第118話 グランドマスター
廊下の奥の部屋は他とは違い、扉に重厚感があり、細かな装飾が彫刻されている。
「ここがグランドマスターの部屋だ。・・・開けるぞ、いいか?」
リンデンがドアノブに手を掛けながら聞いてくる。
「ねぇ、リンデンさん。グランドマスターってなんなの?サンテネラのマスターとはなんか違うの?」
「そりゃあ、違ぇだろ。王都のグランドマスターってのは、それぞれの街にいる冒険者ギルドマスターの上に位置する立場だな。要するに、ベルカイム王国内で一番偉い冒険者ギルドのマスターってことだな。」
「へぇ~、そうなんだ!どんな人なんだろうね、強い人なのかな?ねぇ、ダイク兄!」
ロゼは後ろを振り返りながら、俺に話を振ってくる。
「ん~、どうなんだろうね。・・・まぁ、会えばわかるよ。リンデンさん、開けてください。」
そう言ってリンデンは、重そうな扉を開けて俺たちを中へと招き入れた。
中は応接室のようになっており、部屋の中央にテーブルとソファがある。
壁際には豪華な飾りの施された武器や風景画のようなものが飾られている。
「あれっ、いねぇな・・・。まぁ、座って待ってろよ!俺は戻るからな!解体の仕事が残ってるんだ!」
リンデンは部屋に入ってすぐにある四人掛けのソファに俺たちを座らせると、部屋を出て行った。
「リンデンさんも忙しいのね。それにしても、このソファ、座り心地がいいわね!王都で買えるのかしら?」
「お前さんの家にあるソファと、そんなに変わらんと思うがのう。じゃが、ソファに刻まれている飾りの方が気になるのう。」
「ボクはそんなことより、お腹が空いてきたなぁ・・・。」
三人はそれぞれに話のかみ合わない会話を続けている。
笑いながら聞いていると、カチャリと扉が開いて若い女性がお茶がのったトレーを持って部屋に入ってきた。
「待たせたね、お茶だ。どうぞ、飲んでくれ。」
お茶を四人に配ると、向かいの席にも一つ置いて席に座った。
「初めまして。グランドマスターのマティル・ド・ヘイズだ。マティとでも呼んでくれ。」
マティが自己紹介をすると、部屋には沈黙が訪れた。
まさか、こんなに若い人が王都の・・・、しかも、グランドマスターなのか?
向かいで足を組んで座っている細身の女性をまじまじと見つめていると、目が合ってしまう。
「は、初めまして。俺はダイクです。隣にいるのは弟のロゼ。その隣にルバークさん。ガンドさんです。ジョセフさんから招聘状を受け取ったので、王都まで来ました。これが招聘状です。」
鞄から羊皮紙を取り出して、マティに渡す。
「ありがとう。よく来てくれたね。これから王城の担当者と相談して、いつ王と謁見してもらえるか確認させてもらうよ。悪いけど、それまで魔族領に行くのは待ってもらえるかい?」
マティはそう言うと、招聘状を確認することなくテーブルの脇に置いてお茶を飲んだ。
「ちょ、ちょっと待ってください。王様と謁見するんですか?そんな話、聞いてないんですけど・・・。」
「そりゃあ、そうでしょ。言わないように私がジョセフに言い聞かせたからね。悪いけれど、君たちのことは調べさせてもらったよ。王に会ってもらうって言ったら、君たちは王都を避けただろう?騙した様ですまないが、王が君たちに会いたがっているんだ。」
「王って偉いんでしょ?なんでボクたちに会いたがっているの?」
マティの視線が俺からロゼに移った。
その隙に乾いた口を潤すために、お茶を一口頂いた。
「君たちは魔獣木を報告してくれたじゃないか。そのお礼をしたいんだよ。王はね。・・・それと、ルバーク。君のことも、もちろん調べさせてもらっているよ。」
マティが言うと、視線の端でルバークがビクッと体を震わせたのが見えた。
「いや、そんなに怯えないでくれ。君は前に、ナザレという村にいたんだね。そこで世話になっていた親方は今、この街に移り住んでいるよ。」
