。」

マティは涼しげな顔でそう言った。

この事実が分かるまでにどのくらいの冒険者が魔熱病に罹ったのかが気になってしまった。

気に病んでも仕方がないことは分かっているが、どうしても考えてしまう。

実際に、サンテネラでは魔熱病に罹った冒険者は周囲の村に追いやられている。

ふと窓の外を見ると、すでに王都を出ていた。

「マティさんもついて来るんですか?もうベルカイムを出てしまっているんですけど。」

「そうだよ。君たちは特別だからね。それに、グランドマスターとして魔獣木を回収する作業を見ておきたいんだ。高ランクの冒険者にもできないことを君たちはやっているんだからね。」

「特別ってなんで??」

「ハハハ、王に招聘されているんだよ。特別だろう?魔獣木の回収はお願いするんだけど、君たちに何かあったらいけないからね。冒険者ギルドとしても、全力で君たちをサポートするってことさ。」

そんな話をしながら、馬車は止まることなく進んでいく。

初めは街道を走るが、しばらくすると道を外れて揺れが激しくなる。


道なき道を行くため、馬車の内部はかなりの揺れだ。

サスペンションは効いているんだろうが、それでもかなりの衝撃が尻に響く。

三十分ほど我慢して乗っていると、前方から騒がしい声が聞こえてくる。

「着いたみたいだね。」

マティが言うと、馬車の扉が開いて御者の男性が小さな階段をセットしてくれる。

マティを先頭に馬車を下りると、十数人の冒険者が迎えてくれる。

「グラマス、待ってたぜ!そいつらが鬼蜘蛛兄弟か!?思ってたよりも小さいな・・・。」

すっかり忘れていたが、俺とロゼは鬼蜘蛛兄弟と呼ばれているんだっけ?

「待たせたね。こちらの鬼蜘蛛兄弟が魔獣木を回収しに来てくれたよ。君たちも晴れてベルカイムに戻れるね。」

その言葉を聞いた冒険者たちから、大きな歓声が上がる。

中には嬉しさの余りなのか、笑顔で泣いているものまでいる。

驚いて様子を見ていると、ロゼとガンドも目を丸くして冒険者たちを見ていた。

「驚かせて悪いね。彼らは冬の間も魔獣木を見ていてくれてね、ベルカイムに長いこと帰れていないんだ。ダイクとロゼ、よければ彼らに鬼蜘蛛を見せてやってくれないか?」

「は、はぁ。シラクモ、出ておいで。」

「クガネも出ておいで!」

シラクモが俺の頭の上に。

クガネがロゼの肩の上に出てくると、歓声はさらに大きくなる。

「はい。それじゃ、君たちは最後の仕事をしっかりとやってね。ダイク、ロゼ。頼んだよ。」

パチンと手を叩くと冒険者たちは蜘蛛の子を散らす様に持ち場へと戻っていく。

冒険者たちが大きな円形を作るので、魔獣木がどこにあるのかはすぐに分かった。


「よし、仕事じゃ!行くぞ、ダイク!ロゼ!」

気合を入れるように俺たちの背中を叩くと、ガンドは円の中央に向かってずんずんと進んでいく。

「も~、痛いなぁ!ダイク兄、行こう!」

ロゼも俺の手を引っ張ってガンドの後を追う。

「何でマティさんもついて来るんですか?魔熱病になっちゃいますよ!?」

引っ張られる俺の後を、マティはついて来ている。

「大丈夫。危険なところまでは行かないさ。ギリギリまでは一緒に行くよ。」

冒険者たちも円を窄めるように、魔獣木に近づいてくる。

少し進むと、木製の柵が見えてきた。

「私たちはここで見学させてもらうよ。頼んだよ。」

微笑んではいるが、真剣な眼差しが俺たちに向けられる。

コクリと頷き、柵を超えて魔獣木に近づく。

「なんだか少し、恥ずかしいね!」

「大丈夫だよ、ロゼ。いつも通りでいいんだ。それとも、俺が回収しようか?」

「それはダメだよ!ダイク兄がまたおかしくなっちゃうじゃん!ボクに任せといて!」

はじまりの剣を構えて、ロゼは魔獣木に突っ込んでいく。

ロゼの激しい剣戟に実がいくつか落ちていくが、この場所はすぐに魔獣に成長を遂げることは無かった。

「終わった・・・よ?」

魔獣木を壊し終えたロゼは、周囲を見回す様に言う。

柵の周りに集まっていた観客は言葉を失い、すっかりと辺りが静まり返っている。

「お疲れ様。回収は俺に任せて、ロゼは座って休んでて。」

近くにあった切り株にロゼを座らせて、細かくなった魔獣木を残すことなく回収する。

ガンドとシラクモ、クガネの手伝いもあってすぐに魔獣木は跡形もなく無くなった。


「あの・・・、マティさん。終わりましたけど・・・。」

驚いた表情で固まっているマティに声を掛ける。

「あ・・・、あぁ、ご苦労様。あまりの呆気なさに言葉を失っていたよ。君たちはこれで解散だよ。」

冒険者たちにそう告げると、ポツリポツリと声が出始めて、終いには大きな歓声へと変貌した。


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