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転生したら森の中でした。  作者: コウ
第四章 ダイク 八歳
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閑話 ルバークと親方

「さぁ、着いたよ。ここが親方の働いている魔道具工房だ。」

魔道具工房を前に、ルバークの心臓ははち切れんばかりに脈を打った。

ここに親方が・・・。

会うとは言ったものの、いざ工房を前にすると足が竦んで一歩が踏み出せない。

「私たちはこっちからだよ。」

マティがルバークの手を取って、引っ張るように工房の脇にある細い道に入っていく。

「ちょっと待ってください。」と言葉を出そうとするが、口が渇いて声にならない。

足も引っ張られて何とか動いているが、自分の物とは思えないほどに重たい。

「ルバーク、大丈夫かい?少し顔色が悪いよ。」

引っ張られていた手が離れ、目の前には扉がある。

ここを開ければ親方が・・・。

マティの言葉も聞こえないほどに、緊張で体が硬くなる。

「一旦、深呼吸をするんだ。そんなに心配することは無いよ。扉を開けてもいいかい?」

「きゃっ、・・・ちょ、ちょっと、何するんですか?」

マティはいつの間にか背後に立っていて、ルバークの背中を指先でなぞっていた。

ぞくぞくとする感覚に、体の硬直が無くなって声も普通に出るようになった。

「私の話を聞かない罰だよ。そんなに緊張していても仕方ないだろう?ほら、深呼吸をして。扉を開けるよ。」

指示に従って深呼吸で一息ついて、コクリと頷いて返す。


扉の先には小さな部屋があって、質素な一人掛けのソファが四脚がローテーブルを囲う様に並んでいる。

「ここは商談に使う部屋だよ。私たちが来たことを知らせてくるから、ここで座って待っててくれ。」

マティに背中を押されて、ソファに座らせられる。

「あっ、そうだ。すっかり忘れていたよ。明日はダイクとロゼ、ガンドの三人はギルドに来るように伝えてもらえるかな?お願いしたいことがあったんだ。」

工房へと続く扉に手を掛けながら、マティは言う。

「は、・・・はい。わたしはいいんですか?」

心臓の音は今もうるさいが、声は問題なく出せるようになっていた。

「ルバークは・・・、来れたらおいで。無理するを必要は無いよ。」

そう言い残して、マティは扉の奥に消えていった。

喉の渇きを潤すためにお茶でも淹れようかと思ったが、指先が震えてマジックバックをうまく開くことができない。

震える手を膝の上で重ねて、下を向いて待つしかなかった。

二十年近く会えていなかった親方との再会。

どんな顔で、まずはどんな言葉を掛ければいいのか。

昨夜もいろいろと考えてはいたものの、部屋に入るなり頭の中は真っ白になっていた。


頭の中で思考を巡らせていると、マティの出て行った扉がノックされた。

「どうぞ。」

その三文字が声にならない。

体もさらに硬直して動くことすらままならない。

扉の向こうの人は、痺れを切らしたのかドアノブに手を掛けた音が聞こえてくる。

心の準備が整わないままに扉が開けられてしまい、ルバークは目をきつく瞑った。

部屋に入ってきた人物は、何も言わずにお茶をテーブルの上に二つ並べた。

親方じゃない。

親方はお茶配りをするような人ではなかった。

少しの安心感から目元の閉じが甘くなり、薄っすらと視界が開けていく。

「久しぶりだな。・・・ルバーク。俺のこと・・・覚えているか?」

お茶を配っていた人物は、ルバークのすぐ脇で跪いてそう言った。

「えっと、誰だったかしら?」

問いかけに答えようとするが、声が掠れてしまう。

目の前に出されたお茶を一口啜り、喉を十分に潤す。

「ごめんなさい。えーっと、どなたかしら?・・・・・・えっ、もしかして・・・ペーターさん?」

初めは誰か分からなかったが、じっと見ていると昔の面影が残っている気がする。

一つ年上の兄弟子で、ルバークの記憶にある顔はまだ幼く、髭も生えていなかった。

すっかりと大人の姿に変貌したペーターに、驚くと同時に体の緊張が解れていく。

「すまなかった。あの時・・・、妹弟子になんて声を掛ければいいか分からなかったんだ。酷いことをしたと思っている。本当にすまなかった。」

膝をついたまま、ペーターは頭を深く下げる。

「ペーターさん、もう昔のことですよ。頭をあげてください。恨んでなんか・・・ありませんから。それにしても、すっかり大人になりましたね。昔はわたしと同じくらいの背丈しかなかったのに。」