「おっ、親方が!?・・・なんでこの街に?」
ルバークは前のめりになって、テーブルを叩いた。
「ナザレは魔獣に襲われて壊滅的な状況だ。村人たちは逃げてもらっていたから、人的な被害はないけれどね。あの村の魔道具工房は優秀だったから、この機に王都へと来てもらったんだ。ルバークさえよければ、親方と会ってみないかい?」
マティは優しげな表情を浮かべて、ルバークを見つめる。
「わ、わたしは・・・。少し、考えさせてください。・・・ナザレのことも知らなかったので、整理してからでもいいですか?」
「もちろんだよ。・・・もう日が沈んでしまったみたいだね。今日のところはここまでにしておこうか。顔合わせは出来たし、今日の成果としては十分だ。宿は用意してあるから、安心してくれ。この続きは明日でいいかな?」
マティは残っていたお茶を一気に飲み干して、スッと軽やかに立ち上がった。
「飲み終わったら、カップはそのまま置いておいてくれ。宿までは門から案内してくれた兵士が連れていってくれるよ。王都にいる間は、その宿で寝泊まりしてくれ。それじゃあ、また明日ね。」
マティは軽く手を振って、部屋を出て行った。
俺たちは頭を下げて、グランドマスターを見送った。
「ルバークさん・・・。大丈夫ですか?少し、顔色が悪いみたいですけど・・・。」
一点を見つめて、ぼんやりとしているルバークに声を掛ける。
「ほんとだ!ルバークさん、体調悪いの!?」
ロゼも心配そうに、ルバークの顔を覗き込む。
「フフフ、大丈夫よ。少し驚いただけなの。ふぅー、本当に吃驚しっぱなしだったわね。ガンド君、聞いていたからわかるでしょうけれど、少しこの街に滞在しないといけないみたいね。」
無理な笑顔を浮かべて、明るく振舞おうとしているのが分かった。
「わしのことは気にせんでよいぞい。ひとまず、用意されておる宿にでも向かうとでもするかのう。ここよりはゆっくりと考えることができるじゃろうて。」
ガンドはお茶を飲み干して立ち上がる。
俺たち三人もガンドに続くようにお茶飲み干して、立ち上がった。
一応カップをまとめて、魔法できれいにしておいた。
冒険者ギルドを出ると、ここまで連れてきてくれた兵士が待っていた。
「すいません。遅くなりました。」
「お疲れ様でした。いえ、これが私の役目ですので、気にしないでください。本日の用事はお済ですか?」
「終わりだよね、ダイク兄?」
「はい、今日のところはもう用事はありません。」
「そうですか!それでは、宿までお連れします。馬車の中でお休みください!」
馬車に乗り込むと、兵士がロデオの手綱を牽いて歩き出す。
ゆったりとしたスピードで、王都の街並みが窓を流れていく。
ルバークに声を掛けようかとも思ったが、窓の外を見て悩ましい表情を浮かべていた。
考えているところを邪魔するのも無粋なので、そっとしておくことにする。
王都の冒険者ギルドは、門から入ってすぐの大通りに面していた。
馬車は大通りを門から離れるように、街の中央に向かって進んでいく。
「市場はどこにあるのかな?あっ、あそこのお店は何屋さんだろうね。ダイク兄!」
暗かった馬車内もロゼのお陰で、少し和んだ気がする。
「この街は王都だから、美味しいものがいっぱいあるよ。せっかく滞在できるんだ。いろいろ見て周ろうな、ロゼ。」
「うん、そうだよね!楽しみになってきたね!」
街の中央に進むにつれて、建物の高さが増して造りも立派なものになってくる。
こんなところに宿が本当にあるのだろうか。
そんなことを考えていると、馬車は停止して扉が開けられた。
「お待たせしました。こちらが皆さんにお泊りになっていただく宿です。」
兵士の指差す先には、綺麗な白磁の外壁の高級そうな建物があった。
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