ペーターを立たせると、ルバークの背丈の二倍ほどの身長があった。

昔はルバークと変わらないほどに小さかったのに。

「ルバークが居なくなったころから、急激に背が伸び始めたんだ。・・・ルバークは変わらないな。昔のままだ。」

ペーターがそう言うと、再び扉が開いた。


「お、親方・・・。お久しぶりです。ルバークです。」

ペーターのお陰で体の緊張は無くなっており、普通に挨拶をすることができた。

頭や髭が真っ白になっているが、それ以外はどこも昔と変わらない親方の姿だった。

「元気にしてたか?ルバーク。お前はちっとも変わらないな。魔道具の研究は続けているのか?」

親方はルバークの向かいの席にドカッと座り、お茶を一気に呷った。

「フフフ、元気にしてましたよ。音沙汰無くて、すいませんでした。親方にいただいた、このマジックバックもとても役に立ってくれてます。あの時は、本当にありがとうございました。」

親方に向けて、座ったまま深く頭を下げる。

「いいんだ。あの時、俺にはどうしてやることも出来なかった。ルバークが居なくなってから、一、二年はお前の作った魔道具が流通していたから、無事なんだと思ってたんだ。だが、それっきりお前の作る魔道具を見つけることが出来なかった。他国にでも行ったかと思ってたぜ。」

マジックバックからティーセットを取り出して、空になった親方の分を淹れてペーターの分も新たに用意する。

「ペーターさんも座ってください。初めのうちはいろんな街や村に寄っていたんです。でも、どこもわたしの噂が広がってまして・・・。」

苦笑いを浮かべて、なるべく暗くならないように配慮する。

「お前のことだからくたばったりはしないと思っていたが、冒険者ギルドのグランドマスターからお前の話を聞いて驚いたぜ。・・・どうやって、これまで生きてきたんだ?今は幸せにしているのか?」

どこから話したらいいのか。

ルバークには話したいことが沢山あって整理していると、親方がペーターに告げる。

「今日の急ぎの仕事はもう無かったよな?店は若い奴らに任せて、飲みにでも行くか!ルバーク、お前、そんななりだがもう飲めるんだよな?酒が入ったほうが口も良く動くだろ?ペーター、お前も来い!」

「はい!親方。俺、伝えてきますね!」

勢いよく立ち上がり、淹れたばかりの熱いお茶を一気に飲み干してペーターは扉を出て行った。

「あの・・・いいんですか、親方?まだ、昼前ですよ。」

「当たり前だ。有望な弟子が久しぶりに顔を見せに来たんだ!お前のこれまでの話をしっかりと聞かせてもらうからな。魔道具の研究の成果も見せてもらわなきゃなんねぇ!・・・それに、ナザレの最期も聞いてもらわなきゃなんねぇしな。」

魔獣木による魔獣の増加で放棄された村、ナザレ。

ルバークの故郷でもあるナザレの話をした親方に少し暗い影が落ちる。

「親方!お待たせしました。向こうは任せてきました!」

ペーターが重い空気を払う様に、勢いよく部屋に戻ってきた。

「よしっ、行くぞ!ついて来い!」

親方は意気揚々と商談部屋の入り口から出て行った。

年を感じさせない軽やかさに、ペーターと目が合って少し笑った。


工房近くの酒場に連れられて、ルバークの長い夜が始まる。

会わなかった時間を埋めるように、各々の話をする。

これまでにどう生きてきたのか。

今がどれ程、幸せに暮らしているのか。

家族にも似た二人の存在も。


その後は、魔道具について話した。

いくら話をしても尽きることの無い話題であった。

気がつけば、酒場に朝日が差し込んでおり、テーブルの上には空いた酒瓶でいっぱいになっていた。


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